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シロの想い、タマの想い  作者: 丸山梓
7/19

失敗、そしてなぞかけ

 その次の日曜日、香織の母親のメモを頼りに、電車に乗って最寄駅で降り、グーグルマップで調べながら、美咲とともに歩いていくと、そこは立派なマンションだった。


 一階でインターホンを押し、住人の了解が取れたら、エレベータで上がっていける仕組みらしい。おそるおそる、本当におそるおそる悠里は備え付けのインターホンを押す。すると、すぐに女性の声がした。


「はい、どなたですか」


 悠里は、一気に緊張する。

「あ、杉浦と申します」


 女性は事務的に言う。

「どういったご用件で」

「あ、えーと」


 悠里が言葉に詰まると、隣にいた美咲がすかさず言う。

「中野さんが、中野雪枝さんがガンでしんじゃいそうなんです。その前にあなたに会いたいって、会って謝りたいって言ってまーす」


「……」


 しばらくの間沈黙があった。インターホンの向こうでは「おい、どうした」という男性の声が聞こえる。旦那さんの声だろうか、と悠里は思う。


「今、そっちへ行きます」

 という声がして、インターホンは切れた。


 しばらくすると、一人の女性が現れた。写真でみたときほどのあでやかさは、あのときほどはメイクしていないためないが、はやり美人だ。三十過ぎの年齢を感じさせない。


「あなたたちと雪枝さんの関係は?」

 悠里は緊張していた。やっとのことで震える声を絞り出す。

「はい、雪枝さんの飼っていたこの子を預かっています」


 悠里は、バッグのなかからシロを見せた。

「まあ、楓ちゃんね、懐かしいわ」


 香織は、硬い表情を崩し、心もち笑顔になった。悠里は安心する。


 しかし、つぎの瞬間、香織は悠里の目を見て言った。口は笑っているが、目が笑っていない。


「楓ちゃんは好きよ。でももう中野夫婦、特に雪枝さんのことは思い出したくもないの」


 その反応は、悠里が予想した通りだった。だが悠里はめげずに言い募る。


「香織さんが会社を去った一年後に、真犯人が分かったそうなんです。雪枝さんは、あの当時香織さんを疑ったこと、本当に深く反省しています。だから、どうか」

「もう、いいの。私はあの人と一切の関係を絶ったの。もう放っておいてちょうだい」


 そういうと香織は身をひるがえして、エレベータに乗って行ってしまった。悠里と美咲はエレベータの数字の点滅が小さい方から大きな方へ移っていくのを、だだ呆然と眺めていた。


「悠里。あたしたちよく頑張ったよ、帰ろう」

 美咲が心配そうに、悠里に声をかけた。

「うん」

 悠里は力なく返事をする。


――このこと、雪枝さんに話したらがっかりするだろうな。

 悠里は心の中で呟くと、シロの声が聞こえる。

――でも、話さんわけにはいかんだろう。


 悠里は意気消沈している自分を励ますように言った。


「美咲」

「うん?」

「雪枝さんに会ってみる?」

「そうだね」


 再び電車に揺られ、雪枝の入院している病院へと向かった。電車から降りると空気が冷たい。車内との温度差で、寒さが身にしみた。


「うー、寒ーい」

 先に降りた美咲がうなるような声を上げる。

「まだまだ寒い日が続くね」

「そうだね」


 早く暖かくなってほしいのはやまやまだが、この寒さが和らぐ前には、期末試験が待っている。いつも必ず数人は追試になるので、担任からも気合いを入れて臨むように言われていた。


「期末試験、がんばろうね」

悠里が言うと、美咲はあからさまに顔をしかめる。

「う、やなこと言うね」

「ごめん、余計なこと言っちゃった」


 身を縮めながら、病院まで必死に歩いていく。病院の待合室は、今日も人で混み合っている。雪枝の病室を訪ねるとそこには、先客がいた。悠里が会釈をすると、会釈を返してくる。雪枝と同じくらいか少し下くらいの中年の女性である。その女性はコートを羽織りながら、雪枝に声をかける。


