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真っ直ぐ行って


 結局、俺が当初提案した案の五十パーセントが採用された。

『正面突破でぶっ飛ばす』の、その五十パーセントだから、『正面突破でこそこそする』になった。なんという間の抜けた響きの作戦だろう。だけど、現段階ではこれしか思いつかないってのもある。

能力上昇(アビリティブースト)

 かの悪名高きユウキ(豚野郎)も、俺のこの技を前にし、息絶えた(どこかへ飛んでいった)。効果は抜群。靴にかけてやれば、ものすごくジャンプする靴へと変貌を遂げる。

 しかし、これはうまく調整できないのが玉に瑕なのだ。

 あのユウキ(チキン野郎)は、あの高さから落ちたくらいでは、くたばっていないだろうが、普通の人間ではそうはいかない。

 ……うん、多分死んでない。多分な。

 というか、俺が直々に華麗に引導を渡すまで、くたばってもらっては困る。

 ……とまあ、個人的な恨みつらみは置いといて、これが現状を打破できる起爆剤となり得るのかと、問われれば答えはノーだ。

 自慢じゃないが、俺は体の弱さには自信がある。

 もしあのときのユウキ(牛野郎)と同じように、上空へ、面白おかしく跳んでしまったら、それこそ地獄の業火に抱かれて(地面に落下して)命を落とすだろう。

 それか、命は落とさないまでも、骨折するだろう。

 そんなのは嫌だ。

 痛いもん。

 そしてそれは、この生臭坊主様も同じみたいで――というか、よく考えてみると、あの高さから落ちて、死なない奴のほうが少ないよな。……ということで、この案も却下。

 俺たち、野郎ふたりは現在、神殿に入口付近であたりの様子を探っていた。



「こちらアルファチーム。特に問題らしき問題は見当たらない。ベータチーム、そちらの様子はどうだ?」


「ふざけてんじゃねえよ! どういう状況かわかってんのか!?」


「わかってるさ。感情任せに闇雲に突っ込んでも、敵の思うツボなんだよ。こっちには大きなアドバンテージがある。『相手に気づかれていない』っていう、な。ここは肩の力をいれる場面じゃなくて、抜く場面だ。気張ってんじゃねえぞ」


「……なるほど、不本意ではあるが、おまえの言うことにも一理あるかもしれんな」


「わかったら応答しろ」


「それとこれとは話は別だ。俺は慣れ合う気はない。……入口付近には特に誰もいない。さっきヴィクトーリアさんの攻撃で、倒れた魔物を探しにくる様子もない。これを好機とみるべきか否か……」


「いや、慎重にいくべきだ。あんなにデカイ爆発音だ。気づかないほうがおかしいだろ?」


「たしかに……しかし、それで魔物をけしかけてこないってのは、どういう了見だ?」


「……考えられる理由としてみっつ。まずひとつ、もうすでにあいつらは神殿内に罠を張っている。ということだ」


「はっ、じゃあ俺らは、ひたすら罠にかかるのを待っている、ネズミってわけか? 敵さんは余裕だな」


「取り乱すな。……ふたつめは……、まああまり考えたくないが、おっさんが抵抗してるってことだ」


「な、なんでそうなるんだよ!?」


「なんで、魔物がおまえらとおっさんを引き離したのかってことだ。ふつうに考えると戦力分断。各個撃破が目的だろ。その証拠に神官を全員殺した。ということは、おっさんがひとりの状況で魔物に攻撃されているというのも、不思議じゃあない。それが、俺らに戦力を割けないって理由なんじゃねえか? おまえんとこのおっさんは、腐っても元大神官だろ。抵抗しようと思えば、それなりに戦える」


「……くそ、で? みっつめは?」


「……いや、なんでもない。俺は算数ができんからな。ついつい盛って言ったんだ。忘れてくれ」


「………………」


「何だ、その顔は?」


「……いや、なんでもない。……それにしても、くそ! どの仮定にしたって、リスクがデカすぎる。前者だと思って慎重に動けば、ジジイが死ぬ。後者と仮定して急いで動けば、俺たちが手酷い反撃を喰らう……どうすればいいんだ」


「いい加減にしろ。おまえの目的はなんだ?」


「……魔物どもをぶっ倒して、ここを開放することだ」


「だろう? おっさんの命を助けることじゃないだろ」


「いや、だけどよ……」



 クリムトの顔を見る。

 どうやらまだ迷いを捨てきれていない様子だ。

 無理もない、そう簡単に気持ちを切り替えることはできない。

 ということは、やっぱりみっつめは言わないほうがいいかもな……。

 二つ目の過程だが、こっちからすれば、おっさんの存在は足枷にしかならない。

 だから、作戦を遂行する上では早めにおっさんには退場してほしいものだが……そんなの言えるわけがないからな。

 ……そして果たして、俺が魔物だとして、おっさんを生かしておくメリットはあるだろうか。

 どちらにせよ、魔物共はもう、目の前の生臭坊主以外の神官は殺したんだ。

 だったら、最初の約束も守る義理は……ん? もし、連中がこの状況を愉しんでいたら、どうだ? 相手は所詮は魔物。(人間)の考えていることが、いくらか当てはまるとも限らないけど、アーニャとユウのふたりが転職させられたってことは、少なくともさっきまで、転職の儀が行われていたということ……。

 だとすれば、まだこの転職の儀(お遊戯)は続いている……?

