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現代魔法士と魔導教典  作者: ミノ太郎
第一部 一章
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プロローグ‐01 闇夜に紛れて

「はあ……はあ……」


 街頭すらろくに存在せず、数メートル先の視界すらままならない住宅街。そこで、一人の少女は壁に手を置いて緊張を解きほぐすように深呼吸を繰り返していた。

 現在時刻は既に22時を回っており、誰も外に出ている者はいなかった。というか、本来であれば少女もこんな時間帯に外になどは出ない。


 だから、今回はイレギュラーだ。


「よし、緊張しない緊張しない……大丈夫、今回のは魔物になり損ねた怨霊を消し去るだけだから……」


 銀髪にアクアマリンのような瞳──日本人とは一概に言えない特徴を持った少女は、どこかの学校のジャージの上からコートを着た格好で、早まる鼓動を抑えようと掌で頬を叩いていた。


「魔力は減ってないし、体も案外動く……不測の事態のために、護符は持ったし……うん。よし、行こう」


 神薙芽亜──メアはここに来るまで何度もしてきた確認をもう一度行い、気合を入れなおす。持ってこれるものは全て持ってきた。あとは、そこに行くだけだ。

 覚悟を決め、依頼があった場所へ。



「ここら辺に……居るはずなんだけど」


 メアがやってきたのは、人気のない公園──既に時間が時間なので居るはずもないが──だ。ここで、怨霊が確認されたとの報告があったらしい。本来であれば、組織にすら入っていないメアでは仕事を受けられないはずだったのが、彼女にコンタクトしてきた仲介人の慈悲によって話は変わった。


 ──今回の仕事を成功させれば、ひとまず向こう一か月の仕事を確約してくれると。正直、虫のいい話なのは理解できている。だが、断る選択肢はメアの中にはなかった。

 そう、メアには力が必要なのだ。強くならねばならないのだ。そのために、強くなるための一歩としてこの仕事だけは何が何でも成功させなければならない。

 

「取りあえず……地面に魔法陣でも描いて……っと」


 一通り公園内を見て回り、誰もいないことを確認したメアは公園の入り口に舞い戻り、地面に魔法陣を描き始める。これはこの世界では一般的な事になる。もしも怨霊払いをしている間に、一般人が割り込んできたら面倒なことになってしまう。

 ゆえに、仕事を始める前に魔法陣を描いて公園内に人を入らせないようにしなければならないのだ。


「よし……じゃ、始めよう」


 魔法陣を描き終えたメアは、公園内の配置されている時計を見やる。公園にやって来た時から既に30分ほど時間が経っており、もう少しで23時に差し掛かるところだ。

 そして、今回の仕事の始まりの時間である。


「──どこに、いるの……」


 未だ現れない怨霊──その姿を探し求め、首を動かし続ける。通常であるならば、数人のパーティーでも組んで隙を補完し合うのだろうが、ここにいるのはメア一人。いつ、どんなタイミングで背後に回られるか分からないので、常に気を張り続けるしかない。

 そんな風に周囲に気を付けながら、その時を待ち続けて──。


「──来た」


 そして、ついに怨霊が現れたことを悟る。実体のない霊──いわば、悪霊。魔物になり損ねたものだ。基本的に、怨霊と言うのは専用の魔法を当てればこの世から去る。

 ここら辺は少し調べれば出てくると思うが、お祓いもこれと同じだ。専用の魔法を、憑いている物、または人に当てることによって怨霊を退去させるのだ。


「──っ」


 まるで死神のような視線が、メアを捕捉する。ここで注意しなければならないのは、怨霊を倒し損ねた場合は乗っ取られる可能性があるということだ。理屈は分からないものの、そういった裏に潜む化け物たちを相手にしているからこそ、怨霊にも憑かれやすいのかもしれない。

 ともかく、この場合に取るべき行動はただ一つ。


「まず、除霊を……」


 怨霊をこの世から消し去るには、専用の魔法──つまり、除霊を行う必要があるのだ。これが数人規模のパーティーならば、誰かが怨霊の気を引いている間に他の人間が除霊の詠唱を始めるのだが、如何せんメアは一人。ゆえに、詠唱している暇がない。

 だから、詠唱を使わない方法で除霊を行う必要がある。


 メアの体に憑こうとする怨霊から逃げまどいながら、メアはポケットから一枚の紙きれを取り出す。これはいわゆる護符というもので、魔法を発動直前で閉じ込めたものだ。魔力を籠めることによって発動させることが出来る代物だ。

 メアは紙切れ──護符をこちらを追い立ててくる怨霊に向けてかざし、魔力を籠めることによって中に閉じ込めた魔法──除霊効果の魔法を発動させる。

 形はまるで矢のようなものだ。一見すると、あまりにも頼りなさげなそれが闇夜を斬り裂き、怨霊に迫って──。


『aaaaaaaaa‼』


「うっそ……そこから避けるの……?」


 だが、そうは簡単に事が運ばないのが常だ。絶対に避けられないよう、ある程度近い距離から放ったのだが──あっさりと避けられた。しかし、ここで引き下がるつもりはない。

 もう一度標準を定め──発動する。それも何度も。

 都合除霊効果のある魔法が四発。逃げ道をなくしてからのこれだ。絶対に避けられないはず、そう思ったのに。


「それでもまだ……っ」


『aaaaaaaa‼』


 そんな自信共に放った魔法は、だが当たらない。怨霊はまるでそれを見越していたかのように、魔法の一発目が辿り着く前に空中へと避難。

 ──油断した。そんな考えが脳裏に浮かぶ。


 分かっていたつもりだった。想定していたはずだった。なのに、実践ではやはり思い通りにはいかないらしい。


(なら……せめて、逃げられないような場所に誘い込む! そうすれば、逃げる間もなく……?)


 だが、そこでドジを踏んだ。動かしていた足がもつれ、草むらで転んでしまう。体に損傷はない。しかし、これは致命的──。


『aaaaaaaaa‼』


「早く、取り出さないと……」


 このチャンスを逃すなと言わんばかりに、空中で漂っていた怨霊が一気に降下してくる。そう、メアの体を乗っ取るために。

 一方、メアは先ほどの護符を捨てて、使っていない護符を取り出そうとするが──間に合わない。

 手が震えて、ポケットに入れていたはずの護符が掴み切れないのだ。そうこうしている間にも、怨霊は進んでくる。


(こんな、ところで……)


 ──終わりたくない。だけど、そんな願いは届かずにメアの体は怨霊に乗っ取られ──。


「……、あ、あれ?」


 なぜか怨霊に体を乗っ取られない。そんな感想を頭によぎらせながら、恐る恐る目を開けると。


「い、いない……? 怨霊が」


 先ほどまで降下してきていたはずの怨霊が居なくなっていた。そう、メアが目を閉じた一瞬の間に。いや、もしかしたら乗っ取られていて、中の怨霊が除霊され意識を取り戻したという線もなくはない。

 が、その説もどうやらなくなった。最近新調したスマホを取り出し、日にちと時間を見てみれば今日の日付だ。

 つまり、怨霊は払われた、とみていい。


 だが、腑に落ちない点はある。


「誰が、やったの……?」


 メアのそんな呟きに、答える声はなかった。

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