第六話:その日を境に
部活仲間でもあり、友達でもある陽にお願いした通りに、普段は寄り付きもしない和虎のいる教室に向かってふたりで歩いていたら、思いがけない光景に出くわしてしまった。
和虎、めっちゃモテてんじゃん!? え、どういうこと? イミフなんだけど……
「ねえ、陽……和虎の反応見る為にこっちにふたりで来てんのに、アレってどういうことだと思う?」
「気付いてんのは向こうも同じっぽいけどな。ちなみに、あの女子連中の中に俺の彼女いるよ」
「え、どれ?」
和虎を守る様に? 女子たちがわたしと陽を見てる中、陽に笑顔を向けてる女子ひとりを発見出来た。
「あれな」
「可愛いじゃん」
「あぁ、まぁ……ありがと」
その女子以外は何故か、わたしを睨んでるっぽい? 何で?
「あっちも似たようなこと考えてるっぽいな。お前の反応でも見てんじゃね?」
「ふぅん……じゃあ、陽の彼女を味方にして話、聞いてくれない?」
わたしと和虎で目を合わせつつも、すぐに視線をどこかにしてしまうほど反応に困ってしまう。学校の中で会うとか今まで避けてたというのもあるけれど、お互いに知らない人が近くにいるという状況にどうすればいいのか分からなくなっている感じだった。だから外でしか会わなかったのかもしれない。
「朔夜、あいつの前に行くよ。悪いが手を掴むぞ」
「わたし、彼女さんに怒られるんじゃ……?」
「お前とあいつのこと知ってるから平気だ」
知らないのは当人同士だけってやつ? 陽に手を掴まれ、そのまま和虎の前に連れて来られてしまった。陽の彼女がすぐ傍にいるのって、何か何とも言えない気分。
「お前が朔夜の幼馴染? 和虎だっけか」
「……そうだけど。朔夜、コイツは?」
「え、えーと……陽。普段いつも話してる友達なんだけど……和こそ、その子たちはなに?」
「なにって、同じクラスの……」
「未亜っす! キミは虎くんの幼馴染だっけ? 男の友達連れて何しに来たの?」
「虎くん、困ってるみたいだけど? 彼女なの? そうじゃないでしょ。と言うか、友達だとしてもわざわざこっちの教室まで来るとか、何がしたいの?」
陽がこっそり耳打ちで、女子たちのわたしへの攻撃的発言は和虎に頼まれたっぽくてやってることらしい。それを聞いて、あえてそれに乗ることにしてみた。
「わたしは和虎に会いに来ただけですけど? 何か文句あります?」
「へー? 普段は学校で会わないし話さないのに、何で今日に限って会いに来るの? その人、ホントに友達なの? ふたりで虎くんに会いに来るとかありえなくない?」
「それは……」
「あーごめんね。朔夜が和虎くんに会いに行きたいって言ってたから、付き添いで来ただけなんだよ。一人で来るのが何となく気まずかったっぽい。俺らは別に喧嘩売りに来たわけじゃ無いし、ごめんね」
陽の彼女を通じて、他の女子たちも和虎に見えないところでわたしに謝ってた。事情を知らない和虎だけが、わたしと陽を交互に見つめながら何度も首を傾げていた。やっぱり、分からないかな。それに、女子たちが強すぎたせいか、和虎は声を上げることも無く大人しくしてて、わたしにどう言えばいいのかすら分からなかったみたい。
「朔夜、教室戻るか?」
「うん、そだね。ごめんね、和虎。放課後、外でまた」
かえって和虎に変な誤解と想いを抱かせてしまったのかな……? 好きだから、好きなのに……どうしてあなたは何も言わなかったの? それともやっぱり俺様系キャラはわたしといる時だけで、普段は昔みたく気弱で大人しい和虎なのかな。素のあなたを見たかったのに、何で何も言ってくれなかったの?
そうして、思い付きで和虎の反応を見たかったわたしと、わたしに何も言えずに大人しかった和虎との関係は、この日を境に変わろうとしていた――