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現代魔法士と魔導教典  作者: ミノ太郎
第一部 二章
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29話 真実を告げて

「さて、噂には聞いていたが……今日も稼働していない、か。責任者もいないようだし、一体何が起こっているのやら」


「さあ? それより、気を付けてくれよ。誰が、どこで、どんなふうに攻めてくるのか予想がつかない。流石に、全方位から魔法が来たら守り切れる自信はない」


「はっきりと言ってくれるな、魔法士。……だが、どれだけ絶望的だろうとやってもらわなければならない。なにせ、死ぬ気はないのでね」


「ああ……勿論、できる限りはするつもりだ」


 無人の工場を見て、二人はそんな風に呟いた。


 ──六月十四日。土曜日朝九時。増野栄次郎の護衛最終日のこの日──優と護衛対象の増野栄次郎は、かねてからの予定であった、丘の上に立つ工場に来ていた。

 しかし、相も変わらず、機械も作動せず人すらいない。完全な無人空間であった。それが逆に、不気味さを醸し出していると言えばいいのか。


「従業員もいないとなると……本格的に失踪か、もしくは既に……か。家族の方に連絡はしているんだが……どうにも、本人と連絡がつかない」


「工場……か」


 一週間ぶりに足を踏み入れての感想は、嫌な感じがする、というものだった。あの時は違って、悪意に満ちているような、そんな感触。踏みしめる一歩一歩が、蜘蛛の糸に絡まれているかのような、そんな気づかないうちに泥沼にはまってしまっているような、感じだ。

 できれば、早いうちに出て行ってもらいたいのだが……。


(今はまだダメだ……今ここを離れれば、暗殺者が出てきたときに対処が難しくなる。ただでさえ、敵の内が知れないのに、俺がいなくなれば、ますます状況は悪化してしまう……)


 今現在、裏側の方で天城達に囚われた白神桃華を探してもらっているが──未だ連絡はない。見つかったならば、優だけに分かるメッセージが行われるはずなのだが……それが来ていないということは、未だ見つかっていないという証拠なのだろう。

 この工場は見た目、それほど大きくは見えない。だが──それだけ慎重に進んでいるということだろう。優で感じ取れると言うことは、天城も感じているということに他ならない。


「それで、いつまでここに?」


「ああ……もう少し、見学させてもらうことにする」


 結局、帰るという選択肢は生まれないらしい。こちらとしてはありがたいが……しかし、腑に落ちない。ここに長居する意味が、果たしてあるのか。いや、そもそも殺害予告がなぜ一週間しかこないと断定しているのか。

 ──と、そこで。


「──少し、待ってほしい」


 前を行く増野栄次郎を呼び止め、優は自身が見つけた部屋に入っていく。ここは以前来たときには入れなかった、というか見つけていなかった部屋だ。ここに入る前に、早瀬雲母という少女を助け、暗殺者と開口してしまったため見ることができなかったのだ。


「書類……?」


 増野栄次郎を部屋の扉の端に居てもらい、優は部屋にあった机に置かれていた書類を手に取る。

 ホッチキスで纏められた、分厚いそれ。常ならばパソコンで管理するような情報。それが、そこにあった。

 ──『魔人化薬。その製造方法について』。


「──っ!?」


 息が、思わず詰まった。これはまさしく、三家や陰陽党らが求める情報。今、魔法士界を揺らがせている魔人についてのだ。だが、同時に信じられない事でもある。こんな重要書類を、こんな風においておくのだろうか。それとも、目を通した瞬間に暗殺者が飛び出て、一瞬のうちに駆られるのだろうか。

 ──どちらにせよ、抑えておく必要がある。


「持ってきておいてよかった、か……」


 ポケットから取り出すのは、優の携帯だ。情報を手に入れたと言っても、結局確かな証拠がなければ意味がない。そんなわけで、証拠を納めて──。


「ああ……『愚者』よ。一つ言い忘れていたことがあった」


「──?」


 今まさに、取る瞬間。

 増野栄次郎は、そう唐突に切り出した。


「もう、分かっているのだろう? 今回の事件、その顛末を」


 増野栄次郎は、どこか自嘲じみた顔を浮かべて──ついに真相に踏み込むのであった。



















「……ここにも、いないですね」


「そうだね……」


「…………」


 天城音々、神薙芽亜、早瀬雲母の三人は、暗殺者によって囚われた白神桃華を助けに来ていた。

 だが……天城は、ひしひしと感じていた。何者かが、この工場内にいると。それは、間違いなく優に匹敵するほどの化け物であると。


(気をつけるべき……ですね。ここまであからさまに警備員がいないだなんて……なにか、踊らされているような感じが拭えないですし……)


