第7話 いざダンジョンへ
夜、いつものように台所でゴリゴリと顔パックを作っていると――
「ねぇ、S級ダンジョンを攻略するのに強い契約獣が欲しいと思わない?」
「うちもそう思うの」
「わたしもでした」
「だけど魔物を味方に出来ないのはリオナのせいだろ」
――リビングのソファーでくつろぐ4人から、ただならぬ話が聞こえて来た。
あかん! 強い契約獣なんか手に入れられたら、俺は一生ここで顔パックを作る羽目になる!
「僕を連れて行ってください!!」
突然会話に乱入した俺の顔を4人が唖然とした顔で見て来る。
一瞬の静寂が流れ――
「……あははっ、冗談は止めろ! 貴様なんかオーガどころホブゴブリンにも勝てるか!」
「そうよ、あたしたちはとても強い魔物と戦ってるんだからね!」
「そうなの、ドラゴンに一撃死されてたら勝てるものも勝てなくなるの!」
「山田さんには家の事を頑張って欲しいでした」
4人の猛反撃を受けたが、ここで諦める訳にはいかない!
「1度だけ機会を下さい、直ぐに強くなります3日いえ1日で証明して見せますから!!」
「バカ言わないで1日で強くなれる分けないでしょ」
くっ!
スキルボードの話なんか出来ないしどうすれば……。
「ゴブリンロードです!」
「はっ?」
「ゴブリンロードに成るゴブリンは生まれつき話せるのです、だから僕もすぐに――」
「ゴブリンロード何て雑魚に今さら用はないわよ! くだらない話しは止めて早くパックを作って!」
リオナが鬼の形相で俺を睨みつける。
くそっ、この女、俺の力も知らないくせに!
「これまでのゴブリンロードは片言しか話せません!」
「!?」
「僕は亜種のゴブリンロード、つまり僕が成長すればオーガキングにも勝てます!!」
「……アハハ。なかなか面白い冗談だったわ」
「待てリオナ、もし本当にオーガキングに勝てるなら契約獣としては最高クラスだぞ」
「ちょっとミラ、本気でこんな話し信じる気なの?」
「ミラの言う通りなの、こんなに話せるゴブリンはゴブリンロードでも聞いたことないの」
「ブルーナまで……」
「ダンジョンに連れて行って下さい! 強くなって僕の話が本当だって1日で証明して見せます!!」
「リオナちゃん、山田さんにチャンスを上げて欲しいでした」
「ルチア……。いいわ1日だけよ、強くならなかったら覚えておきなさい!」
よし! 親友のルチアに頼まれてリオナが折れたぞ!
「有り難うございます! 強くなって必ずお役にたちます!」
感謝感激と俺は何度も頭を下げてお礼を言う。
だが心の中では――
誰がお前らの役になんて立つか!
みてろよ、強くなってきっちり復讐させて貰うからな!
――とよからぬ事思っていた。
◇
顔パックを作り終えた俺は、自分の犬小屋に戻ると毛布を纏った。
そして犬小屋から月を眺めながら感傷に浸ってみる。
長かったぁ……。
無駄に1年もブラックパーティで働かされた。
もしスキルボードと言う希望が無ければ、転生したらいいって間違いなく自殺してた。
逆に言えばスキルボードのせいで自殺できなかった。
最強ライフを手放すわけにはいかない。
母上の話では、エリックの野郎がゴブリンに転生する呪いを、俺に掛けてるらしいからな。
ともかく、やっとスキルポイントをゲットする機会が巡って来た。
これでエリックにも東方女神にも復讐できる。
そしてこの汚い犬小屋ともおさらばだ。
俺は横になると、もうすぐやって来る復讐の時を想像し、笑みを浮かべて眠りに就いた……。
○●○●○●
次の日――
「ちょっとあんた! もう3時間もダンジョンにいるのに、全然強くなってる気がしないんだけど!」
「うっ」
俺たちは現在C級ダンジョンにいる。
レベル上げに手頃な魔物が多いと言う事で、このダンジョンにやって来た。
俺の装備は帝都の店にあった異国の品だと言う脇差しに、子供用の皮の鎧だ。
もちろん付与魔法などはされていない、お粗末な装備。
まだ6階層だから敵は強くないし、リオナたちがいるので装備が悪くても問題は無い。
問題なのは俺が未だスキルポイントを獲得していないこと――あっ!
