閑話 俺、子供だし。
王子殿下視点
「…まあ、そう怒るなって」
「…」
「不可抗力なんだって。はずみだよ弾み」
「…」
「そう、俺は母さんの怒った怖さをお前にも教えてやりたくて…」
「だからって普通、あんなにポンポンいたずらします!?しかも、後宮で!」
「だって、他の所でやると完璧な王太子のイメージが崩れるだろ?」
「おまけに、王妃様が来た所で謀ったかのように逃げて!」
「俺はMの趣味はないからな。お前がとろいんだよ。」
「私だってそんな趣味ありません!そもそも日々剣振り回してる王子様と違って、私はごく一般的な深窓の令嬢なんですよ!」
「いや、お前深窓なんて柄じゃないだろ?」
「失礼ですね!だいたい、何もやってない私がどうして怒られなきゃならないんですか!?」
「黙って見てたからじゃないか?」
「呆気に取られてたんですよ!」
「じゃあやっぱり、とろいからだな」
「怒りますよ‼」
「もう怒ってんじゃん」
とうとう俺の婚約者様は口をきかなくなった。
まあ、確かに少しやり過ぎたかもな。
むくれた顔で帰って行ったあいつを見送ったとき、ふと今日までのことが頭をよぎった。
俺があいつと関わるきっかけは、なんてことない政略結婚、ではないらしい。
平たく言うと虫除けだ。親父は公爵の親バカから始まったものだと思っているらしいが、多分あの公爵のことだから、俺が変な女に捕まらないようにという意味合いもあると思う。
国の情勢は長年安定しているから王族の後ろ楯という可能性はないし、公爵のことだから逆もまた然り。あの公爵は妻と娘さえ幸せなら権力なんてあってもなくても同じらしい。
まあ、親父も公爵も、難しい言い訳をグダグダ考えていそうだが結局の所、家同士のよしみだな。あの二人はなんだかんだ言って仲が良い。母さんと公爵夫人もだが。
そんな訳で婚約に至った訳だが、俺はあの時正直言ってうんざりしていた。
令嬢って、あれだろ?ごてごて着飾って無駄話してるんだろ?
ましてや、あいつは公爵家の一人娘だから相当甘やかされてとんでもないワガママ令嬢に育ってるんだと思ってた。
だから、無駄に関わられないように、嫌われることにした。
適当にオジョーサマにはあり得ないような礼儀に反する態度をとることにしたのだ。
ところが結果は見事に打ち解けることに成功。
あいつは意外とお高く止まってはいなかった。
俺は地で接することができる婚約者を手に入れた。
あいつが城に来たとき、少し母さんに対して態度が硬いように思えた。
自然に、親子になるんだからもっと気安くて良いだろう、と思った。
そう思って少し距離を近くしようと思ったんだが…。
少し、やり過ぎたかもな。
後宮のテーブルクロスを、片っ端からひっくり返して回ったり、各部屋の扉を施錠して回って最後に鍵を隠したり。
うん、確かに令嬢といるときにする遊びじゃなかったな。
でもまあ、母さんはすぐ飛んできたので、あいつに怒られる体験はさせてやれた。多分これで二人の絆は深まったに違いない。
ずいぶんと利己的な考えだが、しょうがない。俺、子供だし。
あいつにはかなり怒られたが、結果オーライだろう。
それに…
「見つけたわよ。今日はまたずいぶんと遊んだようね?」
そう、俺はまだ怒られてないのだ。
「…あいつがもう怒られたし、もう良いだろ?」
「貴方、本当に私が良いって言うと思うの?」
「…」
「さあ、こっちのお部屋へいらっしゃい」
母さんはこの場に似つかわしくない笑顔で手招きをした。
俺、今日一番の功労者なのにな…。
ふとそんな言い訳が口からこぼれそうになった。