閑話 南の国を巡る人々[Ⅱ]
「大丈夫、私がいる。あなたには、幸せになる権利がある」
そう言って、あなたは、君は、死にかけて倒れた僕に憂いを帯びた笑顔で、笑いかけた。
無垢に、純粋に、人を気遣う。当たり前?
いや違う。僕はこんな目を、もう長いこと見なかった。
ねぇ僕は、昨日も人を殺したんだ。
爆弾が来るのはわかってたのに。声を出してここにいることをバレるのが怖くて、歩いて行ったのを止めなかった。
ねぇ僕は、何年も涙が流れないんだ。
死んだ人には、家族も友達もいたのに。ただ流れていく川のように、漠々と気持ちが、時が流れて行く。
僕は何も受け入れることができない。身体はどんどん大きくなるのに、どうしてか、心は子供時代に残されたまま。
今でもずっと、迷子になってるみたいなんだ。
………助けて。
……………助けて。
………綺麗な目をした、天使さま。
「………違う」
「…………私は、天使じゃない。無力な、けれど抗う、ただの理想家ですよ」
そう言って、いたずらっ子のような顔をした。
そんな聖女さまは、僕の苦悩を呆れたように笑い飛ばした。
「………人間はみんな、利己的です。自分として生まれて、自分の生を生きるのなら、それが当たり前ですよ」
「………あなたは? こんな紛争地に慈善を施すのは、利己的な人間にはできない」
「いいえ………私は聖女ですから」
「――――」
「と、言いたいところですが、私も結局、利己的。とても自分勝手です。ただ私はとびきり、そのスケールが大きいだけ」
「………?」
「世界を、変えたい―――こんな世の中をお仕舞いにして、理想の世界を作りたい」
その時の聖女さまは、今思うと、とても幼い顔をしていた。
そしてそんな彼女に乗った僕も、相応に幼い、いや………若かったのだろう。




