会おっ?
「あなたに、会いたい。」
別に対して、私たちは両想いというわけではない。これは、私の勝手な片思い。でも、君に勝手に片思いするのだけは許して?…じゃないと、私はきっと辛くて死にたくなってしまうかもしれないから。
「好きです。」
って、告白して君を困らせることは絶対しないから。だから、お願い。君を好きでいることを許してください。
許してください。
許して。
好きだという気持ちは、心の奥に隠すから。
君にバレないように隠すから。
だから、君に片思いすることを許して。
「好きだ。」
幼馴染みから、そんなふうにはっきり好きって言われても、私の心の中はあなたでいっぱいいっぱいなんです。なぜかって?それが、恋だから。そういう仕方のないものが恋だから。
「好きだ。」
「好きだ。」
「好きだ。」
「好きだ。」
「好きだ。」
その幼馴染みに言われた言葉が私の頭の中をグルグル回ってる。好きでもない人に告白されたって、嬉しくない。やっぱり私はあなたに直接好きって言われてみたかった。
もし、あなたに告白したらあなたは、OKを出してくれるのだろうか?ああ、ダメだ。告白しないって決めたのに。あなたを困らせないって決めたのに早速、その決意という壁を恋の気持ちというまっすぐだけど不格好な剣でぶち破ろうとしている。だけど、その壁のガードは硬い。跳ね返されてばっかり。
「はああああああああああっ!」
ガギイィンッ
壁をぶち破ろうと壁に向かって剣をふった後、鈍い音を立てて恋の気持ちで出来た剣が真っ二つに折れた。これが、今の私の気持ち。まだまだ弱い。あなたに対する気持ち。でも、私は諦めきれずに何度も何度も血が出ても、残った剣の欠片で壁をぶち破ろうと何回も何回も振り下ろす。その度に手がじんじんと痛む。心もじんじん痛む。私の瞳から大きな粒が溢れようとも、私はかまわず何度も何度も剣を振った。
「これが、女の恋なんだ!しっかり伝われ!伝われ!」
「あなたが、私の気持ちに応えられなくてもいい。いいけど、私のこの気持ちだけはしっかり、受け止めて?」
✲✲✲✲✲
「先輩!高橋先輩!」
眩しい太陽の光が照らす昼休みの教室で私の好きな高橋伶二先輩は無邪気な顔で眠っていた。こんなに警戒していない、可愛い寝顔を見れてラッキーと思いながらも、他の人に見られたくない。先輩は、私のことをどう思ってるのかななどいろいろ不安な気持ちが私の心の中を三分の二以上占領しているのであった。
「んっんん。ん?鈴本?」
「先輩、昼練どうするんですか?」
「あー、ヤバ。忘れてた。すまん、ありがとう。」
────部長なのに忘れちゃあかんでしょ。
そうツッコミを入れながらも、心の中は先輩に名前を呼ばれたこととありがとうを言われたことが嬉しくてハイテンションになっているのだった。
────やばい!先輩に、
『ありがとう。頼れるスーパーキュートな後輩がいてくれて俺は嬉しいよ。』
とか言われちゃった!(※先輩は、ありがとうしか言ってません。あとは、勝手に鈴本が盛りました。)
────キャアアア!やばいよ、今心拍数があああっ!
「ん?鈴本行かないのか?」
「へっ?」
「ははあ〜ん。さては、部活をサボる気だな。」
「違っ!」
「いいよ、サボろっか?俺とさ、サボらね?」
先輩がイタズラっ子のように笑う。それが、あまりにも愛らしくて、私の耳と顔が赤くなる。
────先輩に気づかれてないよね?
「ん?どうしたんだ?顔とか真っ赤だぞ。」
────気づかれてたああっ!どうしよう?なんで?普段は髪切っても気づいてくれてないし、クロス塗っても気づいてくれないのになんで気づいて欲しくないところに気づくの?!
────もう、先輩が大好きだよ!
────好きだよっ!
────大好きですぅ!
