1話 三年ぶりの再会
キンコンカンコーン、と学校の終わりを告げる音が鳴り、教室が騒がしくなる中、なんだか物思いにふけるような感じで窓際の席で外を見つめていた少年──神代優は、突如耳元で聞こえてきた声によって我を取り戻した。
「おい、優。なに黄昏てるんだよ、ぶっちゃけ似合わねえっつうの」
「酷い言われようだ。まあ、反論する気はないけど」
「ま、当然だよな」
どこか嬉しそうな笑みを浮かべて、優に話しかけてきたのはクラスでも屈指の馬鹿人間──長嶋啓二だ。こう見えて、彼とは高校一年の時からの仲でクラスの中では一番の友達だろう。
こんな風に軽口をたたき合える存在も、今の優にはほとんどいない。
「悲しいねえ……全く、お前は悲しい奴だよ。折角学校が早く終わったってのに、誰とも遊ぶ予定がないってか」
「うるさい。というか、今日早く帰る理由を忘れたわけじゃないだろ? なら、さっさと家に帰って勉強しろ」
「うえ、痛いとこ突くなよ……確かに、色々物騒だけどさ……」
痛いところを突かれ、げんなりしている啓二は置いておいて。今回、優たちの学校が早く終わったのには理由があるのだ。なんでも、隣町で殺人事件があったらしく、警察に突きつけられた予告状にて優たちが住んでいる街での予告が行われたためらしい。
というか、そんなことがあったのならいっそのこと学校ごと休校にしてほしかったがそうもいかないらしい。
どこまでが本当なのかは判別がつかないが、優も優とて現実味がないのは同じだ。結局、殺人予告が出されたからと言って愚直に信じる人間がいるかという問題なのだろう。
「そんなことをしてさ。最後の高校生活を楽しめずに終わったら虚しいじゃんかよー。さあさあ、お前も優等生ぶってないで遊びに行こうぜ!」
「いや……悪い。今日は予定があるんだ」
「あー……そりゃ、しゃあねえな。うん、なら、また今度誘うわ」
「ああ、ごめん。じゃあな」
啓二との会話を終え時間的にもいい具合になったので、机にかけてある鞄を肩に引っさげて教室を後にする。
優の自宅──と言っても、マンションなのだが──は学校まで歩いて約10分圏内だ。順調にいけば教室を後にした14時から十分で自宅に辿り着くのだが、今日はそうもいかない。
はあ、と一度大きなため息をついて。鞄から取り出したスマホを開き、先日送られてきたメールを開く。そこに書いてあるのは、日時と場所の指定だ。
本日の15時に、駅近くにあるカフェに足を運んでほしいとの旨だ。正直、メールの差出人が書かれていないため、無視してもいいのだが──しかし、それはしない。
──なぜなら、きっとこのメールを送ってきたのは、神代優の昔の知り合いなのだから。
神代優はとある高校に通う普通の高校三年生だ。少なくとも、この三年は普通通りの生活を過ごしてきたと思える。
成績はまるで普通。身体能力もそこそこで、友達が少なく愛想がなく、普段から何を考えているのか分からない──これが神代優の、他人から見た一般的な評価だろう。
そして、神代優本人もそれが妥当な所だと思っている。
だが、勿論反論はあるだろう。普通に過ごしてきたはずの人間ならば、なぜ知らないメールが届き、カフェに呼ばれるのかと。
「俺もそこが不思議なんだがな……まあ、逃げるわけにはいかないよな。これ、たぶんあの人からだし」
若干──どころか、めちゃくちゃ閑散している商店街を足早に通り、駅近くの大通りの路地裏へと迷いなく入っていく。普通ならば絶対に通らないような道ばかりを通り、指定されたカフェに辿り着く。
木造建築で、今にも崩れ落ちそうな店──悪いが、それが率直な感想だった。店の外側の木材は、至るところが軋んでいたり、痛んでいたり。尚且つ、名前は風化していて読むことが出来ず、閉じてから久しく時間が経ったと思われる風貌だ。実際、入り口には『closed』と書かれた看板がかかっている。
