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第5話 東方女神と俺の夢

時は流れ……

一年後。


青い空にゆっくりと流れる曇。

見渡す限りの草原。


その静寂を俺が破る!


「うおりゃぁぁーっ!!」


大人に成長した俺の足が力強く大地を蹴る。


だがゴブリンなので身長は120㎝と小柄、しかしその分加速は早い。


十分な速力を得た俺は前方の敵に瞬く間に迫る。


抜刀一閃。


(一撃で決めてやる!)


左腰の剣の柄に右手を伸ばして握りしめ、左手で鞘を押さえる。


短く赤い髪をした女戦士を射程圏に収めた俺は素早く抜刀し、身体を真っ二つにして女戦士の横を駆け抜けた。


――そう二人の刃が交わる事など絶対にないと俺には分かっていた、実力が違うのだ!!


「ぎゃああああーっ!! ルチアさまぁー」


「山田さん大丈夫でした?」


 ミラに上半身と下半身を真っ二つにされて苦しむ俺を見て、ルチアは嬉しそうに駆け寄りパーフェクトヒールを唱える。


 ――そう、これはいつもの光景だ。


 可愛い子供のゴブリンから肌のゴツゴツした、いかつい大人のゴブリンになった俺に東方女神の連中はまったく容赦しなくなった。


 稽古と称して俺をいたぶりストレス発散してるのだ。


 ダンジョンに連れて行って貰えない俺は、あれからスキルポイントを一度も獲得していない。


 だがスキルポイントを獲得していなくても努力でスキルが手に入ると分かった。


 こられが今の俺のスキルだ。


 【名前】  山田さん

 【種族】  ゴブリン

 【ランク】 ゴブリン

 【レベル】1


 『スキル』 

    交渉術   1/3

 【新】物理耐性  3/3

 【新】魔法耐性  3/3


 【新】料理   1/3

 【新】お掃除  2/3

 【新】顔パック作成  3/3

 【新】全身パック作成 3/3


 『アビリティ』 

    ゴブリンフェロモン 



 物理耐性と魔法耐性がMAXなのは、リオナとミラ、ブルーナたちに殺られまくっているからで間違いない。

 次から顔パック作成とかのスキルは見たくもないので非表示に設定しておく。


「次はウチの番なの」


(ちっ)

 言った側から次の刺客が来やがった。

 俺は剣を構える。


「パラライズ」


 ブルーナの麻痺魔法を受けた俺は本来なら動けない――だが俺の魔法耐性はMAX。


 痺れる足を引きずりながらブルーナの元へと向かう。


「エクスプロージョン!」



 …………


「山田さん大丈夫でした?」


 魔法で木っ端微塵になった俺の身体を再生させ、天使の顔で仰向けに倒れる俺の顔を覗き「大丈夫?」と優しく声を掛けてくる聖女ルチア。


 ――だが俺はもう知っている!

 ――この聖女もどきの本性を!


 こいつは自分の手を汚すのは嫌だが、人が痛ぶられているのを見るのが大好きな変態さんだ!


 それに気づいた時の事を今でも鮮明に覚えている。


 東方女神と出会って1月が経った頃……。

 ミラにボロクソに斬られルチアに無様を晒していた俺は「もう見ないでくれ」とルチアを見た、その瞬間再びミラに斬られた俺の身体からプシャーと血が吹き出した。

 それを見たルチアはうっとりとーー口角を上げた。


 ――その時に俺はルチアの本性に気づいてしまったのだ。


 その後、なかなかルチアは尻尾を出さなかった――訓練中にじっとルチアを見る事は不可能だった――だが普段の態度からルチアも悪魔だと確信した。


「ええ、大丈夫ですルチア様」


 俺の言葉を聞いて「良かった」と胸を撫で下ろす姿は実に聖女らしい……俺は騙せんぞ。


 なんせこの聖女もどきは平気で禁術を使いやがるんだ!


 ブルーナのエクスプロージョンをまともに食らえば肉片すら残らない。

 だから一年前は予め肉体の一部を切り取りパーフェクトヒールと禁術の魂縛魔法を併用して強引に復活させていたのだ!


 そして今は――

 リバースヒールなる、肉片すら必要としないオリジナル魔法を編み出していた。


 なお、今の俺の魂はゴブリンとして定着しているらしく人間には戻る事はなかった。


「じゃあ次はあたしの番ね」


 名乗り出たのは俺の契約者であるリオナ=オバラ。

 東方女神のリーダーにして勇者である。


 今から10年前にケルシア帝国の神官たちにより異世界から召喚されたのだが、当時はまだ幼かったため皇帝の命により教会預かりとなった。

 そこで聖女もどきのルチアと出合い親友となったそうだ。

 そして数年前に再びケルシア皇帝に召し出されるとミラとブルーナを紹介され、冒険者グループ東方女神を結成するに至ったとか。


 つまり東方女神は大帝国ケルシアが最も期待しているパーティの1つだ。

 東方女神はその期待に応え1月前にAランクに昇格した。

 だがその彼女たちを持ってしても、まだSランクダンジョンの攻略は厳しいらしい。


「山田さんは今日は剣がいいかな? それとも魔法?」


 俺を現実に引き戻す悪魔の声が耳に入る。

 リオナが楽しそうに俺に近づいて来るが俺の方は全然楽しくない!


 リオナが言っているのは――要するに剣で殺られたいの? それとも今日は魔法で逝っちゃう? なのだ。


 リオナはがちで俺を練習台にする。


 魔法や剣技を放っても狙いをわざとずらして致命傷を与えず、さらに自分でダメージを与えておきながら俺に回復魔法まで掛ける! 人でなしとしか言い様のない酷い女だ!


 俺のお陰でリオナの熟練度は今や相当なもんになっている。

 その代償に――


「ぎゃああああー」 


 ――今日も俺が悲鳴を上げる事になる。


 リオナは剣で俺の腕を切り落とすと、「大丈夫ぅ?」と笑いながらパーフェクトヒールを掛けて元通りにくっつけた。

 最近彼女がパーフェクトヒールを出来るようになったのはもちろん俺のおかげ。


 その後も東方女神が、入れ替わり立ち代わり俺をいたぶった。

 俺の絶叫は実に6時間にわたり続いたのだ。


 ――東方女神許すまじ!!!


 俺は知っている!

 悪魔の癖に奴ら4人の夢は可愛いお嫁さんになる事だ――フンっ、笑いが出るわ!!


 しかも相手は優しくてイケメンの王様か王子様じゃないとイヤと来たもんだ! 

 人生嘗めてんのかコラ! 


 えっ!? そのために慈善活動もして、冒険者も頑張ってますだぁ!

 ふざけんな、外面良くするならまずは俺に優しくしろ!


 残念ながらお前らの努力は全て無駄に終わる事になる。

 なんせ俺の夢はお前らの夢を潰す事に決まったんだからな!!


 絶対に解除出来ない呪いのアイテムを見つけて、その綺麗な顔を殴りまくって2度と戻らない醜い顔にしてやり、更には呪われた破宮のアイテムを装備させて子宮を壊してやる!!


 つまりお前らの夢は――


 ――ジエンドだ!!!


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