「先輩、好きです。」
「…そっか。だけど、さぼるの好きとか言うのはどうかと思うぞ!」
「…違っ!」
「しっ。それ以上言ったら、ダメだよ。」
先輩が悲しそうな目で私を見つめる。先輩は、もしかしたら好きな人がいるのかもしれない。いや、いるのだろう。そして、私とは部活の先輩と後輩という関係。この関係を先輩は壊したくないんだ。案外臆病なんだね。いや、私も先輩と大して変わらない…もしくは先輩以上に臆病者なのかもしれない。だって、今も私の手は震えているから。
先輩は、誰か好きな人いるのかな。好きな人…。本当は私の先輩に対する気持ち、分かってるんじゃないかな。知りたいな。
「先輩は、好きな人いるんですか?」
「…いるよ。」
真剣な眼差し。本当に好きな人いるんだ。じゃあ、私が告白したら先輩に迷惑かけちゃうかな?先輩と私が一緒にいたら、先輩の好きな人が勘違いするかもしれないよね。どうしよう、離れたくないよ。先輩のこと好きって気持ち隠すから一緒にいてもいい?
「鈴本は、居るの?」
不意にそんなことを聞かれた。聞かれたってことは、私の気持ちに気づいてない?
「います。いますよ。」
にっこり微笑んでみる。先輩はどんな反応するかな?いつも通りの笑顔なのかな?それとも、ヤキモチ妬いてくれる?
「…そっか。」
先輩は、ぷいっとそっぽを向く。そして、頭を垂らす。
そんな先輩の反応に私の唇の端が上がる。これって、期待してもいいのかな。先輩に好きって言いたいな。言いたい!
「せっ!」
ガラガラ
教室のドアが開く。すると、私の幼馴染の高橋優貴が入ってきたのだ。そして、私たちの方にずかずか近づいてくる。
(ああ。先輩とせっかく二人きりで、告白できそうだったのにな。)
「おいっ、兄貴。」
「何?優貴。」
「体操服忘れた。貸して。」
「ハハッ、いいよ。」
ん?二人って兄弟?!えっ、6年間一緒で家に遊びに行ったりしてたけど、先輩居なかったよ!
「兄弟ってどういうこと!?優貴!」
優貴をがっちり掴み、優貴の体を強く揺さぶる。
「ちょっ、止めろって!おいっ、気持ち悪くなるから!」
「はっ、ごめん。」
「ふう。」
優貴が、一息つく。
「えっとだな。お前に会う前兄貴と俺の父さんと母さんは、離婚したんだ。んで、俺らは父さんと母さんに別々に引き取られて、高校で感動の再開をするのでしたってやつだ。」
「えーーー?!うっそ!」
「ほんと!」
「信じられないよ!」
「本当だよ。」
「あっ、先輩のことなら信じられる。」
「なんで、俺のは、信じてくれねえんだよ!」
ブーブー言ってくる幼馴染みに私は、ブーブー言い返した。すると、先輩は私たち二人を見てくすっと笑った。
「兄貴!何笑ってんだよ!」
「ハハッ、だってふたりがすごい仲いいから。鈴本、俺の前じゃそんな顔しないし、なんか新鮮だった。」
「────っ!」
だって、先輩には少しでも可愛いと思えるような顔を見てもらいたいんだもん。そんなこと本人には言えない。
「あっ、そうだ。鈴本、ちょっと話あんだ。来てくんね?」
「えー、何。(せっかく先輩と昼休み一緒に入れたのに。)」
「兄貴は、着いてくんなよ!」
「はいはい。」
私は、優貴に腕を引っ張られ裏校舎に連れてこられた。いかにも、少女漫画とかだったら告白シーンに使わされそうな場所だ。私には、どうして優貴が私をこんな所に連れてきたのかがわからなかった。
「…で、話って何?優貴。」
「そのっ!俺は…」
「ん?俺は、何?」
ちょっといらだたしげに問う。すると、優貴は覚悟を決めたように私に言った。
「好きだ。」
「はっ?」
「だから、好きだ。」
「誰が?誰を?」
「ああああ!だから、俺は、お前が好きって言ってんだよ!」
「────っ!」
