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美女は野獣  作者: スットン
第一章 桟葉拿樹海編
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七話 陽蘭の話

陽蘭視点


 はじめて紅花にあったのは私が11歳のときだった。


 私の家は北門のすぐ近くにある飯屋だ。北門近くだと一番大きい飯屋だと思う。

 毎日夕方になると、北門から仕事帰りの坑夫たちがやってきてご飯を食べていく。

 私は小さい頃からお店のお手伝いをしていたから坑夫たちの荒っぽさにもなれてしまったけど、普通の女の子たちにとってはちょっと近寄りがたいと思う。


 11歳になって、父さんが本格的に経営を学ぶためには小塾で勉強するべきだっていって、母さんがそんなことしなくても家で学んでればいいっていってちょっとした喧嘩になった。

 本音を言うと私も小塾に行ってみたかった。でも父さん達が一生懸命稼いだお金を使っちゃうのには申し訳なかった。

 私のために喧嘩してほしくなかったのでそのことを伝たら、反対していた母さんが私がどうしても行きたいならお金のことは気にしなくていいって言ってくれた。


 父さんと母さんのおかげで小塾に通えることになったんだけど、普段だったら話すこともないようなお金持ちの家の子がいっぱいいた。

 うちだって貧しいわけじゃないし、大きな飯屋を経営してる。けどきれいに着飾ったお金持ちの子たちに囲まれていると、荒っぽい鉱夫たちを相手にしている私が何だか場違いなようなきがして馴染めなかった。

 いいんだ。勉強をしにきているんだから。

 誰よりも勉強して一番いい成績をとってやる。


 そう思ってたけど現実は非情だ。


 成績は46人の中で8番目だった。あれだけ頑張ったのに、せっかく父さんと母さんがお金を出して学ばせてくれてるのに、1番をとれない自分が情けなくて、泣いてしまった。


 成績が一番よかったのは清泉という商人組合館の支部長の息子だった。こいつはいつも取り巻きに囲まれていて父親のコネで得た情報をさも自分の手柄のように語る。話したことないけどなんだかお金持ちが鼻についていて嫌いなタイプだった。


 そして二番目に成績がよかったのが紅花だった。

 教室で初めて紅花を見たときはびっくりした。だってすごくきれいで、でもどこか儚いような触ったら消えちゃいそうな、まさにお花の妖精みたいだって思った。もし私が男の子だったらきっと好きになって守りたくなっちゃうようなそんな女の子に見えた。実際、清泉や教室の男の子達の目線はいつも紅花の方を見ていた。女の子からは憧れや妬みの目、どっちも紅花は気にしていない風で、どこか私達とは一線引いているように見えた。

 そんな紅花の姿がなんとなく鉱山街と不釣合いで、私と正反対な気がして、きっと仲良くなれないだろうなって思っていた。

 教室の角の席で誰にもばれないように涙をぬぐってたらとなりの席にいた紅花がハンカチを渡してくれた。泣いていた事がばれた事も、そんな紅花の態度も、なんだか私がどんどん情けなくなるような気がしていたたまれなくて教室を飛び出してしまった。


 次の日は本当に小塾に行きたくなかった。

 父さん達は私の成績を褒めてくれたけど、私は紅花にどんな顔してあえばいいのかわからなかった。

 教室に入ると紅花が昨日はごめんねって言ってきた。

 本当は私から謝らなきゃと思ってたから面食らってしまって何も言えなかった。

 お昼にお弁当をいつもみたいに一人で食べようとしていたら、紅花が一緒に食べようっていってきた。なんだか断りづらくていいよって言ってしまった。私が思い切って昨日のことを謝ったら、紅花は笑いながら、じゃあお詫びとしてお弁当の肉団子一個頂戴っていってきた。

びっくりした。

だって紅花はお肉なんか食べないと思っていた。

花の蜜でも吸っているのかと思っていた、って言ったら、紅花は、私は虫か! って大笑いしていた。

 なんだか紅花のイメージは大分崩れたけれど、前よりも仲良くなれそうな気がした。


 それからは小塾に行くときはいつも紅花と話すようになった。

 周りの子が少しうらやましそうに見てるのがちょっとだけ優越感。

 でも紅花と仲良くなってからは、清泉達がしょっちゅうちょっかいかけてくるのが鬱陶しかった。だけどたまにみかける清泉の護衛のお兄さんはちょっとかっこよかったな。


 紅花と仲良くなってからは大分紅花の印象が変わった。

 北門の近くで飯屋をやってる、仕事帰りの坑夫たちや旅商人達が店にくるといったら、行ってみたいとせがまれた。白蝦蟇や黄舌を見たことがあると言ったら、白蝦蟇はいったいどんな姿なのか根掘り葉掘り聞かれた。

 妖魔図鑑を作ろうと思ってるんだって。紅花ってなんだか変な子だ。


 ―――でも、そんな紅花が、私はいつのまにか大好きになっていた。




 今日は店のお使いで大通りを歩いていたら、遠くから悲鳴が聞こえた。


 びっくりしてそっちを見たら白い大猿の妖魔が西門の方へ走っていくのが見えた。


 うわあ、あんなのが暴れたらきっと大変なことになっていただろうなあ。こっちにこなくて本当によかった……。でも一度も見たことのない妖魔だったな。


 明日紅花に教えてあげたら喜ぶだろうなあ。

 絶対に清泉より先に教えてあげようっと!






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