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美女は野獣  作者: スットン
第一章 桟葉拿樹海編
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八話 白い靄



 ――――あたりが闇に包まれていく。



 どう、しよう。



 私が今しがみついている樹のてっぺんはまだ月明かりがあるからいいけど、下に降りたらどう考えてもまっくらだよなあ……

 正直、下には降りたくない。どんな妖魔がいるかわからないし……暗闇の中で襲われたらたまったもんじゃない。樹の上にいたほうが地面に降りるよりもいくらか安全な気がするのだ。

 かといって、このまま日が昇るまでずっと樹にしがみついていても、いつまで体力が持つかわからない。

 どうにか安全に身体を落ち着かせられる場所を確保しないとなあ。



 一呼吸おいて、下の様子を探ってみる……暗闇の中には何かが潜んでいるような不気味さだけが漂っている。


 ごくりと生唾を飲み込んで、私は震える足を踏み外さないように一歩一歩慎重に、2mほど下に降りていった。

 木の枝の隙間すらなにか不気味なものに見える……と怯えながら降りていくと、太い枝と枝の分かれ目に腰を落ち着かせられそうな空間があった。


 よ、よし。とりあえずこの空間を休むスペースとしてつかおう。何かあったらすぐ動けそうだし。ここなら眠れるだろうか……正直神経が緊張していて眠れる気がしない。だけどこの先のことを考えると少しでも睡眠をとっておかないとまずいだろう……この状態で眠れるとは思えないが横になって目をつぶるだけで、しないよりは大分違うだろう。

 

 おちたら怖いなあ。ちょっと補強するか。もう少し下のほうに降りれば使えそうな太い蔦が幹にくっついてたはず。あれを身体と幹に巻いておけば多分落ちることはないと思う。



 鉤爪を引っ掛けながら慎重に降りていく。


 妖魔は……いない、よね。


 息を殺しながら降りていく、それにつれて闇も深くなっていく。



 真っ暗……真っ暗なはずなんだけど見える。なんと表せばいいのだろうか、まるで前世で見た動物ドキュメンタリーで使われる暗視カメラのような、そんな視界が広がっている。

 もしかして、猿になった影響で夜目が利くのだろうか。

 思い返せば視力もよくなっているはずだ、樹の上にいた時はかなり遠くまで見えていた。


 あ、蔦あった。3本くらいはとっておこう。


 そういえば鳥の声聞こえなくなったな。

 なんだかものすごく静かだ。


 蔦がブチブチブチと幹から剥がれる音だけがあたりに響く。



 な、なんだろうこの緊張感は。ものすごく嫌な予感がする。もう蔦はいいからはやく上の方に戻らなければなにか恐ろしい事が起こるような……そんな雰囲気が……



 ――その時だった


 

 地面から5mほどの高さまで白いモヤ様なものがうっすらと漂ってきた。

 なんだろうこれ。霧……?


 幹にしがみついてモヤを観察していたらモヤの中を黄舌が走っているのがうっすらと見えた。


 うわあ! と、とうとう妖魔に出会ってしまった……! よりにもよって人を食べる黄舌って……!

 どどどどうしよう5匹もいる! しかもこっちに向かって走ってきてる!

 急いで逃げるべきだろうか!? いや気づいていないなら下手に動かないべきか!? どうか私に気が付きませんように。

 私は樹、私は樹、私は樹。


 私の心配をよそに5匹の黄舌はまっすぐこちらに走ってきた。

 しかし私に気づく様子はない。

 なんだかあせってる?

 なにかから一生懸命逃げてるみたいな……でも弱っているのか、走るスピードが不自然にどんどん落ちてるな……


 黄舌を追うように白い霧はいっきに濃くなっていってとうとう真っ白になってしまった。

 まるで牛乳がとっぷりと地面を覆っているようだ。

 黄舌達はすっかり靄に飲み込まれてしまって見えない。


 どう考えても普通じゃない。私の脳内で危険信号がカンカン鳴っている。身体は震え、冷や汗が手の平に滲む。もしも鉤爪がなかったらあの靄の中にすべり落ちてしまっていたかもしれない。今や私の命の手綱は四つの鉤爪が握っているのだ。

 怖い。上に戻りたいと脳が訴えても、身体が動かない。


 急に、ぶわっと鳥肌がたった。

 

 なにかがいる。

 

 今まで経験したことのない圧がのしかかる。これが捕食者の絶対的な気配というのだろうか。




 ぎゃあっと叫び声が聞こえた。



 オワーオワーと鳴き声がする。ガサガサと葉を揺らす音がする。

 そしてまた叫び声。


 …………


 ………………



 やがて静かになると次第に白いモヤは移動するように退いていった。





 どれくらいの時間がたったのだろうか。



 もしかしたら数十秒の出来事だったのかもしれない。

 私にとっては数時間に感じられるくらい長い時間だった。

 

 私は、いつの間にか息を止めていたらしく、ゆっくりと慎重に息を吐く。

 



 何だあれは。


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