私は、生まれて初めての告白に顔を真っ赤にする。でも、次の瞬間申し訳なさそうな顔をする。それで、優貴は私の答えが分かったのだろう。
「ごめん。私、先輩が好きなの。ごめんね、優貴。」
「なんとなくだけど、知ってた。」
「じゃあ、なんで!?」
「それでも、お前に俺の気持ち伝えたかった。」
「なんで、なんで!?我慢すればいいじゃん!」
「えっ?じゃあ、お前兄貴に告んねえの?」
「だって、自信ないんだもん。」
優貴は考え込む。私は、うつむく。そして、しばらくすると優貴が私の肩を掴み、揺さぶる。
「やっぱ、ダメだ!本当は、応援したくない…」
「おいっ!」
ついついツッこんだ。
「…だけど、だけど、お前の笑顔を見るためなら、俺は何でもしてやりたい。だから、お前の恋俺応援するから!がんばれよ、お前!お前、十分可愛いし性格だって…悪いほうじゃないしっ!自信持てよ!」
「おいっ!それ、後半褒めてる?!」
「褒めてるよ!でも完璧な奴より、ダメなところがある女子の方が可愛いだろっ!」
「でも、私告白しないって決めたの。先輩に迷惑かけたくないの。」
その言葉を聞いた瞬間、優貴の腕の力が強くなる。優貴は、叫んだ。
「はあ?!恋っていうのは、迷惑かけてなんぼだろっ!」
「でも、先輩と今までのような関係には戻れなくなるじゃん!ふられたら!」
「なんで、ふられた時のことしか考えねえんだよ!ちゃんと、告白成功した時のことも考えろよ!」
「────っ!私、私、期待していいのかな。告白成功するって期待していいのかな。」
「当たり前だ!じゃなきゃ、俺はお前に告ったりしてねえよ。」
「ありがとう。」
涙を流しながら、私は、強く頷いて、幼馴染みにお礼を言った。
ちゃんと、高橋先輩に私の気持ちを伝えるよ。伝えるっ!
私は、高橋先輩がいるはずの教室に一直線で駆ける。途中先生に注意されるけど、知ったこっちゃない。
「先輩っ!」
「好きです。」
「…。俺、」
告白現場に遭遇してしまった。
「俺、好きな人いるんだ。」
高橋先輩が女子の告白を断っていた。はっきり言って、この後に告白するのは、精神的にきつい。でも、もう先輩と目あっちゃってるし!
「先輩っ!私も、先輩のこと好きです!」
言ってやった!言ったよ。優貴。
「ごめん。さっきも言った通り俺には別に好きな人がいる。」
「ハイ、知ってます。」
「全然、知らないよ。」
ぼそっと先輩がつぶやく。その意味が私には理解出来なかった。理解出来なかったし、ふられたことでもうそれどころじゃなくなっていた。涙が…静かに私の頬を伝った。
帰り道、校門の前で優貴が私を待っていた。
「どうだった?ちゃんと言えたか?」
「言えたよ。言えたけど、ふられちゃった…ふられちゃったよおっ!うううっ。先輩好きです、好きです!」
私は号泣状態。そんな私を静かにそっと優貴は、抱いて優しい声で言った。
「大丈夫。大丈夫だ。まだ、多分諦めるのは早いと思うから。諦めんな?もし、お前が諦めたいって言うなら、俺がお前を奪う。」
「────っ!」
優貴の大胆発言に私の涙は止まり、みるみるうちに顔が真っ赤になった。それはもう、ゆでダコのように。
「ハハッ、スッゲー真っ赤。」
「うるさいっ!もう一人で先帰る。」
「ハハッ、ごめんってば。」
「もう知らないっ!けど、ありがとう。」
ぶっきらぼうに小さな声で一応励ましてくれた優貴に礼を言う。
優貴は、ちょっと学校に忘れ物したと言って学校に引き返していった。
「ハアハア、おいっ!兄貴!」
「ん?どうした?優貴。」
「お前、なんで、なんでっ!あいつの!鈴本の告白断った?!兄貴もあいつのこと好きなはずだろっ!」
「うん。好きだよ。」
