修学旅行~異質~
7:
謝池は落ち込んでいた。
もう夜だ。
夕飯も済ませ、各々クラスのグループ分け、男子女子別れて部屋にいる。
謝池は部屋の、いわゆる旅館ホテルにありがちな窓側の板の間に置いてある椅子から窓の下を眺めていた。
C班、D班は無事、周遊コースをすすんだが、靖子と二人っきりになるチャンスがなかったのだ。
ケジメをつけようと思っていた謝池は気は焦るまま、他のメンバーとはしゃぐ靖子を見ながら終始過ごして終わった。
共に過ごす人が、靖子では無く、田邉だったことは言うまでもない。
時間は19時。21時の教師の巡回まで、ホテルの下の国道沿いにあるコンビニまでは自由に出入りができた。
「靖子を携帯で呼び出すか…」
そう、思っていたところで、田邉から声がかかった。
「謝池、下のコンビニ行こうぜ!」
外に出て気分でも紛らわすか。謝池は田邉の提案に賛同した。
コンビニから戻って、ロビーに入ったところで、聞き覚えのある笑い声が飛んできた。
靖子含め、C・D班の女子達が笑い合っていた。
こちらが声をかけるより早く、睦美が声をかけてきた。
「あ、田邉君、明日の事で話があるんだけど」
田邉がみる間に女子達に囲まれる。
ロビーのソファには靖子だけが残っていた。
今だ、
謝池は突き進んだ。
「これ」
謝池は桃色のものを突きだした。
「ん?」
靖子が首を傾ける。
「八坂神社のお守り。本当は帰ってから渡そうと思ってたんだけど、今、渡しとく。
薄い桜色が靖子っぽいし、可愛いだろ?似合うかなって思って。
『美守り』って、いうんだとさ。」
「ありがと!!これつけたら、運命の人に振り向いてもらえるかなぁ?そうだといいなあ!」
気になる事を言われた。
靖子はイタズラっぽい笑みをこちらに投げかけている。
「そういえば、さっきの金閣寺でさ…」
謝池は言葉を続けた。
それから二人で、今日観て来た事を談笑した。
田邉は相変わらず、女子達に囲まれている…
8:
窓の外を何かが横切った。
「黒猫か?」
そう思うと同時に、
パンッ!!!!
柏手が、一つ、ロビーに鳴り響いた。
田邉が手を鳴らしたのだ。
しばらく、ロビーに沈黙が流れ、その沈黙を破るように田邉が大きな声を発した。
「さあ、そろそろ自由時間も終わるから、皆、部屋に戻ろうぜ!」
その場にいた全員が凍りついた。
「田邉君、どしたの?」
睦美が怪訝そうな顔で聞く
「いいから、早く、部屋にもどれ!お前らが時間過ぎてロビーにいると、俺が先生から怒られるんだよ。
それから、もうホテルの外に出るなよ。」
「言われなくても、もう巡回時間だから、皆戻るよ」
睦美がなだすように言う。
そこからチョロチョロと、一人、二人と部屋へとぞろぞろエレベーターを上がっていった。
「また、明日ね」
靖子がほほ笑んだ。
「謝池、お前も早くもどれ、そして、今夜は絶対ホテルから出るな」
「田邉どうした?お前らしくもない、テンパってるぞ」
田邉は軽く汗をかいている。
「位相がズレてる…」
「え?い、なんだって?」
謝池が聞く。
田邉はそれを無視し、ポケットからなにやら取り出した。
金色に輝く、握りの先には何やら球形に爪の膨らみがつき、鉄アレイのような形をしている。ちょうど、人差し指と中指と親指で握れる、何かのミニチュアのようだ。
「なんだそれ?」
謝池は訝しげに聞いた。
「なんでもない。まあ、お守りみたいなもんだよ、部屋戻れ」
謝池は田邉を心配しつつエレベーターに乗り込んだ。
エレベーターの扉が閉まる時、
田邉が空を指先で切りながら、何か言っていた。
チーン、チーン、チーン。
何か金属を弾く音が響いていた。
その音は、エレベーターの扉にかき消された。