五話 変身
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鏡の前でどれくらい固まっていただろうか。目の前の大猿も動かない。
ど、どうしようとりあえず逃げなきゃ
こっそりと身体を入り口の方へ動かすと大猿も動いた。
うわあ!
「う゛ぉ゛あ゛!」
わあああ何今の声!??私から出た!???
鏡の前で右手を上げてみる……大猿も右手を上げる
左手を上げてみる……大猿も左手を上げる。
まさか……
おそるおそる視線を自分の身体へ移す……そこには白い体毛に覆われた筋骨隆々の獣の身体があった
うわあああああああああああああ!??
何これ何これ何これ!?!?!?!?
わ、私が、猿に、なっちゃったの!???どういうこと!???
「紅花、いつまで待たせるつもり?お客様に失礼よ。」
扉の外側から母さんの声がする。
うわあああああ
どうしよう、どうしよう、どうしよう!!!
こんな姿見られたら絶対に大変なことになる!!もうすでに大変なことになってるけど!!落ち着け、落ち着け私!!
「いいかげんにしなさい、入るわよ」
扉を開けた母さんと目が合う
固まる母さんと私
「きぃいやああああああああああああああああああ」
わあああああああああ
「いやあああ!!誰か!誰か来て!!!助けて!!!妖魔が!!!」
ち、ちがうよ!!私だよ母さん!!
「う゛あぐ!!ぐあ゛じ!!」
ひい!全然上手くしゃべれない!なんかものすごく猛獣の唸り声みたいになってしまった!!
母さんは腰を抜かしてへたり込んでしまった。
「嫌あ!!!こっちにこないで!!!」
「どうしたんですか!玉さん!悲鳴が・・・」
乃至さんがあわてて駆けつけてきて母さんを庇うように前に出る。
遅れて来た奥様も私を見て固まる。
「乃至さん!紅花!!紅花が!!!」
「紅花さん!!いたら返事してください!!紅花さん!!」
ここ!ここだよ!!目の前にいます!!
私は自分を指差した。
「まさかお前……」
そう!!私が紅花です!!
「喰ったのか…………!?」
ちがーーう!!!
「ああっ…………」
「奥様!!しっかりしてくださいませ!!」
母さんが気絶した。亥商会の奥様が母さんを支える。
「母さんは玉さんを安全なところへ!ここは俺が何とかする!」
そう言うと乃至さんは剣を取り出してこっちへ向けた。
なんとかするってどう考えても穏便にすまない感じだよねコレ。もしかしなくても私殺されそうな感じだよね。
「貴様!よくも!紅花さんを!!!」
ひーーっ!乃至さんが鬼のような顔をして私に剣を振ってくる。
どうしよう!!とりあえず逃げなきゃ……!!
転げるように窓に突進する。
窓は壁ごと砕け私は宙に投げ出された。
落ちる!!とっさに近くにあったものを掴んだが空しく私は数m下の地面にぶつかった。
背中に少しだけ痛みが走ったが気にしてる暇はない。
とにかく逃げないと……!殺される!
とっさに通りの方まで逃げる。通りを歩く人たちが私を見て悲鳴をあげる。逃げる。
剣を持った人たちが追いかけてくる。逃げる。弓を撃ってくる人たちがいた。逃げる。逃げる。逃げる。
無我夢中で逃げていたら西門を越えてしまっていた。
後ろから撃たれた矢がまだ私を追いかけてくる。逃げなきゃ……もっと逃げなきゃ。
どれくらい走っただろう
気がついたら私は森の中にいた。