93 引き下がれると思います?
「さて、と」
私は彼女へと向き合った。
「今更ですが、なぜここに? いきなり寝起きに現れられて、私も少し寝ぼけましたが………まるでこれでは、あなた自身が夜這いでもかけに来たようですよ」
さっきの迂闊な言動をやんわりと修整しておく。
あんな夢の後に現れるものだから、本当に彼女こそ"アモルサラン"なのかと思ったじゃないか……野次るようにそう目を向けた。
――まぁ実際、まだ思ってるが。
「ふふふ………私は事実、あなたに興味がありますよ」
「ほぉ………では、姦通罪ででも、つきだされてくれますか?」
「残念ですね。綺麗な先生とめくるめく一夜というのも悪くないですが、先生は確か未婚でいらっしゃった筈ですから、罪は通りません……それにあの男も同罪ですよ、私と共に突き出すのですか?」
「………」
楽しそうにくつくつと笑った。
………それはもしや、お父様のことだろうか。
ふーん、本当に仲悪いんだなぁ。
「まぁそれはそうとレミさん。転生の本質ってなんですかー?」
「あぁ……それなら私も訪ねたいことが。やり残したことって何です?」
はぐらかすにしても、ただじゃ起きないらしい。
あのまましっぽ巻いて帰れば良かったのに。そうしたら面倒はなかったのに。………なんだかそんな、舌打ちせんばかりの内心が聞こえる。私一応先生なんだけど。
そうか………私に帰ってほしかったのか。私を害そうとした一連の流れも、それが目的かな。
で、今踏み込まれるつもりのなかったところに踏み込んでると。
ふーん?
「私は結構、負けず嫌いなんですよ。あんな舐めたマネされて、引き下がれると思います?」
「………先生って公爵令嬢なのに、つくづくらしくないですよねぇ………」
呆れられてしまったかな。と、思ったら彼女が私を見た。
「……わかりました。まぁ私は所詮傍観者ですので、口出すところもありません、が………晴れて我ら冷たい北の国の人間に勝利したならば、お祝いに土産を約束しましょうか」
―――やれるものならやってみな。
私にはそう聞こえた。
「―――なるほど、それはいいですね」
約束だよ、と私はニッコリ笑った。
さぁやるか。