だが、優はそれに構わず──看板がかかった扉を開け、中に入る。
──そこにあったのは、外の風貌とは異なり、清潔感を剥き出しにした内装だった。並んでいる机は綺麗に手入れされており、ツタだらけだった窓は、しかし内側から見れば明瞭なぐらいに磨かれており、床は埃一つ落ちていないような印象を受ける。
だが、誰もいない。10個ぐらいあるテーブル付近の椅子には誰も座っておらず、カウンターにもマスターらしき人物はいない。それも当然だ。なぜなら、この店は表向き閉じていることになっているのだから。
そして、一番奥。大きな窓の近くに配置されている場所に──一人の女性が座っていた。年齢は見た目20代前半で、茶髪に黒縁メガネで、最近巷で有名なゆるふわ系の女性、とでも言えば印象が伝わるだろうか。
避けては通れない道、いずれ会うとは分かっていたがこんなに早くなるとは──。
そんな風に思いながら、その女性が座っている椅子の反対側の椅子に腰かけ、鞄を下ろす。
「三年ぶりね、神代優くん。どうやら何も変わっていないようで安心したわ」
「こちらこそ、お久し振りです、柏木さん」
優が座ったのを確認し、今の今までタブレットに目を落としていた女性──柏木由姫はゆっくりと顔を上げ、三年ぶりの再会を確かめ合う。
それを見計らってか、どこからか店員──というかマスターらしき人物が登場し、テーブルにメニュー表を置いていく。
「あ、好きなの頼んでね。今回はお姉さんの奢りだから」
「お言葉に甘えます」
「なんか固くなっちゃったわねえ……昔通りに接し方でいいと思うんだけど」
柏木の最後の言葉は無視するとして。メニュー表に目を落とし、何か飲み物でも頼もうとして──瞠目する。そう、値段が書かれていなかった。
やばい、ここはやばいぞ、などと高校生がらしからぬ心配をし始める。経験則からすればここは絶対に高い。それも、高校生である自分では金銭的に干されるぐらいに。
なんだか高価なものを頼むのも気が引けるが──まあ、気にするべきではないだろう。こちとら、秘密にしていた自宅や携帯の電話、果てはメールアドレスすら解析されたのだから。
「じゃあ、ミルクティーで」
「かしこまりました」
「相変わらずの甘党ね。全く、図体がでかくなっても根本的な部分が変わってないのというか……」
「しょうがないじゃないですか、苦いの飲めないんですよ」
周りではブラックのコーヒーが人気になっているようだが、正直優には手が出せない。啓二あたりも進めてきたことがあったが、どうにも苦いものは舌に合わないのだ。
ともあれ、ミルクティーが早くも優も前に持ってこられ、渇き切った口を潤すように一度呷る。
「なんか久しぶりねえ……こうして、話をするのも」
「なんか話逸らされた感じですけど……」
「まあまあ、いいじゃない。こういう世間話から入るのが一番よ」
何か話を逸らされた感じだが、もう拘泥しても面倒だ。こうなったら、きっと聞かないのがこの人だ。
「最近どう? 勉強ちゃんとしてる?」
「そりゃ、人並みには。特段酷いってわけでもなく、本当に普通ですよ。だから懐疑の視線を向けるのをやめてください」
本当の事を述べているのに、なぜ疑問の眼差しで見られなければならないのか。ともかく、高校生活では目立ったことをしないようにしているのだから、こうなるのは確定事項なのだが。
「ははーん……君はあれだね? 面倒ごとに巻き込まれるのが嫌だから敢えて半分でも取ってるのかなー? でも、お姉さん感心しないぞー。本気出せるときに出さないと後悔するって」
「いいんですよ……というか、人を勝手に不真面目認定しないでください。ちゃんとやってますよ、体力測定とか以外は……」
