修学旅行~戸惑い~
9:
部屋に戻ると、何やら男子がテレビを見ながら話をしている。
「買い出しご苦労。ささ、献上品の上奏を賜るぞ」
同じ部屋の男子が謝池からお菓子と飲み物をとりあげた。
「後で折半な」
謝池がテレビに向かって座った。
部屋の男子が話かけてくる。
「東京でテレビが見れなくなってんだと、ここは京都だから地方局はまだ見れるみたい」
「スカイツリーが事故っちゃったんじゃない?」
各々声が飛んでくる。
携帯が震える。
「さっきは、ありがと!もっともっとキレイになってやるからね!」
靖子からメールが届いていた。
それともう一件メールが。
母からだ。
メールを開いた。
「これをよく見ておいて。
貴方の守護菩薩は『勢至菩薩』。手印と真言は絶対に憶えなさい。
それと、お母さんに、何があっても心配しなくていいから」
その一文と共にURLが張り付いている。
それと、『パスワード』という文字の後に、数字が8桁。
URLを開いてみた。
『パスワードを入力して下さい』という文字と、パスワード欄がある。
母のメールにあった、パスワードを入力した。
webサイトが現れる。
『樹の芽』
という、サイトのタイトルの文字が、黒バックに白い文字で、如何にも無愛想に、機械的に書いてある。
「なんだこれ?」
中身を見てみると、手の写真や模様のような文字の羅列がある。
どうやら真言密教で使う、真言や手印の組み方の解説サイトのようだ。
「これは!」
と、思い当たった手印。ある光景が思い浮かぶ。
『九字の印』
エレベーターに乗りこむ時に、田邉が空を切っていたあれだ。
「あいつ、なんであんな事してたんだ…?」
疑問に思うと同時に、少し興味が湧いた。
謝池は、試しに勢至菩薩の手印を組んでみた。
神様を拝む時の合掌の指を軽く開き、左右の指と指の間に指を挟むようにする組み合わせだ。
ヴヴヴヴヴヴヴヴヴ!
左腕の数珠が振動した。
「なんだ!!?」
と、同時に、田邉が部屋に入ってきた。
疲れているように見える。
「おお、献上品御苦労。上奏受け賜るぞ」
男子が田邉からお菓子と飲み物を取り上げた。
「どうしたんだよ、お前さっき…」
謝池が聞く
「なんでもないんだ。わりぃな、いきなり怒鳴っちまって」
「それより、東京でテレビが見れなくなってるってよ」
同じ部屋の男子が口を挟む。
「あ…ああ、そうなのか。」
田邉は心ここにあらずという感じだ。
「お前らー、もう寝ろよー」
担任の長山がドアから入ってきた。
「わかりましたー」
各々銘々に応える。
「お前ももう早く寝て、今夜、絶対ホテルから抜け出してコンビニ行こうとかするなよ」
田邉が真剣な顔で迫ってきた。
「わかってるよ」
と、謝池は携帯へ目を移した。
「なにかあったの?」
母へ送った一文は返ってこなかった。