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96 死んだんじゃなかったの?
風が止んだ。
凄まじい風で閉じていた視界が、ようやく戻る。
「…………うふふ、ふふ、ふふふふふ…………。
―――臆病な公爵さまに、たくさんの感謝を――
―――愛すべき伝説の聖女に、たくさんの慈悲を――」
大仰に合わせた手と手を上に上げ、こちらを見てニコリと笑った。
「―――久しいね、元気かい?」
誰だ、と聞こうとした口を、バッとメルサ・カペラが塞ぐ。
「死んだんじゃなかったの? アルル」
は?
「私は元来の転生者なんだよ。君たちみたいな偽者じゃない」
スッ、とメルサ・カペラを指す。
「使える魔法は、君らの何百倍にもなる。
………アモルはあっという間に喰われちまったさ。ここに本家アルルベッドの爆誕、ということかね」
「………あのね。あんたは今のアルルじゃないじゃないわよ。だから立派な偽者よ。現に彼女は、魔法が使えなかった」
「手厳しいことだ。では私は、初代聖女と名乗ることにしよう」
くる、とこちらを見た。
「善と悪の混じった、初代聖女さ。怖いかい、坊や?」
「…………お前は、アルルなのか?」




