第十話:一緒にいるのが当たり前なんだよ!
「――わたしは、和虎のこと……」
わざとらしすぎる女子に向かってわたしの気持ちを打ち明けようとした時、階段を勢いよく降りて来る男子たちが慌ててどこかに走って行く後ろ姿に、わたしも彼女も驚いてしまった。
「走っていく方って、中庭っぽいね。一緒、行く?」
一緒に行く必要なんて無いけど、何だかすごく気になって仕方がない。男子たちが野次馬するってことは、大抵は喧嘩とか誰かの告白とか、とにかく中庭で何かが起きてる……それが何かは分からないけれど、胸騒ぎがした。
「……行く」
和虎に会いたいのに、何でこんなに会えないのかな。そう思いながら、騒ぎの中心になっている中庭に着いた。着いて驚いたのが、野次馬だらけだったこと。それもほとんどが男子たちだった。お昼にこんなに集まってたら、さすがに先生たちも気付いて来るはず……男子たちの隙間を首を左右に動かして、チラチラと見た先の彼たちに思わず驚いた。
「えっ!? か、和虎……と、陽? な、何で」
「あー、マジっぽいね?」
未亜さんの言う通り、陽は和虎の腕を掴んでいて、今にも喧嘩しそうな雰囲気を出していた。だ、駄目だよ、こんなの……止めなきゃ。
「付き合ってないのに虎くんのとこに行くの? 幼馴染の責任感ってやつ? 怪我したらどうすんの。やめとけばいいじゃん。先生たち来そうだし、一緒に停学なるんじゃないの? やばいって」
「和虎はわたしがいないと駄目だから」
止められてももう、行かないとたぶん駄目。喧嘩じゃないかもしれないしすごい注目浴びてるけど、もう決めたことだから。
「どうする? 何か注目されてんだけど、喧嘩する?」
「しねえし……ってか、いい加減、腕離せって!」
さすがに掴まれたままなのは我慢が出来なくて、勢いよく腕を振り払った。それが良くなかったのか、勢いよく陽って奴の顔に手がかすってしまった。もちろん、故意じゃなくて事故みたいなもんだった。
だけど、さっきまで余裕の笑顔をしていた奴の表情がマジっぽくなって、俺の制服の胸ぐらを掴んできた。そのまま一発くらい顔をやられるかと思い、思わず目を閉じた俺。ほんの数秒のことなのに、何故か自分の心臓がバクバクして覚悟を決めてしまった。
「お前、いい加減にしとけよ? はっきりさせろよマジで。じゃないと、マジで俺ら、停学くらうぞ? だから早く朔夜のことをどう思ってるか言え!」
てっきり拳が飛んでくるかと思いきや、来たのは告白をしろという言葉だった。目を開けると、いつの間にか野次馬がうじゃうじゃ集まっていて、何でこんなに注目をされているのかさえ分からなかった。
「……ほら、朔夜来てんぞ?」
朔夜? 男の野次馬で中庭がやばいことになってるのに、あいつがここに来てるはずが……疑っていた俺の視界に、男たちを押しのけながらこっちに向かって来る朔夜が見えた。な、何で?
さっきまで胸ぐらを掴んでいた陽って奴は、一歩下がって朔夜が俺の元へ近付くのを見守っていた。
「和……何で? 何で陽と喧嘩してるの?」
「や……ち、違うって。してないし! 単に何て言うか、お前のことでその……」
「わたしのことで何? はっきり言ってよ!」
よりにもよって、学校で一番目立つ場所の中庭。渡り廊下の真下に中庭があるから、はっきり言って目立ちすぎる場所に、和虎と陽がいた。全然関係ない人たちに見られるのも聞かれるのも嫌だけど、もうはっきりさせたい。するしかない、だからわたしは和虎に告白をすることにした。
「和虎が大好き! 幼馴染じゃなくても好きなの!!」
「朔夜じゃなきゃ駄目なんだよ!! コイツのことが好きだからに決まってんだろ!!」
「……は?」
「へ?」
ふたりで同時に想いを伝えた、いわゆる公開告白。その場にいた野次馬は、丁度昼終わりを知らせるチャイムも鳴っていたこともあってか、あっさりといなくなってしまった。そこに残っていたのは告白を間近で聞いた陽と、未亜さんだけだった。
陽は苦笑しながら、わたしに向けて手を振って戻って行った。未亜さんは首をふるふると振りながら、「はいはい、分かってたし」なんて顔を見せながら、急いで廊下へ戻って行く。
「和……もうすぐ5限始まるんだけど?」
「や、それ後でよくね?」
「あ、うん。わたしのこと、好きって本当?」
「朔夜こそ、大好きってマジで? い、いつから……?」
「最初から。幼馴染っていうか、会った時からだけど。和は?」
「同じ……って、陽って奴は? あいつ、お前のこと好きって言ってたぞ」
あー……陽の奴、頼んだコトをここまでしてくれたんだ。後でおごらないと。
「陽なら、彼女いるよ? わたしのことを好きって、それは友達だし部活仲間だし、嫌いなら問題じゃない? 和こそ、取り巻きの女子に告白されたんじゃないの?」
「されてない。俺、朔夜にしか興味ない」
「え、嘘……そんなこと今まで聞いたことない」
「じゃあもう一度、や、何度でも言う。俺は朔夜と一緒じゃないと嫌だ! お前が好きすぎるんだよ!! だから、俺と付き合って欲しい! 好きなんだ、朔夜」
「バカ……大好き! 和虎が好き。一緒にいるのが当たり前なんだから、ずっと一緒にいなきゃ許さないんだから!」
「俺も、お前が一緒じゃないと……一緒にいるのが当たり前なんだよ!」
本当ならここでもっと、気持ちを出したかったけど中庭でそして――
「一緒に怒られるしかないか。場所が悪すぎたマジで」
「ん、だね。でも、和と一緒ならいいよ、それでも」
「お、おう。俺も朔夜と一緒なら平気だ」
授業が始まるチャイムと同時に、わたしと和虎は先生に呼ばれて仲良く一緒に怒られた。彼とわたしでそれぞれ教室に戻って、放課後になった時にはお互い大変な目に遭ってしまったけれど、もうそれすら嬉しくて、くすぐったくて……わたしと和虎は、公認になってしまった。
「何て言うか、ごめん」
「んー、いいよ。好きだし事実だし。一緒、いたいし」
「俺もお前といたいし朔夜といる時が俺だから。ずっと、よろしく。ずっと朔夜と一緒にいたい。好きだ!」
「和虎とわたし、一緒にいるのが当たり前だから。ずっといようね! 大好き!!」
完結しました。ここまでお読みいただきましてありがとうございました。




