全ての始まり
少女は走っていた。
薄暗い森の中を、全力で、わき目も振らずに。
美しい金色の髪がどれだけ小枝が絡まろうとも、 綺麗な白い肌にどれだけ傷がつこうとも、彼女は走った。
そんな少女の後ろから何か近づいてくる音がした。 彼女は後ろを振り替えると、5人の男が追いかけて来ているのが見えた。
(追い付かれた!)
彼女は走る速度を上げるが女性と男性、さらに子供と大人では走る速度が違い過ぎる。
「止まれぇ!」
男の1人が追い付き彼女を止めようと手を伸ばす。
「くぅ、《凍てつく鎧》!」
しかし、彼の手が彼女の肩に触れた瞬間、彼の体が突如凍りついた。
「よし、今のうちにっ・・・ああっ!」
ズサァッ!
再び走り出そうとした彼女だったが、追っ手に気を取られ、木の根につまずいてしまう。 急いで立ち上がろうとするが、
「やっと捕まえましたよ。」
残りの追っ手に追い付かれ、囲まれてしまった。
「全くすばしっこい王女様ですねぇ・・・おっと失礼、"元"王女でしたか。」
男達のリーダーが声をかける。
「・・・。」
「おや、せっかくの挨拶を無視ですか。そんな態度をとってると貴方の同胞がどうなるか、お分かりですよね?」
「・・・私を捕らえてどうするつもり? 奴隷にもせず閉じ込めておくだけなら殺せばいいじゃない!」
「私は別にそれでもいいんですがねぇ。上の方々の命令ですので。大人しく捕まってくれれば貴方の命も、貴方の脱走の手助けをした者達の命も奪いませんよ。」
「彼らは今どうしているの?」
「おやおや、自分の命よりも彼らの命を心配が心配ですか。心優しい王女ですねぇ。 まあ殺してはいないはずですよ。 死にかけかもしれませんが。」
「っ! 最低ね!」
「反逆者が生きているだけで感謝してほしいですよ。 ほら、さっさと牢獄へ戻りますよ。 遅くなると怒られるのは私なんですから。」
リーダーが少女を連れて行こうと手を掴む。
「触らないで!」
パンッ!
だが、その手を少女は払いのける。
「・・・自分の立場が分かってないようですねぇ。 お前達。」
リーダーの声と共に男達が皆剣を抜く。
「殺しはしませんよ、殺しは。・・・やれ。」
その声と共に男達が一斉に少女に襲い掛かる。
「《氷河の盾》!」
彼女は氷の盾を作り出す。
ザシュッ!
「ああああああっ!」
しかしその盾は3つの斬撃から身を守るには小さ過ぎた。
「ほらほら、大人しくしないとまた斬りますよ。」
「・・・。」
「まだそんな反抗的な目をしますか。 次は腕落としますよ。」
男達が再び少女に斬りかかる。
「くっ、《氷河の―
だが、少女が盾を張るより早く、
タン、タン、タン!
音と共に男達が地に倒れた。
「えっ?」
少女は呆気に取られる。彼女は盾を張ろうとしただけだ。
「お、おい お前達。なにが・・・。」
リーダーの男も突然のことに慌てている。
その時その"音"が聞こえた方から誰かが向かってくる音がしてきた。
「!? 誰だ!」
リーダーの男が音の方へ剣を向ける。
そこから出てきたのは30代ほどの男だった。帽子を被り、口に煙草をくわえ、手には不思議な形をした"筒"を持っている。
「誰だとは失礼だな。 まずはそっちが名乗れよ。」
「なんだと、貴様ぁ!」
リーダーの男は剣を振り上げ現れた男に斬りかかる。
「本当に失礼な奴だ。」
その時彼がとった行動は少女にとってとても奇妙なものだった。
彼は避けることをせず、手に持つ"筒"をリーダーの男に向けた。
次の瞬間、大きな音がして、気づいた時にはリーダーの男は吹き飛ばされていた。
「失礼なわりには、手応えないなこいつ。」
男は呟きながら筒をくるくると回す。
彼女はその光景を見ることしかできなかった。
「ん?おい嬢ちゃん ひでぇ怪我してるじゃねえか!見せてみろ。」
男は少女が怪我をしていることに気づき彼女の元へ駆け寄る。
「あ、あなたは・・・?」
治療を受けながら少女は聞く。
「なんだ、嬢ちゃんもか? そういうのは自分が名乗ってからだぜ。まあいいや。」
そういって彼は立ち上がる。
「俺の名はエルネスト・ゲバラ。 チェ・ゲバラとでも呼んでくれ!」