優が通っている高校は一応進学校と銘打っている。ゆえに、高得点を取れば取るほど、面倒なことが待っていると言う訳の分からない負のスパイラルに陥るのだ。
そんな理由から、優は高得点を取らないようにしている。いや、別に手を抜いているわけじゃないので勘違いしないでほしいが。
「いやーだって、組織の本部に出入りして、諸々の処理を施していた人だよ? 点数が取れないわけないじゃん」
「仕事ができるからって、勉強が出来るということに繋がらないですよ。柏木さんが何を期待してるか、もしくは話を引き延ばそうとしてるのかは知らないですけど、いい加減に始めませんか?」
「うーん……なんか、早く帰りたいって顔してるねー。何かあったの? 告白でもあった?」
「人の恋愛事情に絡まない!」
何はともあれ。
「殺人犯が跋扈してるっていう噂なんで……学生はさっさと帰宅なんですよ」
「あー……でも、その割にはあなたの所の学生を駅近くで見かけたけど。なんかウキウキしてたなー……もしかして、友達いな……こほん。それに、殺人犯ってのは嘘だから安心して」
「まさか」
「もっちろん、あなたを指定の時間におびき出すための作戦に決まってるでしょう? だって、夜待ち合わせにすると絶対来ないじゃない。面倒ごとを押し付けようとしてるのに」
「この人もうダメだ! いや、組織全体が狂っていやがる!? 今から交渉に入ろうって言ってんのに、相手の印象悪くしてどーすんだよぉ!?」
柏木の反応に、普段から張り付かせている鉄の仮面を剥がしてつい叫んでしまう。
「変わっていないのはどっちだっていう話だな……」
「まあ、早速だけどこれ、見てくれる?」
優の独白には反応せず、先ほどまで操作していたタブレットを優の前に差し出してくる。正直、あんまり見たくない感じもするし、首を突っ込みたくない感じもするがどうせ逃げることなど不可能だ。ここに来た時点で、仕事の内容を確認するまで帰らせる気はないはずだ。
そんなわけで、仕方なくタブレットに目を落とし──そこにあったのは、一人の少女の顔写真と情報だった。名前は──神薙芽亜、魔法士としての名前はメアだ。銀髪に、アクアマリンの如き宝石の瞳。日本人とは思えない風貌だが、出身地を見るに日本人のようだ。
「魔法の使い過ぎですか、この髪とかは」
「そう。小さい頃からの弊害ね」
魔法──つまり、世界の裏側に存在するものだ。一般の世界に生きているならば、まずお目にかかることがないもの。万能である代わりに、使いすぎれば色々と人体に影響を及ぼすこともあるのだ。
柏木はまるで仕事の紹介でもしているかのように手を伸ばし、タブレットの中の資料を横のスライドさせる。
「で、こっちも見てほしいの」
「これは……魔法士階級、ですか。第七階位……これ、一番下じゃないですか」
「そうなのよねえ……幼い頃から魔法を使っている割に、全く進歩してないのよ」
魔法士階級と言うのは、魔法を使う者達──魔法士としてどの程度優れているかを指し示すものだ。最下位が第七階位で、最高が第一階位という具合になっている。最下位とは、つまり初心者に与えられる階級だ。第四階位まで行けば、魔法士としてもう一人前だ。
資料にある神薙芽亜──メアは魔法士の世界に入ってから、約5年が経っている。これほど経っているのに、未だ第七階位というのはおかしい話なのだ。だからこそ、柏木は優にこの話を持ってきたと言うわけなのだろうが。
そして、分かった。彼女が、優に頼もうとしていること、その内容が。
「それで、本題なんだけど……神代優くん。あなたに、魔法士として依頼を頼みたいの。内容は、この子を一人前に仕立て上げること」
「……一応、なぜ? と聞いても?」
予想出来てはいた事だが、どうにも腑に落ちない。なぜ、引退した身である自分にそれを頼むのか。そして、なぜこの少女を一人前に仕立て上げなければならないのか。