そうかっ!
「と、トドメは僕にやらせて下さい!」
きっとそうだ、自分で殺さないとダメなんだ!
敵が弱くて4人だから経験値が分散されてポイントがなかなか入らないと思ってたけど、ここまでポイントが得られないのは変だ。
「はあ!? それで強くなれるとでも思ってるの!」
「はい! そのハズです!」
俺は真剣な眼差しでリオナと目を合わせた。
「……分かったわ、そのかわりあと1時間で成果が無いようなら……」
リオナが獰猛な目付きで俺を睨む。
「あんたの睡眠時間は一生3時間だからね!」
「え!」
ふざけんな、俺はナポレオンじゃねえぞ!
21時間労働なんて出来るかよ!
◇
しばらく洞窟内を進むとゴブリンの奇襲を受けた、いや東方女神には奴らが分かっていたのだろう――瞬殺してしまった。
「さあゴブリンを瀕死にして上げたわ、これでいい?」
「ありがとうございます」
10匹以上のゴブリンが瀕死で動けずにいる、これだけ殺せば何ポイントか入るハズだ。
俺は動けないゴブリンに近づくと――
グサリ
――喉元に脇差を突き刺しゴブリンを殺した。
ん? ポイントが入った感じがしない、
(1匹じゃダメなのか……)
念のためステータスを確認する。
【名前】 山田さん
【種族】 ゴブリン
【ランク】 ゴブリン
【レベル】1
『スキル』
交渉術 1/3
物理耐性 3/3
魔法耐性 3/3
『アビリティ』
ゴブリンフェロモン
『ボイント残』 0/3
やっぱり入ってない……。
まあ何匹か殺せば入るだろう。
俺は2匹目に手を掛ける――ダメか。
3匹目――おい。
ポイントが入らない。
急に不安が俺を襲って来る。
何でだ……。
ポイントってそんなに入らないもんなのか?
微かに手が震えだす――もし今日強くならなかったら俺に未来は無い、そう考えると寒気がして来た。
震える右腕を左手で握り抑えながら4匹目のゴブリンにトドメを刺す。
ピコーン
(来たぁ――っ!!)
女神バンビに聞いて、設定していたお知らせ音だ!
急いでスキルボードを起動する。
イメージとしては目の前に大きなパソコンが表れ、マウスを心で動かして操作する感じだ。
――もちろん他人には見えない。
ポイントが増えていたので直ぐに使う事にする――早く東方女神に強くなったと知らせる必要があるからだ。
考えていた候補は筋力と瞬発力。
やっぱり瞬発力だな。
筋力だと分かりづらいかも知れないし、いきなり岩を持ち上げて「強くなりましたよ」なんて言えないからな。
【名前】 山田さん
【種族】 ゴブリン
【ランク】 ゴブリン
【レベル】2
『スキル』
交渉術 1/3
【新】瞬発力 1/3
※1ポイントに付き瞬発力が100増加。
物理耐性 3/3
魔法耐性 3/3
『アビリティ』
ゴブリンフェロモン
『ボイント残』 0/3
んっ? レベルも2に上がってるな……。
レベルが上がるとやっぱり基本値が上昇したりするのかな?
「ちょっと何ボケっとしてるの、早くトドメを刺しなさい」
「あっ、はい。すいません!」
俺は急いで5匹目のゴブリンに取り掛かる。
続けて残りのゴブリンに次々トドメを刺していく。
8匹目 ……。
9匹目 あれ、ポイントが入りづらくなってるのか?
