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第1話 再会と別れ

 グホッ、ゲホゲホ。


 ――呼吸が苦しい。


「よかった生きていたのね」


 ――母上の声だ。

 よかった生きてたって事は俺は助かったのか?


 まぶたをうっすら開けると、そこには愛する母上の顔があった。

 目から涙を溢しながら俺に優しく微笑んでくれている。


「ごめんね……」

 母上が泣きながら俺に謝る。


「アガッ!?」

 くそっ、声が上手く出せない、これは死にかけたせいか?

 俺は伝えたい言葉を心にかみしめる。

(母上何を言われるのです、母上が謝る事など何もありません)


 「ごめんね……」

 母上は再び謝ると俺の頭を優しく撫でた。


「アガ、ウウッ……」

(母上俺の方こそ情けない息子ですいません!)



「ごめんね……あなたを人間に生まれさせてあげられなくて」


 ……は!?


 気づくと! 母上は憐れむような目で俺を見て頭を撫でている。


「ごめんね……あなたのお母さんを守ってあげれなくて」


 は? 本当に何を言ってるんですか!? まさか……正気を……。


「私はあなたのお母さんのお母さん、お祖母ちゃんよ」


「アガッ……」

(母上しっかりして下さい! 俺は息子のディアベルです!)


 「くそっ、これはどういうことだ誰かいないのか」と俺は辺りを見渡す。


 薄暗く廃墟のように荒れているが大きな部屋だ。

 造りからしてそれなりの貴族が住んでいたと思う。


 さらに足元の方に目を向けると――


(え!? そんな……まさか……あれはリリアナなのか……?)


 リリアナらしき人物が壁にもたれ掛かりーー腹を裂かれて死んでいた。


(嘘だろ……)


 気づくとリリアナの遺体の周りには顔は見えないが耳が長く、肌がごつごつした感じの赤ん坊が三人も張り付いていた。


「あれがあなたのお母さんよ……あなたはお母さんの命と引き換えに生まれた大切な子供。周りにいるのはあなたのお兄さんたち……それにもうすぐ弟も生まれるわ……」


 そう言って母上は視線を自分のお腹に向けた。


 つられてその方向を見ると――なっ!? 母上そのお腹は!!

 そんな………誰が……誰が母上を孕ませたんだ!!


 一体どうなってるんだよ!

 母上とリリアナに何があったんだ!


 俺は母上のお腹から目をそらすため、母上とは逆の左方向に思いきり首を曲げた。

 目の前の壁には大きな鏡が立てかけられたいた。


「!!」


 え……これって……俺……なのか(„„„)!?


 鏡に写っていたのはいつもの金髪の美少年の顔じゃなかった。

 耳の尖った醜悪な獣の赤ん坊の顔だ。


「うがああああああーっ!!」





 ◆◆◆◆◆◆



 俺は金髪の美少年から醜いゴブリンの赤ちゃんへと転生したあの日から、多分3ヶ月くらいの時が過ぎたと思う。

 俺はあれからずっと放心状態になっている。


 ――失った恋人や幸せ。

 ――母上の惨状。

 ――リリアナの死。

 ――ゴブリンへの転生。


 心が壊れたらしい……。何もやる気が起きない、動く気力すら出ないのだ。


 俺は心を閉ざした――いや、閉じたんだ。

 俺にはどうにもできない。

 俺の心は深い海に沈み死んでしまったようだ。


 俺は何も話さず動く事すらしないのに母上はずっと俺の側にいてくれている。

 他の元気な兄弟たちは二月ほどで子供部屋に移されていったが、俺は手元に残して面倒をみてくれた。


 時おり、今の俺の父親とおぼしきゴブリンが、母上を抱くために部屋にやって来た。

 ゴブリンなのにとても威厳がある、多分ゴブリンロードだ。

 なによりこの部屋で母上を抱いたのがそのゴブリンしかいない――ここはゴブリンロード専属の女の部屋なのだろう。


 普通のゴブリンは話せないが、ゴブリンロードは少し話しをする事が出来た。


 そして母上に――


「ソレ……ステロ……ヤクタタズ……」


 ――と動かぬ俺を指差して言った。


 母上は身を差し出して俺を庇ってくれた。

 そのせいで母上は今、再びゴブリンの子供を身籠っている。


 母上は毎日、言葉の通じない俺たちゴブリン兄弟に語りかけた。

 リリアナと母上がロートブルグ王国の人間だった事や、大きくなったらエリックを殺して欲しいなど。


 そして俺には――


 「わたしの息子ディアベルはエリックと言う悪い王様に殺されたの、その王様はディアベルにゴブリンに転生する呪いを掛けてしまったの、だからわたし何だかあなたがディアベルの生まれ変わりのような気がし放っておけないわ」