柏木は聞かれることを想定していたかのように頷いて。
「なんであなたに頼むのか、という点だけど……これは単純。単に教えられる人間がいないからよ」
「だからって俺じゃなくてもいいじゃないですか。それこそ……くるみとか、真壁……は除外するとして、天城とか適任だと思いますけど」
「それは無理よ。神薙芽亜はそもそも、組織に所属していない」
「組織に……陰陽党には、入ってないんですね……」
陰陽党と言うのは、いわゆる魔法士が集まってできた組織だ。本部を近畿に構えており、優が引退するまでは最も多くの魔法士を抱えていた組織だ。勿論、弊害はある。
彼らは育成に力を注いでいる組織だが、組織外の人間に教えるのを断固として禁止している。だからこそ、この少女は組織の恩恵を受け取れないのだ。
「それに、天城は無理よ」
「なぜ? 真壁とかとは違って、感性で教えるような人間じゃないと思いますけど」
「──彼女と私は、三家の一つである夜叉神家に入ったの」
「な──」
今の今まで驚くことのなかった優だが、ここに来て始めて動揺の声を上げてしまう。三家──つまり、陰陽党に属さない魔法士の直系である。夜叉神、天神、白神の三家だ。今の会話で出てきた夜叉神とは、東京に拠点を構える魔法士の家柄であり、第一階位を何人も輩出している名家だ。
本来であれば、自らの親戚だったりなんだったりで囲み、余所者を入れないことで有名なのだが──どうにかして、この二人は夜叉神に入ったと言うわけだ。
「だから、組織が違う。教えるわけにはいかない。だからこそ、あなたに頼むしかないの。組織に属さず、縛りのないあなたにしか、頼む人がいないのよ」
「──」
柏木から送られる視線に耐え切れないように目を逸らし、考える。恐らく、なぜメアと言う少女を一人前に仕立て上げるのかと言う疑問に答える気はないのだろう。なんとなく、目でそう言っている気がする。
何も知らぬまま、何も聞かずに、ただ依頼を受けてほしいと。
「勿論、期限はある。今から数年──いえ、二年ぐらいで。この少女を第三階位に持っていってほしいの。初心者である真壁を第三階位まで持っていったあなたならば。引退する前、何もかもを救いあげたあなたならば、不可能ではないはず」
「──」
「勿論、報酬は用意してある。あなたが大学を希望しているのは知っているわ。だから、大学に入ってからのお金をこちらで負担する。尚且つ、あなたの将来に関して口利きもする。これが、こちらから出せる報酬。まあ、あとから追加もあるかもしれないけど」
魅力的な提案に違いない。とはいえ、優の将来なんて取って付けたようなものだ。ただ、平穏を歩みたいから選んだだけの道。そんなものが果たして将来の夢と言えるのかどうかは甚だ疑問が残る。
ゆえに、優が選んだ選択肢は──。
「──いいや、悪いけど、断らせてもらいます。他ならない柏木さんの頼みでもね」
「どうして、と理由を聞くのは野暮かしら」
「どうしてもなにも、ただ単純に魔法士の世界に戻りたくないだけですけど」
優は引退したのだ。ならば、どうして終わったはずの世界に戻って死闘を繰り広げなければならないのか。優があの世界に戻れば、呼びたくもない連中までも呼び寄せてしまう。折角手に入れた平穏を失うなど考えたくもない。
それに──魔法士の世界に戻れば、思い出したくもないものを思い出してしまうから。
これ以上ここに留まる必要はない。それを示すために、床に置いた鞄を肩にかけ、椅子から立ち上がりその場を後にする。
「それじゃ、この話はこれで終わりで。いくら積まれても、俺はこの仕事を受けませんから」
「──最後に一つだけ、聞かせて」
「なんでしょうか」
「夢は、どうなったの?」