 監視カメラもなければ、赤外線センサーもない。

 逆に、警備が厳重であればそこに白神桃華がいるという証になったのだが……それがないせいで、どこに白神桃華が居るかが分からない。こうなれば、もう虱潰ししかなくなる。天城としては、三家からにらまれたり、色々と問題の種になっているメアや、恐れられている早瀬雲母がいるため、時間がかかる虱潰しは避けたかったのだが……仕方あるまい。これが一番確実な方法なのだから。


「…………!」


 そこで。天城とメアを挟んだ真ん中にいる早瀬雲母が、何かを見つけたのか、指を指して何かを伝えたそうにしていた。

──一つの部屋だった。外は昼だというのに、しかしそれを感じさせないほどの暗闇。明かりもなければ、電気も通っていなさそうな部屋。まるで、何もないと言っているかのような造り。

 だからこそ、確信できた。必ず、ここにいると。


 ──正直、天城音々には白神桃華を助ける理由なんてなかった。というか、むしろ助けるのに気は乗らなかった。高圧で、世間知らずで、初対面の時なんて、絶対に仲良くなれる気なんてしないと思っていた。

 だが、それは天城個人の感情に過ぎない。少なくとも、メアや早瀬雲母、そしてなにより神代優は救い出すと言っている。であれば、個人の感情を優先することなどありえない。


「いました……!」


 あらかじめ持ってきておいた携帯で明かりを点け、周りを見渡し──ついに、その少女を見つけた。片方の腕を鎖に繋がれ、壁に寄りかかっている白神桃華を。

 しかし──その姿は無残なものではあった。彼女が来ている制服は、腕から肩まで喪失しており、スカートも際どいところまで破かれている。幸いなのは、制服が完全に破かれているわけではない所だろう。


「桃華さん!? 大丈夫ですか!」


「……っ、『女帝』、天城音々……に、神薙芽亜……雲母、ですの……?」


「ちょっと待ってて、白神さん。鎖切るから!」


 攫われてからまともに食事もとっていないのか、憔悴しきった顔で、告げた。


「どうして、私を──いえ、それよりも!」


「──?」


「あの男を……『愚者』を、ここに連れてきてはいけませんわ……!」


「桃華さん……?」


「音々! 魔法が、使えない!?」


「──……まさか……!?」


 そこまで来て、ようやく天城も悟った。ここは既に、敵の牙城であると。そして、天城音々という少女は──このオリジナル魔法を知っている。以前──否、4年前程に、天城はこれを見たのだ。


「神代優を……連れて逃げてくださいませ! ここは……あの男を殺すために、あつらえられた場所……そして、かの『愚者』を殺すことを望む人間が……!」


 それが言い終わる前に。


「な──」


「つ……最初から、ずっと、仕組まれて……!?」


「…………!?」


 床が、彼女達を支えていたはずの床が、消えた。

 まるで、穴が開いたように、暗闇が口を開けて手招きしているのが、見える。

 ──人間は、落下する。いや、この世界の全ては、重力に逆らえない。仕切りがなければ、永遠に落下するだけである。そして、今回も──。


 落ちる、落ちる、落ちていく。

 工場を飲み込む、暗闇に──。


















 時はほんの少し前に遡る。


「まず、おかしいと思ったのは護衛の依頼が舞い込んだ日……そこからだよ」


「理由を、尋ねよう」


「じゃあ聞くけど……あなたはなぜ、これが魔法士の暗殺だと知った? いや、それ以前に、なぜこんな荒唐無稽な話を信じた?」


 信じるはずがない。虚言だと、妄言だと、そんな風に切り捨てるのが普通だ。そして、なにより表と裏は不文律。関わることすら滅多にないはずなのだ。

 考えれば、分かる。今まで、歴史の中で、魔法士が表立って扱われたことがあっただろうか。戦国時代、江戸時代、明治、大正、昭和──。

 ない。ないのだ。魔法士達は、裏側に居て、表舞台に出ることはあり得ない。


「魔法士を使って暗殺……今までそんなことをしてきた人は誰もいなかった。少なくとも、政治家という括りの中ではね」


 ならば、天神家の暗殺部隊は何のためにあるのか、と問われれるかもしれないが、あくまでもあれは表に干渉するためではなく、三家を牽制するために作ったものだ。実行するにしても、襲うのはあくまで三家の関係者や、無法者だ。


「……」


「なら、どうやって? どんな情報網を使った? ──いいや、不可能に近い。どれほどの情報網を使ったところで、掴めないはずだ。だって、魔法士は、暗殺者は痕跡を消すのに長けているのだから」


「……」


 魔法──即ち、奇跡。奇跡を扱う者達に、一般人では辿りえない。

 どれだけの痕跡を探ろうとも、一般人では辿り着けない真実があるのだ。のに、なぜこの男は辿り着いた? どうやって? 死にたくないから? 死にたくないから、柏木由姫に連絡して優に護衛を頼んだ?