隠そうともしない高橋先輩。優貴は、意味がわからないという感じで好きなヤツ同士なのに告白断った────それも、自分の好きな人────それがどうしても許せなくて苛立たしげに高橋先輩の胸ぐらをつかむ優貴。優貴は、怒っていた。いや、切れていた。
「じゃあ、なんであいつを泣かせた!俺に気使ってんなら、ふざけんなって言って張り倒す所だが?」
「自分じゃ、鈴本を幸せにできないと思った。優貴なら、幸せにできると思った。」
「ふざけんな。あいつが選んだのは、俺じゃない。オマエだろ!ただ怖いだけだろ!すぐにあいつと別れたらどうしよ?とか考えたんだろ!そんな未来のことなんか考えてんな!お前が、あいつのこと幸せにできないとか、また考えて前に踏み出せねえんなら、俺があいつを奪う。俺に夢中になるようにするっ!」
「でも、俺は今日彼女を泣かせた。なのに、今日中に告り返すって非常識じゃないか?」
「うるっせ!てめえの責任だろっ!そんなの考えるからダメ男なんだよ!いいから、いけよ!」
「ハハッ、ありがとう。優貴。俺、言うよ。鈴本に好きって。」
「チクショーが、行ってきやがれ。」
そう言って、高橋先輩は鈴本の元へかけていった。
「高橋先輩、好きです。次は、もっともっと私のことを知ってもらってから告白して────優しい幼馴染みがせっかく私に、勇気をくれたんだ。だから、絶対に諦めるもんか!最初に決めたことなんてなかったことにしちゃえ!」
そう私は、自分の部屋で一人叫ぶ。
しばらくすると、家のチャイムがなった。それと同時に私の心の中にあった壁が壊れた気がした。
ピーンポーンッ(ガッシャーンッ)
「はあい。」
「ハアハア。」
目の前には、すっかり疲れきっている先輩が居た。
「先輩!?」
私の心臓がっ、心拍数が跳ね上がった。先輩は、どうしてこんなに疲れながらも私の家まで走ってきたのだろうか?何か、私に大切な話でもあるのだろうか?まだ、先輩…あなたに期待してもいいのかな?
「先輩、どうしてこんなとこまで走ってきたんですか?期待しちゃいますよ?振られたばっかだけど…。」
「ハアハア、期待してくれて構わない。」
「えっ?」
私は、固まった。
「俺の好きな人は鈴本、お前だから。」
「でも、私は先輩に振られました。」
震える声で抗議する。
「ああ。あれは、俺の勝手な考えだった。俺の勝手な考えで鈴本を傷付けた。すまなかった。そして、良かったら俺と付き合ってほしいっ!」
「今度こそ、先輩にずっと期待しますよ?クリスマスも、誕生日も、行事全部期待しちゃいますよ?」
「うっ!それは、貢げと?」
「もちろん!私に愛を貢いでください!」
その瞬間、先輩が真っ赤になった。それは、今まで見たことのない余裕のない先輩の姿だった。その可愛らしい顔に私は、自然と笑えた。
「…はい。」
先輩は、自分の顔が赤いのを隠すため、腕で顔をカバーしつつも、しっかり目はこちらを上目遣いでじっと見ていた。私は、先輩の方へかけて行き、キスをした。
「────っ!」
星が綺麗な夜、先輩の顔はもっともっと赤くなりました。
「先輩、好きです。」
「俺も。」
「ちゃんと最後まで言ってください。」
「うっ!すっ好きだ!」
「フフッ。はあー、あの夜のこと覚えてます?」
「ああ。」
「また、言って欲しいな?」
小悪魔の笑みでいう私。するとそこに幼馴染みの優貴がかけてくる。
「おーい!何、二人いちゃついとんじゃ!誰が、二人の恋のキューピットやったと思ってんだ!」
「だから、それは感謝してますぅー!」
「優貴、今のタイミングに入ってきたことには感謝するよ。」
「お前ら、マジで感謝してんのかよ?!感謝してる奴らは人がせっかく陸上でいい結果出せそうな時に目の前でイチャイチャしますかね?!」
「しますぅー!」
「しねえよ!」
私の通う学校の校庭には、三人の元気な声が響くのでした。
終わり