11 何故?
「お待たせいたしました、殿下」
「ああ、来たか…」
私は支度を終わらせた後、急いで王子殿下のいる客室に向かった。
待たせた以上は、と思って一応謝ったけれど…。
何故か殿下は私を一目見て固まった。
「化けるもんだな…」
「?何か言いましたか?」
「…ああ、いや…お前、顔合わせの時も王妃教育に来た時も、化粧してなかったのか?」
「そういえばそうですね。まだ子供ですし、必要性を感じなかったので。
今回も本当はしたくなかったんですけど、メイドに懇願されたので」
私は、お化粧って面倒だし、好きじゃないんだけど、メイドさんたちにとって、パーティーに向けて着飾ったのに化粧をしないことはあり得ないらしい。
化粧担当のメイドさんの必死の懇願を思い出して、思わず苦笑してしまった。
「…」
「殿下、黙りこくるなんて、らしくないですよ。それに、女が着飾って来たら、一も二もなく褒めるものです」
「…そうだな。ああ、…綺麗だぞ…。」
「ありがとうございます」
殿下がしっかりと褒めてくれたので、私もにっこりと笑ってお礼を言った。
すると、殿下はまた少し固まった。
…心なしかその顔は落胆しているようにも見えた。
何故だろう?
「どうしたんですか、殿下?今日は少し変ですよ?」
「…気のせいだろう。さあ、パーティーに遅れる。急ごう。」
「…?…そうですね。エスコート、お願いします。」
「任せろ」
頼もしげにそう言った殿下はもう普段通りだった。
だから、私は気にせず殿下と共にパーティーに向かった。
思えば、これはあの長い苦しみの予兆だったのかもしれない…。