10匹目 ピコーン。 よし来た!
今度のスキルポイントはバランスを考えて筋力に振る。
【名前】 山田さん
【種族】 ゴブリン
【ランク】 ゴブリン
【レベル】3
『スキル』
交渉術 1/3
【新】筋力 1/3
※1ポイントに付き筋力が100増加。
瞬発力 1/3
物理耐性 3/3
魔法耐性 3/3
『アビリティ』
ゴブリンフェロモン
『ボイント残』 0/3
ん、いい感じになって来たぞ。
でもまたレベルも3に上がってる……。
……もしかして、レベルが上がった分だけスキルポイントが入るのか?
きっとそうだ!
レベルが上がる毎にポイントが入るから、入りづらくなったんだ!
11匹目。
12匹目。
13匹目。
と俺は残ってたゴブリン3匹にトドメを刺す。
「どう強くなったの?」
リオナは見るからに「そんなんで強くなるハズ無いでしょ、とっとと諦めなさい」と言う感じだ。
だから俺はリオナに――
「強くなりました!」
「えっ!?」
――つい見栄を張ってしまった。
くそっ、ここまで来たらしょうがない!
「初めてゴブリン神に魂を捧げたので、効果は高いハズです」
重要なのは初めてと言うところだ。
すぐに自分達より圧倒的に強くなると分かれば、始末されるかも知れないからな。
「……そういいわ、じゃあ次に会うモンスターで証明してみせなさい」
「はい、リオナ様!」
上から目線で言えるのも今のうちだぞリオナ。
てめえのその綺麗な顔を2度と拝めなくしてやるからな!
◇
さらに俺たちがダンジョンの洞窟内を進んでいくと。
広い空間に出た――小さな湖もあり森のオアシスと言った感じのする所だ。
「さあ、向こうもお待ちかねよ」
「えっ」
リオナの目線を追うと……、小さな湖の反対側にそれはいた。
群青色の大きな狼がコチラをジッと見ている。
「ダイアウルフよ。あの大きさならゴブリンが何匹いようと一溜まりもないわね。さあどうする?」
ふふふっとリオナが挑発するように笑う。
「山田さん安心して死んでください、わたしが復活させるから大丈夫でした」
(死んでくださいって……。その点はまあ、安心だけど)
微妙な目でルチアを見る。
そして俺はリオナに向き直ると――
「やります!」
――賽を投げた。
俺はゆっくりと小さな湖に沿ってダイアウルフの方へと歩き出す。
こちらを見ていたダイアウルフもまた俺に向かって歩きだした。
(小さなゴブリン1匹だからと嘗めてるな)
距離が30メートルに詰まったところで俺は歩みを止めた。
だがなおもダイアウルフは詰め寄って来る……。
もはやダイアウルフの射程圏内、逃がすつもりは無いらしい。
後ろを向けば一溜もなく殺られるだろう。
俺はジリジリと後退りをはじめる。
それを見て勝利を確信したダイアウルフが勢いよく走り始めた。
あっと言う間に間合いを詰め。
――俺に両手を広げて飛び掛かって来た!
(狙い通り!)
ダイアウルフの飛び掛かりを瞬発力レベル1で左にかわした俺は――
ズバアアーッン!
、――未だ空中にいるダイアウルフを力任せ(筋力レベル1)に斬り捨てた。
まさに会心の一撃!
もう一度やれと言われても無理です――俺は戦闘民族じゃないので!
「うそっ!!」
「何ぃ!」
「っ!?」
「び、ビックリなの!」
よく聞こえる俺の耳が、遠く離れた東方女神の驚く声をキャッチする。
ちゃんと見たようだな、この俺の華麗な剣さばきを!
言っとくけど俺様に惚れるとやけどするぜ。
ピコーン
(おっ)
スキルポイントゲットのお知らせ音だ。
さて次は何にしようかな?
それにしても瞬発力はかなり役にたったな……。
回避しまくったら無敵じゃないか?