「理想論だったんですよ、結局は。何もかもを救い出すっていうのは、幻想でしかなかった」
彼が幼い頃、抱いた夢であり、淡い希望であった。だが、出来なかった。出来るはずもなかった。子供だって、分かる理想論を、ただ諦められていないだけだったのだ。
それだけ伝えて。柏木の顔も見ないまま、カウンターにお金を置いて、カフェから去るのだった。
「なにしてるんだ、啓二」
「いやいや、俺も今来たとこだから正確にゃ把握できてねえんだが……どうも、正門前に別の高校の美少女がいるらしいんだよ」
「そんなやつが実際に居るのかよ……」
柏木と決裂、というか彼女の持ってきた仕事を断った次の日。本日もまた、偽りの殺人犯の動向によって授業が14時ぐらいに終わった。正直、彼らが流した情報によっていろいろ騒ぎになっているのだから謝罪ぐらいしてほしいものだが、どうやら暫くはこのままでいくらしい。
諦めて、大人しく帰ろうとしたところ──なぜか正門前に集まる人だかりを見つけ、その中から顔見知りである長嶋啓二に話しかけたと言うことだ。
「まあな、そんなの物語の中だけ存在だと思ってたけどよ、こりゃ期待しちまってもいいんだよな!?」
「何を」
「そりゃ、お前。その美少女がこんな学力高いだけが取り柄のクソ高校に来たってことはよ、つまりあれだろ。誰か恋人でも待ってるか、もしくは幼き日に分かれてしまった幼馴染でも探しに……」
「お前、時々話が飛躍するよな。そんな都合のいい話なんてないだろ」
勝手に感極まってる啓二の肩を叩いて、現実に引き戻させた後。結局、優も気になるので啓二と共に、人だかりの中心へと足を運んでいく。
なんだか正直、嫌な汗が噴き出しているが、気のせいだろう。そう、気のせい。
「さあさあ! どんなカワイ子ちゃんなのかなぁ~」
「いつもよりも嬉しそうだな、啓二……」
鼻の下を伸ばしている友に呆れつつ、いつもなら歯止め役を買って出る優もこの時ばかりはその美少女を一目見ようと視線を正門に向けて──。
──いた。正門の左、壁に寄りかかり、自分のスマホを注視している少女が。
肩よりも少し長いくらいの黒髪に、アメジストの瞳。遠目からでも分かる、息を呑むような美貌。少なくとも、ここらへんでは見た事のない──当然、うちの制服でもない──制服を着て、何かを憂えるように、目を細めていた。
「おおっ!? すげえ、めちゃくちゃレベル高いじゃん、あれ!?」
「癪だけど、今回はお前の意見に賛成……?」
啓二の声に賛成しようとして、気付いた。見た事のないはずの少女なのに、知らないはずの少女なのに、なぜか既視感がある。そう、まるで──。
「啓二。悪い、急用ができた。帰らせてもらう」
「ん? お、おお? いや、どうしたよ、優?」
いきなり帰ると言い出した優に、啓二は疑問を呈してくるが、今だけは返答しているだけの暇はない。出来るだけ早く、尚且つ目立たないように輪から離脱して、家に戻り──。
だが、世の中とは思うようにいかない。優がどれだけ平穏を願っても、周りがそうさせてくれない。
「うおっ!? と、跳んだ!?」
なんだか聞き捨てならない単語が聞こえたが、あくまで無視だ。振り返ってはならない。このまま輪から出ることを目的にして──。
さて、ここで一度確認しておこう。正門──つまり、謎の美少女から優まで約20メートルはあったはずだ。どれだけ頑張って走っても、優には追いつけない。それが前提のはずだった。
なのに、その前提は崩れ去る。
ふわっ、と。目の前に何かが降り立つ。それは先ほどの美少女。──つまり、約20メートルの距離を跳んできたのだ。
優の目に見える動揺も何もかも無視して、少女はただ会えたことがうれしい、と言うように笑って。
「お久し振りです、優さん」
謎の美少女──かつての神代優の知り合いである、天城音々と再会を果たしたのだった。