「そして、二つ目の疑問。なぜ、あなたはこの街に来て、わざわざ目立つことをした? ……いやそもそも、なぜ相手側が増野栄次郎を断定できた? 疑問は尽きないよ」


「……」


「三つ目。暗殺者が来て、あなたは一切動揺しなかった。それはなぜだ? どうして、顔色を一つも変えず、心拍数も上がらず、平然と過ごしていられる? 当事者はあなただというのに。……まさか、俺を信用していただなんて馬鹿げたことは言わないでくれよ」


「……」


「四つ目。一週間、全部の日に暗殺者は来たけど……そのすべてが、夜だった。そう、俺が離れてからそれは来ていないんだよ。こうなれば、もう推理する必要性もないだろう?」


 ……決まっているではないか。論じる必要もない。最初から、答えは決まっていた。


「暗殺者に……いや、殺害予告をしたのは、あなた自身しかいない」


「……見事だ。『愚者』よ」


「そうなれば、今までの不可思議の事象に、説明がつくし、暗殺者達も口を割ったしね」


 最初の疑問である、なぜ増野栄次郎は魔法士案件だと特定できたのか。──自分が依頼したから。

 二つ目の疑問。なぜ、暗殺者は増野栄次郎を断定できた? もっと詳しく言えば、なぜ増野栄次郎は自分自身と特定されるような車と服装で来た? ──自分が依頼したから。つまりは、全てを設定したから。

 三つ目の疑問。暗殺者が来ても、取り乱しもせず、平然としていられたのは? ──自分が依頼したから。つまりは、来ると分かっていたから、驚かなかった。

 四つ目の疑問。なぜ、暗殺者が優が居た時にしか来なかったのか。ひいては、優がいなくなってからは来ていないのか。──自分が依頼したから。つまりは、その時間に設定したから。


 最初に出会った時、彼は言っていた。自分には強力な助っ人がいると。

 ──だが、天城に探らせた結果、誰もいなかったのだ。つまり、無防備極まりない。なのに、襲われなかった。襲うなら、絶対にそこなのに。

 それも、全てこの男が依頼し、状況を作り上げた。


 ──全ては、この男の掌の上。踊っていただけに過ぎなかったのだ。


「素晴らしい洞察力だよ……感服する。ああ、白状しよう。今回の暗殺、裏がいるとしたら私だ。まあ、結局私も使われた身に過ぎないがね」


「どういう……?」


「さて、ここで私は君に一つ、質問をぶつけよう。いや、なに、これは私から湧いてでた言葉ではなく、借り物……つまりは、カンペがあってのものだ。そう、固くならなくていい」


「……」


「今日、私がなぜここに来たのか……そして、私の賭け。その意味が、分かったかな?」


 それについては、分からなかった。結局、どことも繋がらないのだ。わざわざここに来る必要なんて、彼にはないはずなのに。


「なに、簡単な事だよ。……賭けとは、極論、君がここに来るまでに気づくかどうかという話だ。君がここに来るまでに全てを明かせば、私は政党を離脱し、隠居生活を送るつもりだった」


「なぜ……?」


「関係もない一般人を、更には子供を生死分かつ世界に関わらせてしまった。それこそが、私の罪なのだよ。……だが、君はここに来るまでに解き明かせなかった。いや、言わなかった。その時点で、決まっていたんだ」


「なにが……!?」


「……来るぞ。君を殺すためにこれだけの舞台を作って見せた、男が」


 その言葉と共に。工場が、揺れる。


「待て……増野栄次郎! 何を、企んでいる……!」


「対価は私の命だよ。賭けは、相手側の勝ちだ……ゆえに、もう隠している必要もないだろう。……私はね、長いものには巻かれる主義なんだ。──要は、意志が弱いと言うことだよ。普段は、毒舌でごまかしているがね。……結局、死をチラつかされて、私に抗う気力はなかったのだ」


「何を……!?」


「私に課せられた役割はただ一つ。……君をここに連れてくることだ。そう、分かってはいると思うが、私の役割はここで終了になる」


「くそ……」


 それだけ伝えて。真実を告げて。工場の床が抜けた。──ちょうど、増野栄次郎と優の足場を境にして、穴が開いた。手を伸ばそうとしても、届かない。それもそうだ。増野栄次郎との距離は手を伸ばしても届かない距離で、尚且つ足場がないので跳ぶことすら出来ない。

 完全なる暗闇が、大口を開け──そして、増野栄次郎は。


「さらばだ。『愚者』。……生きて帰ってこれたなら、君にとって重要な話をしよう」

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