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現代魔法士と魔導教典  作者: ミノ太郎
第一部 二章
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37話 激闘の決着

「……!?」


「な、何が起こっているんですの……っ!」


「──」


 メアと白神桃華が、気絶した二人を運んでいる際にいきなり起きた地震──揺れに驚きを隠せないでいる中、天城音々は。彼女だけは、その原因が分かった。

 ──否、工場に魔法無効化のオリジナルが張られていると分かった時点で、天城はいつかこの戦いが来ることが分かっていた。


 ──魔法無効化空間とは、一人の男が英雄に勝つために、作り上げた対『愚者』専用オリジナル。

 しかし、これを持ってしても一人の男──『隠者』は『愚者』に敗北し、今再び『愚者』の前に姿を現わしているのだろう。

 恐らく、洞窟が揺れているのはそのせい。激しい戦いによって生み出された余波に過ぎない。この場だからこそ、これで済んでいるが──激闘の場所に行けば、もっと酷い有様であることぐらい容易に想像できた。


 ──そもそも、魔法士はなぜ式神で戦うのか、という点についてだが……。

 これについては、江戸ぐらいから発展してきた考えの下だ。同じぐらいの魔法士が争いあった時、決着はつかない。なぜなら、魔法以外に優劣が決定する何かを身に着けていないからだ。

 昔の魔法士──というか、最悪の戦争を繰り広げた三家も、結局は同じぐらいの魔法士がぶつかり、優劣が付くまで魔法を使い続けた結果だ。

 だからこそ、それ以外で相手との差を埋める、又は突き放すというのが定石となった。魔法士達は各々、体術や槍術、剣術──さまざな武芸を身に着けてきたのだ。

 そして、今回の場合はそれすらも互角と言うだけ。結果、優劣がつかない。

 だから、勝敗を分ける要因になるのは──。


「どちらが、先に敵の欠点を見破るか……ですかね」


 洞窟が崩れることを想定し、メアや白神桃華を急がせながら、天城はそう呟いた。

 ──魔法は万能などと謳ってはいるが、所詮は人が作り出すものにすぎない。だからこそ、そこには弱点、または欠点があるのも道理だ。

 だから、そこを突けるか否か。いや、見破り、自らの力に変えられるか。オリジナルを早くに分析し、どう対処したらいいのかを数手の内に見破る。これもまた、魔法士には必要な要素だ。


 そういう点で言えば、優は不利と言っても過言ではないかもしれない。既に、『隠者』に手が割れてしまっているのだから。

 だけど──。


「でも、大丈夫ですよ……だって、あなたは私の英雄なんですから……」


 天城を救ってくれた時から変わらない想いを胸に、そう口ずさみ──天城音々はメア達の後を追っていくのであった。























「我は希う。──イグナイト。アストロン」


「くそ……ラファーガ、アイシクル!」


 魔法の応酬。先ほどとは打って変わって、中級魔法以上の魔法の撃ちあいだった。『隠者』は中級魔法のイグナイトとアストロンを使い、それを相殺するべく優のラファーガとアイシクルが炸裂する。

 だが──相殺はできず、むしろ後ろに追いやられる形になってしまう。


 ──『隠者』が新しく生み出したオリジナル魔法、魔法領域(マジック・フィールド)のせいで、既存の魔法は軒並み威力が底上げされている。ゆえに、優の魔法は基本的に撃ち負けるのが鉄則だ。加速領域(アクセラレート)を使っているせいで、あまり大魔法を使えないのも痛い。


(だけど、加速領域(アクセラレート)を使わなかったら、勝つことは出来ない、か……)


 ならば、するべきことは一つだけ。基本に立ち返る。

 優が身に着けた異常なまでの観察眼。それを駆使し、『隠者』のオリジナルを打ち破る方法を見つけ出す。それだけが、優に残されたわずかな勝機。


「流石だね、『愚者』。でもね、それじゃあ、及ばないよ。僕のオリジナルの効果を忘れたかな? ──この空間内では、僕の魔法の方が強い。それだけは、覆しようのない事実なんだ。君がどんな修練を積み、どんな工夫をしようとも、これだけは決して破れない」


「分かってるさ……!」


 確かに、『隠者』の言うことはもっともだ。

 ──この空間では、『隠者』の魔法は絶対だ。優の魔法では、太刀打ちできない。どれだけイメージで増幅しようとも、及ばない。

 ──しかし、空間を超えれば。まだ勝機はある。

 『隠者』は言ったではないか。この空間であれば、優は負ける。だが、この空間を出ればまだ勝機を見いだせる。


「うおおおおお──ッッ!」


「はははははははははッッ!? 流石、流石だ! 圧倒的不利な中、それでも足掻こうとする姿勢……嫌いじゃない! 流石は僕の見込んだ英雄だッッ!」


「──ラファーガ、マイム!」


「──ティエラ、ブラスト」


 これも、相殺──どころか、威力が上回られ、優を飲み込んで──しかし、それだけはなんとか躱し、激突したのは壁だけだった。

 今優が出したのは風と水魔法の中級魔法だ。対して、『隠者』が出した魔法は優が繰り出した魔法よりも威力は弱い──にもかかわらず、威力が上回る。これが、魔法領域(マジック・フィールド)の能力。厄介以外の何物でもない。

