This is it.3
なし
山門脇にある看板に佇む
何やら
感慨深げに
看板をみやる金さん
おうとかああとかも
言わず
私に言う
「なんだったんだろうね」
世界を又にかける
金さん
山門をくぐり抜けて
わたしは
目を疑う
高校時代訪れたそこは
玉砂利がしかれた
素晴らしい杉並木だった
そして
いまは
参道片側に
杉はない
杉のあった向こうには
申し訳なさそうに
家いえが建ち並んでいる
そして
ところどころに
鉄板が道にしかれ
何台も
小型パワーシャベルが
置かれており
静かに
工事が進行中のことを
伝えている
静寂がある
金さんは何も言わない
しかたがないので
黙って歩く
本殿は改装中であった
頭をたれる
「何なんだろうね」
心持ちの整理が
ついたのだろうか
金さんが
本殿に向かわず
参道を左に
曲がるのでついていく
ぼそりと言う
「ヤンキーだったんだわ
高校。
修学旅行で
ここに来た。
なんか
しらんけど
この先の寺でで
守りを買ったんだわ。
黙って歩く
「そんときわあ
したい放題だったわ
なんも
信じちゃいなかったし
自分もしんじちゃ
いなかった」
呆然と立つ金さん
早すぎてしまっている
その案内所
白い封筒が手渡された
前日に買ったのか
色とりどりの
ちいさな
ひょうたんが
たくさん付いている
「良縁にめぐまれるんだとよ」
「けっさくだよな」
「わらっちゃうよな」
「ヤンキーがだぞ」
ないている
何を今さら振り返る
旅なのか
それを話してほしいと思ったが
先に言われた
「けやき、
ロンドンに来ないか」
「おれには、おまえの居場所が
あると
思うんだが」
言ったきり
そのまま
手をひらひらさせながら
金さんは去っていく
後ろを見ず
寺の脇から
国道へ、海へと
通じる道を
まっすぐに
歩いていく
その歩きざまに
思わずみとれるも
なんでわたしに
いわせてくれないのか
金さんが歩く参道の
茶店の旗が
はげしく風で
揺れている
そのいさぎよさ
そして向かうべく
風に
今は
何もいえない
なし