 そうなってくると、さっき俺たちのところに、魔物が現れた意味も変わってくる。

 あの魔物は恐らく、上からの命令であそこに来たわけではない……、ヴィクトーリアを追って、あそこまで来たわけじゃない。

 だったら――



「おい、クリムト。耳を貸せ。ド派手にいくぞ」





「大神官が地下から逃げ出したぞー!」



 アムダの神殿に大声が響き渡る。

 人間に化けていた魔物たちは、軒並み声のほうへと反応を示した。



「こっちだー、まものどもー、俺をつかまえてみせろー」



 クリムトは真顔で、変な動きを加えながら、魔物たちを軽快に挑発する。

 ……といっても、なんだあれは。

 なんという猿芝居。

 なんという茶番。

 なんという子供だまし。

 というか、あれでは子どもすらだませ――



「うおおおおおおおおお!!」

「ころせえええええええ!!」



 騙せたわ。驚きだわ。

 子供以下か。ここの魔物どもは。



「あっちだ! あっちへ逃げたぞー! 追えー!」



 声を聞いた魔物どもは血相を変えて、まんまと誘導されていく。

 そう。

 大声を出して魔物どもを誘導したのは俺。

 幸か不幸か、現在アムダの神殿内では人間と魔物(・・・・・)との境界線がない。

 俺たちはそこを逆手に取ることにした。

 俺はさきほど、ヴィクトーリアが撃ち殺した魔物の神官服を奪い、それを着ている。

 しかし、それでも心配性の俺はクリムトを説得し、腕にはさらに隠者の布を巻いていた。

 これで完全に、俺から発される人間の気配を遮断している。

 ……といっても、魔物の気配は発していないため、そこに違和感を持たれてしまうとアウトになる。

 だからこうして、必死に騒ぎ立てているわけだ。

 魔物どもに冷静に考えさせる暇なんて与えない。

 あとは『疾風迅雷(スピードポイント)』の加護を受けているクリムトが、魔物どもをかく乱し、その隙に俺は神殿内部にある梯子を昇って、十字架を破壊する作戦だ。

 ただ、あいつは破戒僧。

 戦士や武闘家といったフィジカルバカな職業ではないため、俺は迅速に十字架を破壊しなければならない。

 その後に、本命(アークデーモン)との戦闘も控えているため、尚更時間はかけられない。

 俺はなるべく目立つことなく、それでいて魔物が流れに逆らいながら、目的の転職の間へと向かった。





 転職の間は、四方が縦横六(メートル)ほどの壁に囲まれている空間である。

 中心には魔法陣の描かれた祭壇があり、大神官と転職希望者はそこで儀式を行う。

 クリムトが言うには屋根の上、十字架へと繋がる階段は部屋の奥にあるとのこと。

 部屋をぐるりと見渡してみる。

 ……たしかに、前回来たときは気がつかなかったが……梯子はあった。

 そして転職の間にはアークデーモンと、おっさんの姿は見当たらない。

 この騒ぎによって身を隠したのか、どこかへ移動したのかはわからないが、これは好機。

 俺は慎重かつ大胆に、梯子まで近づいていくと、(ふみ)ざんに手をかけた――



『……そこで、何をしている……?』



 しゃがれにしゃがれ、掠れに掠れた、人間の言語を真似た魔物の鳴声(・・)、聞くに堪えない声。

 俺は右手を踏みざんに残しながら、体をねじり、ゆっくりと後ろを向いた。

 そこにいたのは、大神官のおっさん……の形をしたナニカ。

 したがって、さきほどの声はおっさん(・・・・)の声ではない。

 しかし、部屋の中にはおっさん以外の姿は見えなかい。

 ……ということは、考えて得るうちの、ひとつの可能性が現実になったということだろう。

 これはクリムトにすら言っていない、みっつめの可能性。

最上位悪魔(アークデーモン)』の特性(・・)

 こいつらは捕食した対象の能力を、一部(・・)継承することができるのだ。

 したがって、勇者の酒場(ギルド)はこの魔物を見つけ次第、駆除する対象として定めている。

 だからこれはおそらく、もうおっさんではない。

 ……だとしたら、ここで俺のとる行動はひとつだ。

 心して答えろ。

 頭をフル稼働させろ。

 一言一句外せば、その時点で命はない。



「……十字架の保護です」


「保護、とな……?」


「はい。賊は判明しているだけ(・・・・・・・・)で大神官の孫ひとり。しかし、あやつめは現在、地下にて幽閉中だったはず。そこに閉じこもっていれば、我々には手が出せず、とりあえずは一命を取り留めることはできました。しかし、あやつは出てきた。どうやったかはわかりませんが……、あやつはこの現状で、命が危険に晒される選択肢を選び取った。そして、あやつは勝算もなしに、それほどの危険を冒すほどのバカなのでしょうか。……否、私にはそうは思えない。あやつめには協力者がいるのです」


「協力者……か、ふむ。おもしろい推論だ。その協力者は我々の目をかいくぐり、地下へと向かい、あの孫を助けたというわけだな」


「……はい。そして、そうまでして成し遂げるべき、あやつらの目的。……それは十字架の破壊でしょう。貴方様の得た力は、あやつらにしてみれば、厄介極まりません。あやつらの狙いはまず、力の源、その無力化を狙ってくるでしょう」


「だからおまえはその梯子を昇り、十字架の保護を買って出た、ということか?」


「さようでございます」


「ふむ、なるほどな……いいだろう、そのおまえには十字架の保護を任せる」


「……はい、お任せを」



 よし。

 なんとか、正解を選び取ったか……?



「それよりも、よく私が大神官ではないと気付いたな」


「……御戯れを。貴方様ほどのオーラ、見紛うわけがありません」


「はっはっは、そうか。こればかりは隠しきれるものではないな。たとえば……おまえのようにな?」

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