88 可哀想ですし、
「………な、何?」
「……あちらから音がしたな……」
ギャアアアァァァァァッッッッ!!
どこかから、物凄い悲鳴が聞こえた。
まるでこの世のものとは思えないほど、おぞましいものを見たかのような………
「悲鳴だけで地獄絵図が思い浮かぶくらいの叫びでしたね………ちょっと、見てきます」
「私も行こう」
好奇心に駆られた若者たちは、悲鳴の上がったほうへと走った。
「このへん………あ、人だかり」
「通せ」
ツルの一声で、王子に気づいた人々が道を開ける。するとその先にいたのは…………蛇だった。
「あぁ……………なるほど。
ん? なんでこんなところに、蛇がいるんだ?」
悲鳴の理由を悟った王子は、しかし、首を傾げたのだった。
「それが私どもにもわからず………ご安心を、じきに騎士がきて駆除をしてくれるかと」
「それはあんな大声があれば騎士も駆けつけるだろうか………本当に何で、蛇?」
「うーん、このあたりには食べられるものもないでしょうしねぇ…………せいぜい花くらいしか」
貴族の出入りする場所は、屋外と言えど防虫は完璧だった。
「ふーん、白い蛇ですねぇ。少し小さいような………まだ大人じゃないのかな?」
「…………!? 何をしてる!?」
「キャァーッ!!」
ごく自然に、メルサ嬢は件の蛇を掴んで持ち上げていた。
「何って………この辺じゃ食べ物もないだろうし、出してあげようかと」
「令嬢が手掴みで捕まえるか、普通!?」
「いやぁぁ! 近づけないでッ! その手で近づかないでッ!!」
周りに集まっていたいいところのご令嬢・ご子息は、蜘蛛の子を散らしたように逃げていった。正直言って、王子も逃げたかった。
「あー…………ウチ、田舎なもので。蛇とか虫とか、結構身近なんですよ」
「そ、そうか………」
「殺すのとかは可哀想ですし、近くの森に放してきますね?」
その瞬間、グッタリしているように見えた蛇が突然身を起こした。
「……ッ!」
「あれ?」
そして蛇は、口をパクパクと動かした。さながら、何か伝えたいことがあるように。
しかし当然、わからない。蛇と人間の喉の構造は違うのだから、人の言葉は話せない。
「…………どうしたの?」
もどかしそうに…………なぜかそう見えた様子で、今度は尻尾を動かした。そしてあろうことか、何かを書いたのだった。
『ォ、`'ノフ/∣一ヶ>▷』
「………え?」




