事後報告
ベッドの下、フロアカーペットの上で、俺はパンツ一丁で土下座をしていた。
脛が俺の全体重を直に受け止めており、フロアカーペットのチクチクがチクチクと俺にチクチク食い込む。
そして、俺の両脇にはユウとビーストが、俺と同じような体勢で、眠たそうに眼をこすっていた。
さすがに二人は……ということで、二人はいつも通りの服を着た格好だった。
「あの、すみません。せめて、俺も服を着させてもらっていいですか?」
俺が申し訳なさそうに、手を挙げて懇願している相手は、ヴィクトーリア。
ヴィクトーリアは赤い顔で両腕を組み、なんだか不機嫌そうな顔で俺の事を見下ろしている。
「まったくおまえは、まったく……まったく、こんなことをして……アーニャに何と言えばよいのだ、まったく」
聞いてねえ。
ヴィクトーリアが嘆いている通り、部屋の外、扉の前でアーニャは待機している。
あの後――俺の痴態がヴィクトーリアという名の、忌々しい白日の下に晒された後、ヴィクトーリアが光速で、アーニャを外へと追いやったのだ。
「今後の受ける情操教育に悪影響を及ぼす」とのことらしい。
全くもってその通りだが、なんだか、俺の存在自体を猥褻物と言われている気がして、なんだか、すこしだけショックだった。
「……さっきから、誤解だって言ってるだろ。こうなったのはたまたまだ」
「ど、どうやったら、たまたま全裸のふたりと一緒に、たまたま寝ることができるたまたま!?」
「何動揺しまくって、語尾がたまたまになってんだよ。だから、本当に知らねえんだって! 昨日は酒を飲んでただけだって! それもひとりで、寂しくだって! 嘘じゃないだって! 信じてくれだって!」
「お、おまえも落ち着け。語尾が『だっけ』になっているぞ。……でも、だけど、そのあとの記憶はないのだろう?」
「そ、それはそうだけどさ……」
「だったら、ここは切り口を変えてみよう。被害者と思われる、そこの二人に話を訊くんだ」
「なんで俺が加害者みたいになってんだよ……」
「話は聞いていただろ? どうなんだ、ビースト」
「にゃ……、ニャーはにゃーんも覚えてないにゃ……」
「な、なにか、視線がこれ以上ないくらい、泳いでいるのだが!?」
「おま、おいおい……、うそだろ……」
「にゃ、ニャーが、う、うそにゃんてつくはずがないにゃ。ご主人が意外と、情熱的だったにゃんて……そんにゃことはなかったにゃ……」
「な、なんということだ……ゆ、ユウトのは、情熱大陸だったなんて……ごくり」
「アホかァ! なに言って……まじで!? 俺、マジでやっちゃったの!? 一線越えたの!?」
「……ゆ、ユウは?」
「思った通り、あたしたちの体の相性は最こ――ううん、なにもなかったよ」
俺の顔面から、サー……と、血の気が引いていくのがわかった。
「お、おい! ユウト! いま、おまえの妹が、何か、口走らなかったか? と、トンデモナイことを――」
「あーあ、バレちゃったね……、そうだよ。ヴィッキーの想像通りだよ」
「おまえはおまえで、なに開き直ってんだよ! え? まじで!? 俺、妹にも手を出した最低野郎なの!? これから俺、どの面下げて実家に帰ったらいいの!?」
「ゆ、ユウト、これはクロだぞ!? 限りなく真っ黒だぞ! 以前、こういうのは寛容だといったが、さすがにこれは……、た、ただれすぎだ! おまえたち兄妹と、そのペットはただれすぎだ!」
「いやいや、兄妹とペットっておまえ、そんな括りはさすがに悪意に満ち満ちてるだろ! もはや、悪意の塊だろ! そんなんじゃ俺、ただの変態じゃん!」
「ご主人は紛れもなく変態にゃ。そこは誇っていいにゃ」
「そうだよ、俺は変態だよ! なんか文句あっか!」
「なんなのだ、一体!? それに、ユウはまだ未成年だろ! よ、嫁入り前の乙女に、よく、こここ、こんなことを……、は、恥を知れ! 恥を! 逆に、わたしが教えてやろうか!? 恥を!」
「あ、結構ス」
「……ヴィッキーは天空人だからわからないけど、地上人はこれが普通なんだよ?」
「な……そ、そうなのか!? わたしが遅れているだけなのか!? 地上人は磁石のように、くっついたり離れたりしているのか!? マグネットスタイルなのか!?」
「なわけねえだろ! ユウも、なに真顔でしれっと嘘ついてんだ!」
「う、嘘なのか……? ということは、やっぱりユウトはユウにあんなひどいことを! 正式に、勇者の酒場に捕まえてもらわなければ――」
「いえ。地上ではこれが普通なのです。これがいま流行りの、マグネットスタイルなのです。さあ、レッツマグネット」
「た、ただれている……! ただれているぞ……!」
「とにかく、だ。ヤったにせよ、ヤってないにせよ、いまはだな……ヴィクトーリア」
「な、なんだ!? わたしは……いやだぞ!? その……マグネットスタイルじゃなくて、はじめから段階を踏んでいく、従来の清らかなステップスタイルなら……その……吝かではないが……」
「いいから落ち着け。大事なことだ。おまえ、さっきなんて言った?」
「マグネットスタイル?」
「ちがう!」
「ステップスタイル!?」
「それもちがう! この部屋に入ってくる前だよ!」
「『アーニャ、昨日はよく眠れたか』……か?」
「戻りすぎだよ! そのときまだ起きてねえよ、みっちゃんがうんぬんかんぬんだよ」
「……そ、そうだ、こんなことしている場合じゃないぞ、ユウト! アネゴ殿だ!」
「みっちゃんがどうしたんだ!?」
「昨日、アネゴ殿が言っていただろ? 明日の朝には何らかの連絡を入れるって……来てないんだ」
「連絡がか?」
「そうだ。わたしはまだ、おまえほど、アネゴ殿との付き合いは長くないが、わたしはあの人が自分の言ったことを、簡単に反故にするような人にも見えなかった。そこのところはどうなんだ?」
「そうだな。みっちゃんはたしかに、子供のとき、『明日遊びに行く』と言ったら、台風の日でも、大雪の日でも、俺の家に来ていた。決まって翌日風邪をこじらせていたから……今も、どこかで風邪をひいているのかもしれない!」
「そ、それは……どうなのだろう……」
「これは……、行ってみる必要がありそうだな、ビト組に」
「ヴィッキー! まだー? 中で何してるのー? ユウトさんはー?」
「おっと、忘れていた……。アーニャー、すまないー、いまからアネゴ殿のところに行くことにしたぞー!」
「わかったよー! とりあえずー、入っていいかなー?」
「いいぞー」
「まあ、なんだ。その、ヴィクトーリア」
「む、なんだ」
「服、着ていいか?」




