84 君が迎えに行ってきて!
「………でも僕は、この地で何をするわけでもないよ」
「………? 不思議なことを言いますね。何か用があるから、わざわざ他国に来たのでしょう?」
「………そうだね」
思えば急な話だった。
学校から帰ったら家具がなく、この人が一人でうす暗い部屋に佇んでいたのだから。
何があったのか問えばはぐらかされ、ちょっと話をしようと馬車に乗せられた。
『…………里帰りをしよう? 僕の田舎に、君を紹介したいんだ』
と、そう言われた。用意は全てしたから、と。
もちろん不本意だけど、恩のあるこの人に頭まで下げされたら仕様がない。
それきり、何の説明もなしだ。
「じゃあせめて、どれくらい滞在するのか教えてください」
「―――ん、短くて一週間程度かな」
「………長くて?」
「……………一生?」
「…………………………はい!?」
とんでもない言葉を聞いた。
聞き違いだろうか? ああ、きっとそうなのだろう。
「……僕はそれでも良いんだけど」
「………何も良くありませんよ? というか、姉上と夫人はどうするのですか……?」
「そうだね………」
どこにいるのかすらよくわからない。
「………じゃあユウラム、君が迎えに行ってきて!」
「はぁ!?」
もう意味がわからない。
何を言い出すんだ、この人は。
胡乱な目を向ける僕をよそに、公爵は一人で納得したようだった。
「うん、それが良い! じゃあこれは地図と所在地のメモ。日が上る前にね!」
「??」
日が上る前に、とは?
暗号?
「よしじゃあおまけに、良い魔法をかけてあげよう。魔女も逃げ出す、素敵な魔法さ」
「えっ!? っと、うわああぁぁぁ!!」
突然目の前で公爵の手が白く光り、そう認識してまもなく気を失った。
「頼んだよ…………聖女さまを」
……もう公爵は、何でもアリということで。




