それは起きてしまった
12:
何から質問していいかわからなかった。
天使の羽根?
百鬼夜行?
田邉は何をしている?
どの疑問を先にぶつけるべきか。
「ホテルに逃げろ!!」
田邉が謝池を突き飛ばす。
黒い影が飛びまわっている。
「なんだよこれ!」
謝池は目を疑った。
その目の前には、いわゆる、漫画や絵画に出てくるような、黒い翼と角、牛の顔と尻尾を持った、
3mくらいの、「悪魔」としかいいようがないものが、動いていた。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前!」
田邉が、唱えながら、手印を結んでいる。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前!」
こんどは、指で空を切っている。
「ナウマク・サマンダ・バザラダン・センダ・マカロシャダ・ソワタヤ・ウン・タラタ・カン・マン!」
田邉の祈祷かと思われるものが続く。
「悪魔」のようなものは、見る間に腕を身体にひっ付けぎりぎりと締め付けられていく。
「オン・キリキリ!」
田邉の祈祷は続く。
その時、「悪魔」が口から、どす黒い粘液のようなものを吐いた。
田邉がよけながら足に被った。
「いてぇえ!」
田邉の祈祷が中断された。
田邉の足から煙が上がっている。
「謝池!逃げろ!早く逃げろ!」
田邉が路地に倒れながら叫ぶ。
「悪魔」が動きだしそうにしている。
謝池の頭によぎった。
『勢至菩薩印』
『樹の芽』で見た、
そして、晃聖上人に教わった言葉に合致した印。
謝池は手印を結ぶと、大声で唱えた。
「オン・サン・ザン・サク・ソワカ!」
錫杖の音がした。
数珠が震えた。
そして、むこうの方で強い光が発した。
「悪魔」は縛られていた体制から解かれて、今にも田邉に襲いかかろうとしている。
「田邉ええ!」
謝池は叫ぶよりも早く、田邉に覆いかぶさった。
空に轟音が轟く
「ゴオォォォォォォォォ」
音が近づいて来ると同時に、「悪魔」は手を振りかぶり、爪を光らせていた。
「バカヤロウ! お前は逃げろ!」
田邉は謝池を振り切って前に出た。
「ズシィィィィィィィィィン!!」
「悪魔」が『それ』に潰されていた。
12:
『それ』はそこにあった。
本来あるべき場所に無く、違うそこに居たのだ。
「なんなんだよこれ…」
そう呟くのが精一杯だった。
『それ』はいかにも人間らしく、二本足で立っていた…
見覚えのある屋根、壁、窓。
人の形はしているものの、『それ』は記憶に合致した。
「ウソだろ…」
『それ』はまぎれもなく人の形をした、
『金閣寺』だった。