瞬発力にかなりの手応えを覚えた俺はもう一度瞬発力にポイントを振る事にする。
【名前】 山田さん
【種族】 ゴブリン
【ランク】 ゴブリン
【レベル】4
『スキル』
交渉術 1/3
筋力 1/3
瞬発力 1/3 ⇒ 2/3
物理耐性 3/3
魔法耐性 3/3
『アビリティ』
ゴブリンフェロモン
『ボイント残』 0/3
やっぱりレベルも上がってるな。
「ちょっとあんた!」
「あっ、リオナ様見てくれました! 俺、頑張りましたよ!」
ポイントを振ってたら、いつの間にか俺の後ろに4人が来ていた。
俺は大袈裟にわざとハアハアと息を乱して、動けなかったアピールをしておく。
「貴様やるではないか」
「山田さんスゴイでした」
「見直したの」
ミラ、ルチア、ブルーナの初めての賛美を受け――ちょっと嬉しい。
でも復讐はキッチリさせて貰う、残念だったな。
「リオナこれなら認めてやってもいいんじゃないか」
「そうね、まあ認めてあげなくもないわ。それで、どれくらいでオーガキングを越えられるの?」
「えっ? そうですね……ゴブリンは成長が早いので。……1年くらいかと」
あっと言う間に越えるよ。
なんて事は口が裂けても言えない、危険過ぎる。
ついでにゴブリンは成長が早いのでと、急に強くなっても安心してねとアピールもしておく。
だがリオナは――
「そんなに掛かるの」と言う渋い表情をした。
「あっ、もしリオナ様たちが手伝ってくれたら3月、いえ1月も掛からないかも知れません!」
「1月も付き合える分けないでしょ!」
「待てリオナ、1月で最強の契約獣が手に入るなら価値はあると思うぞ。それにいざと言うときは殿も任せられるだろ」
「……ミラ、あなた頭いい!」
リオナは「やだミラってば天才!」と言う顔だ。
全然よくねえよ。
それって俺に身代わりになって死ねって事だろ。
忠誠心ゼロの俺に殿任せるとか、お前らの頭はお花畑か!
「ミラちゃんに賛成でした」
「いいアイデアなの」
「聞いての通りよ、1ヶ月あんたに付き合って上げるから感謝しなさい」
リオナはフフンと大きな胸を張った。
「ありがとうございます! 皆様のお役立てるよう頑張ります!」
馬鹿どもめがそう都合よくいくかよ。
奴隷紋があるからって安心したら大間違いだ、きっと奴隷紋もなんとかなるはずだ。
だが俺のレベル上げを手伝ってくれると言うのはありがたい、クククッ。
まさに――
――鴨が葱を背負って来やがったぜ!
第4回 東方女神ランキング 髪の綺麗さ編
1位 勇者リオナ 美しい漆黒の黒
2位 聖女ルチア 輝く黄金の金髪
3位 戦士ミラ それなりに綺麗な赤毛
4位 魔導師ブルーナ 単なる緑
リオナ 「山田さん分かってるじゃない」
ルチア 「わたし頑張りました」
ミラ 「あたいがそれなりだぁ、やまだぁ覚悟は出来てんだろうなあ」
ブルーナ 「う、うちが単なる緑色……」
ディアベル「こ、これは僕個人の感想なのでお気になさらずに!」
ブルーナ 「エクスプロージョン!!」
ディアベル「以上を持ちまして1位を2度も獲得されたミラ様が優勝と成ります」
ブルーナ 「ちょっと待つの! 最後の年齢編はやる必要がなかったの!!」
リオナ 「あたしまだ優勝してないんだけど!」
ルチア 「優しさランキングなら1位でした」
ディアベル「わかりました、では次回は美少女ランキングをやりましょう! 山田さんチャンスでポイント3倍です!」
リオナ 「山田さんはあたしの契約獣なんだから……、分かってるよね?」
ミラ 「やまだぁ、まさかあたいに恥はかかさないよな?」