君と幸せになりたい。
あれから一週間、僕は家から出ることができなかった。街は「レジ袋強盗」の噂が広がっていて、とても外に顔を出せる状況ではなかった。
そんななか、ある噂が耳に入ってきた。それは、僕が奪ったレジ袋の代金を一人の女性が払ったと言うものだった。おそらく、その女性とは螢灯のことだろう。
しかし、なぜ彼女がそこまでしてくれたのか。僕にはわからなかった。
だって、カノジョじゃないのに。家族じゃないのに。幼馴染みでもない。友達と言えるかどうかすらわからない。
「なぜ。」
その言葉が頭の中をぐるぐると回り続け、その日は眠れなかった。
一ヶ月がたった頃には、噂はさっぱりきれいに消えていた。
久しぶりに家の外に出ると、太陽の光が眩しかった。
「散歩でも、してみようかな。」
ふと、そう思い、僕は目的地もなくぶらぶらと歩き始めた。
子供の頃、遊んだ公園。あの頃の僕らはどれだけ純粋だったのだろうか。今の僕は、大人の真っ黒な泥に沈んでいくようだ。
一度だけ、螢灯にこう言われたことがある。
「あなたは勇気があるのね。」
僕には、勇気なんてない。今まで、ずっと自分の道から逃げてきた。自分で情けないと思う。逃げてばかりで、問題に向き合うことができなかった。
強盗の話だってそうだ。面と向かって言えなかったから、あんな方法を取ってしまったんだ。他にもあったはずなのに。
結局、何も守れなかったじゃないか。本当の自分も。レジ袋も。螢灯も。
いつも螢灯と会っていた道。無意識に来てしまったのだ。あの日見ていた世界が嘘かのように、そこは明るく照らされていた。
突然、ふわっと甘い香りがした。
「…あっ…」
小さな声が漏れた。ふりかえると、あの日と同じように、そこには螢灯がいた。
嗚呼、僕はこれからどうしようか。そう思いながら、少しだけ、螢灯から目をそらした。
「治さん!」
思いもよらず、彼女から駆け寄ってきた。
其の時、僕の頭には思いもよらぬ事が浮かんだ。
____君と…螢灯と幸せになりたい
今なら言える筈そう思ってしまった。
僕が其の様な事を言って許されるのだろうか?
否許される訳が_「治さんどうしました?」
「何でもないよ。大丈夫。」
「そうですか?良かったです」
微笑む彼女の顔が僕の胸を締め付ける。
「あっ、あのさ、螢灯…」
「はい?」
いつの間に僕は恋に落ちていたんだ。
「君と…否、螢灯と幸せになりたい…、」
「治さん?」
「誓うよ、僕が螢灯を幸せにする」
「わたしも好きです」
「寶、僕と____付き合ってください」
「勿論、喜んで」
いつの間にか僕等は恋に落ちていたんだ
此れは紛れもなくレジ袋のお陰だ。
だから、僕はより一層思う。
此の世界から、螢灯とレジ袋を守らなければならないと。