 ――と言っていた。


 ゴブリン兄弟たちが子供部屋に移った後も、手元に残ったまったく動かない俺に母上は語り続けた。

 よく母上は「貴方と二人でいると本当に息子のディアベルといるみたい」などと言った。


 そして今――


「ルミナを殺して」


「!?」


 一瞬、俺の脳裏にルミナの姿がよぎった。

 それは深い海の中に沈んでいた俺の心に届いた光りだった。


「ルミナは私の息子を裏切って死なせた悪い女なの」


 ――俺の心が急速に浮上して来るのが分かる。



「……はは……うえ……」


 俺の言葉を聞き母上は一瞬驚いた、やがて涙目になりながら俺を胸に抱き締めた。


「あなた……本当にディアベルみたいだわ……」


「はは……」


「母上俺はディアベルです」と全てを伝えよう思った――


 ――だが今の俺はゴブリンだ。


 こんな姿を見られたくなかった、いやゴブリンになったと知られたくなかった。

 母上も喜ばないだろう、いやほんのひと時は再開を喜んでくれるかも知れない――だがその後は?


 そして何より俺は今の母上の姿を見ていたくはなかった。


 あの誇り高い母上が子供たちを失い、コブリンなんかに凌辱されて生きている理由がまるで分からない。


 復讐……?


 ありえない!

 母上は常々リリアナに辱しめを受けるくらいなら死を選ぶべきですと教育していた。

 その二人が何故死を選ばず生きて来たのか――フェロモンか!


 ――思えばゴブリンに犯された女性が自殺したと言う話など、まったく聞いたことがない。

 ――ゴブリンからは繁殖を有利にする特殊なフェロモンが出ているのかもしれない。


 ゴブリンの特殊なフェロモンか何かが自決をさせなかったんだ!

 でなければリリアナにこんな生活が耐えられるハズがない。


 ――壊れかけのベッドに、黄色く変色し破れてしまった布団。その上でゴブリンに凌辱され続ける生活なんて!!


 リリアナが自決しなかった、いや出来なかった理由がゴブリンのフェロモンのせいなら説明がつく。


 ――ならば今も母上は本当は死にたいのに死ねないのかも知れない!


 俺は母上の懐から逃れ、すっくと立ち上がる――ゴブリンは子馬と同じで生まれて直ぐに歩けるようになる、しかも俺は人間で言えば既に6、7歳になっていた。


「どうしたの……何を探しているの?」


 母上の言葉を無視して俺は部屋の中をキョロキョロと見渡し――見つけた!

 俺はテーブルまで歩いて行くと、果物ナイフの代わりにリンゴに刺さっているたんと、短刀を引き抜いた。


 それを持って母上の所に戻ると。

 短刀を両手で握り、剣先を母上に向けた。

 ゆっくりと少し腕を伸ばして剣先を母上の胸に当てる。


「……」


「……」


 ーー僅かだが長い沈黙。


「ゴメン」

 やっぱり俺には母上を殺せない!

 俺は伸ばした手を下ろした。


「いいわ、殺して……」


「!!」


「息子も娘も死んだのに死のうとは思わないの、でも生きたいとも思わないわ」


 母上が酷く辛そうに涙をこぼした。


(やはり母上は死にたいのに死ねないんだ)


 ――俺は意を決して母上の胸に再び短刀を当てた。


「ハハウエ……」

 俺は心で「母上お別れです、今楽にして差し上げますね」と言い涙を流した。


「あなたが大きくなったらエリック王を殺してね」


 俺は泣きながら頷いた。


 そして――


グサリ


「ンッ」


 ――母上の胸に短刀を突き刺した。


 母上は俺の顔を優しく両手で包みこむと――


「ありがとう……これでリリアナに……またあえる………わ……さよなら……でぃあべる……」


 ――と言いガクリと息絶えると、俺の胸元に倒れ込んだ。


「っ!? 母上えええぇぇぇぇ――――っ!!!」


 俺は愛する母上を抱き締め、名一杯叫んだ。



 次の瞬間――俺の見ている世界は一変し一面真っ白に変わった。


 そして突然目の前に現れた女の子が――


「初めてのスキルポイントゲットおめでとぉーございまぁーす!」


 ――と能天気な顔で笑って言った。


「は?」


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