 だが──これでいい。このまま、魔法を撃ち、そのたびに撃ち負けて回避するだけでいい。


「アイシクル、ブラスト!」


「アストロン」


 風と水の中級魔法。それらは空中で融合し、予測不能な一撃を生み出す──が、それすらも、たった一つの魔法によって破壊を余儀なくされた。砲撃が嵐を引き裂き、直撃した土によって、洞窟が悲鳴を上げていく。


「ゲヘナ、アクエリアス!」


「サイクロン」


 火と水の中級魔法が、重なる。水の中級魔法最大の威力が、ゲヘナの煉獄に同調し、更なる威力に──だが、それも、風の中級魔法──サイクロンだけで一蹴された。

 どころか、サイクロンは止まらない。侵攻上にある小石も、壁も、何もかもを巻き込み、破壊し、悲惨な状態を作り上げていく。

 

「──さて、そろそろ洞窟の方も耐えがたくなってきた、か。ならば、決着はつけるべきだね」


「ああ……そうだね。そろそろ、ケリはつけないといけないらしい……」


 そして、気付けば。

 洞窟は悲惨な悲鳴を上げ、崩壊寸前だった。壁にひびが入り、天井には欠けている点が存在しており、既に限界であることを示している。

 だから、撃てて一撃のみ。それ以上は、洞窟が耐えられない。そこでその制限を破れば──崩壊は免れず、被害が優の理解の及ばない程のものになるかもしれない。

 ──だが、リスクを取らないで勝てるほど、『隠者』は甘くない。


 互いに、一歩を踏み出す。

 まるで、西部劇の早打ちのように。右腕を真っすぐに伸ばし、目を瞑りイメージを作り出す。魔力を感じ取り、詠唱を口ずさんで──。


「クリムゾンフレア!」


「ツイスト・ブロウ!」


 咆哮する。

 己の全てを上げた魔法を放ち、耐えかねるように洞窟の表皮が剥がれていく。

 が、二人は。二人だけは、飛ばされない。塵が二人の頬を掠り、足を容赦なく激突した余波が襲う。

 立つことすら叶わない中、二人は激闘の結末を見届けるように立ち尽くして──。


「──ゲヘナ!」


「──へえ」


 ──だが、優は。それを認めない。洞窟が崩壊しようが、今だけはどうでもいい。

 そもそも、設計からしておかしい。街の下に、大迷宮が広がっていました──などと言っているが、実際はとんでもない状況だ。なぜなら、崩落でもすれば被害は甚大になる。だが、今までそうなってこなかったのはなぜか。──何らかの魔法的援助がある。そう見て間違いない。

 それに、今の今まで優が上級魔法を使わなかったのにも理由がある。


 上級魔法はその威力の高さ故、扱いが難しく、尚且つこんな狭い場所で撃ってしまえば確実に暴発する。そうなれば、優はいい。『隠者』も、そこまで大打撃にはならない。だが、天城やメアらは? 無力だ。押しつぶされるしか、道はない。

 だから、今まで待った。彼らが出口に辿り着く、その時まで。


「風……か。こんなところまで、届くとは……感服だよ」


 しかし、感心している余裕など、どちらにもない。

 洞窟が耐えうる限界を超えた。もう、持たない。後は崩落し、洞窟がなかったことになるだけ。そして、その崩壊は既に始まっており、天井が徐々に優達に迫ってきていた。

 

「一度、撤退しなければいけないかな……ッ!?」


「それを待ってたよ──アストロン」


 上を見上げ、留まるのは危険だと判断したのか。『隠者』はバックステップを踏んで、一度下がろうとして──。

 そこに、優が飛び込んだ。魔法──アストロン、即ち岩石を伴って。


「ぐ──」


「どうした。相殺しろよ。さっきのように、撃ってみろ、『隠者』!」


 ──できない。できるはずがない。

 あくまで、『隠者』と優の実力は互角。それは武芸の意味でも、魔法の意味でもだ。そして、『隠者』が勝っていたのは魔法の部分。だがそれも、結局はオリジナルのおかげだ。

 ──オリジナルの弱点は、固有結界だということだ。結界だからこそ、どこかに始点がって終点がある。あらかじめ場所が決まっているが故に、限定的な最強を作り出すことが可能になる。

 が、そこが崩れれば話は別だ。限定的な最強は効力を発揮しない。


 ──そして、『隠者』の魔法領域(マジック・フィールド)が自らを基点にして数メートルを範囲にしているのか。それとも、あらかじめ範囲を決めているのかについてだが──これについては優は後者だと思っている。最大の理由はこれまでの彼との決戦にあった。

 ──『隠者』は今まで、自らを基点とする結界を使うことはなかった。それはまるで、優とは反対の位置に行くと言っているかのように。

 だから、後者。つまり、空間が崩壊した今──『隠者』は最早絶対などではない。


「──なんてね」


「──ッ!?」


 一見追い詰められたかのように見えた『隠者』は──しかし、一転して表情を一変させ。

 同時に、優の脇を並走していた岩石が突如として破砕される。『隠者』の隠しナイフ。魔法によって生み出されたものを一度だけ壊すことの出来る魔道具。

 それを見て、新しく魔法を歌って、新たな事象を起こそうとするが──それが不可能だということに気づいた。

 そう、これは──。


「魔法無効化空間……ッ!?」


「ははははははははは!? 僕が、何の策も講じずに君の前に立つと思うか!? むしろ、計算通りだったよ。君ならば、必ずこうするという確信があった。だから、安心してこの選択ができたッ!」


 ──賭けに、負けた。

 これでは、優の魔法は『隠者』に届かない。そして、加速領域(アクセラレート)の制限時間が──刻一刻と優の脳を蝕んでいく。

 

「勝ったッ! 勝ったんだ、僕は! こうなったら、君の牙は僕に届かない。ははははははは! ああ、ようやくだ。ようやく、わが手中に勝利を!」


「──いいや。むしろ、これを待っていたんだよ」


 だが、優は。この時を待っていたと言わんばかりに、突っ込んだ。 

 その理解出来ない行動に、『隠者』の脳に、一瞬の空白が生じる。必ず、生じる。

 なぜなら、『隠者』という男は全てを計算しつくし、掌の上での勝利でなければ満足できないからだ。降ってわいた勝利など勝利に入れず、あくまで自らの力でもぎ取った勝利だけを勝利とみなす。

 つまり、『隠者』がしないと思う行動を取ってやればいい。とはいえ、それもそれで難しい話だ。

 『隠者』の脳内には、優の基本理念から行動パターンまで──都合何千種類ものパターンがインプットされており、また本人の性格などから起こりうる可能性を計算し、全ての選択肢に対応できるようにしている。

 優とは真逆。優が見てから相手の動きを読み取っているのならば、『隠者』は正反対。動く前に相手の動く先を予想する。


「……魔法無効化空間と言うのは、文字通り魔法を発動させない空間だ……」


「つ──」


「だが、それはあくまでこれから発動される魔法に限られる。つまり、結界が張られる以前に成立した魔法について、消すことは出来ない。……俺のオリジナルも、既に成立している以上、消されることはないんだ」


「まさか──だが、それをやれば、更に限界が……ッ!?」


「承知の上だよ。……メアが死ぬほど頑張った。ならば、今度は俺が身命を賭す番だろう?」


 加速領域(アクセラレート)は、十分の制限──今の優では9分30分が限度だが──の下で発動される。ならば、逆に考えろ。十分を持たすのではなく、濃縮という方法を取ればいいのではないか。

 十分を一分に。一分を一撃に。残っている魔法をつぎ込み、身体強化へとつぎ込めばいい。そうすれば、相手の予想を上回るほどの速度で動けるではないか。


「ああああああああああ──ッッ!」


 裂帛の気合と共に、全身の魔力を絞り出し、身体能力強化魔法へとつぎ込む。全ては、『隠者』の裏を掻くために。

 これは、これだけは彼とて予想できなかった一打。今までの優であったらならば、こんなことは少なくともしようとはしなかった。とすれば、変わったということになる。メアに触れて、優も変わった。

 勝敗を分けるとすれば、そこ。『隠者』は予測できていなかったのだ。優とメアが交わったときに起こる変化──それを、見落としていた。


「ぐ──」


「吹き飛べ、『隠者』ぁ!!」


 剣を空中に放り出し、『隠者』の予想を超えた神速が崩壊する洞窟を翔けた。

 地面はその脚力に耐え切れず破砕され、大気は風に対応できないかのように裂かれていく。『隠者』ですら予想できなかった一撃が、『隠者』の頬へと吸い込まれ──拳が、『隠者』へと突き刺さり、そのまま振り切った。

 あまりの威力に、『隠者』が数メートルも吹き飛ばされながら──。


「僕の、負け……か。全く、これだけ準備しても、まだ及ばないらしい」


「いい加減、言いがかりをつけるのはやめてくれないか……二度と、面を見せるな、『隠者』」


 ──互いに空中で舞いながら、それだけ交わし。

 ──そして、洞窟はそれを待っていたかのように。

 決定的な崩壊が始まり──洞窟は跡形もなく潰れるのだった。

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