「それじゃあ、また来るわね。足りないものがあったら、言ってよ」

雪枝が返事を返す。

「うん、頼むわね」

病室には、大きな花束が花瓶に入って置かれていた。


悠里は思った。

――この前来た時より、だいぶよさそうな感じだな。だけど胸の色は相変わらず悪い。大丈夫かな。


雪枝は二人の姿を見て笑顔で言う。


「まあ、来てくれたの。ありがとう。隣の方はお友達?」

 悠里は、雪枝に美咲を紹介した。美咲はぺこりと頭を下げる。

「はい。美咲って言います。同じ看護専門学校なんです」

「そうなの。偉いわね、看護師を目指すなんて」


 関心している雪枝に、悠里は聞いた。

「今の方は?」


「ああ、夫の弟のお嫁さんよ。つまり、義理の妹ね。入院している間、身の回りのことをやってもらっているの。ほんと、助かるわ」


 私にも兄弟はいるけど、みんな男で遠くに住んでいるから、と雪枝は呟くように言った。そうなんですか、と悠里は返す。義弟夫婦は二人で花屋を経営しているのだと雪枝は言った。どうりでこの病室にはいつも花が絶えないわけだ。その後も他愛もない世間話をしたあと、悠里は思い切って切り出した。


「あの、香織さんの居場所分かりました。話せば長くなるんですけど、聞いてくれますか」

「もちろん。勉強も忙しいのに、よくがんばってくれたわね」


 ここのところ、悠里の日曜日は、香織を探すことでほぼつぶれていた。授業の予習、復習、テスト勉強はすべて、平日の授業が終わり家に帰ってこなすというハードな日々を送っていたが、悠里はそれをおくびにも出さず、笑顔で言った。


「いいえ。私が好きでやっていることですから」

「悠里はとっても優秀なんですよ。あたし、いつも勉強を教えてもらってるんです」


美咲が嬉々として言うと、雪枝は穏やかにほほ笑んだ。

「そうなの。きっとそうだろうと思っていたわ」

「いえいえ、とんでもないです」


悠里は慌てて否定し、今までの経過を話した。

「香織の実家って、そんな遠くまでわざわざ一人で行ったの」

雪枝はすまなそうに言う。


「あ、いえ、気にしないでください。そうだ、そのとき香織さんのお母さんが、写真を下さったんです。雪枝さんにも見せてほしいって」


悠里はバッグをがさごそと漁って、写真を取り出した。シロの体が揺れて、迷惑そうな顔をする。


「香織、結婚したのね」

雪枝は感慨深そうに写真に見入った。


「幸せそうでよかった。悠里ちゃん、本当にありがとう」

雪枝は悠里に頭を下げた。悠里は歯切れが悪そうに言った。

「そこまでは順調だったんですけど……」


雪枝は、分かったというふうに両手の手のひらを悠里たちに向けた。

「いいのよ、もう十分。どうせ、香織に私には会いたくないって言われたんでしょう」


悠里は、ためらいがちに頷く。

「は、はい。実はそうなんです」


「そう言われても仕方のないことをしたのよ。もういいわ。香織が今幸せってことがわかればそれでもう十分」


雪枝の顔は、悟りを開いた人のほうにすっきりとしていた。

「それに、今、香織が幸せって聞いて、私も少し救われた気がする」

ほっとしたように雪枝は言った。


 悠里は、なんだか釈然としない思いを抱えたまま、美咲とともに病室を後にした。

「やっぱり私、もう少し粘りたい」

帰り道で悠里が言うと、美咲はきょとんとした顔をする。

「え、もしかして香織さんのこと?」

「うん」

「えー、気持ちは分かるけど、あそこまで言われたらもう無理だよ」


美咲は言うが、悠里は諦められなかった。

――どうにかして、二人をひき合わせたい。でもどうしたら……。

悠里は寝る時間になるまで、ずっと考え続けた。


 翌朝、悠里は重い体を起こし、準備をして学校へ向かった。今日は一コマ目から、竹内の授業だ。美咲は大丈夫か、悠里は気になっていた。


「出席を取ります」

竹内が教室に入ってきて、いつも通り授業が始まった。悠里だけでなくクラス中が緊張している。張りつめた空気だ。


「はい、じゃあ、稲畑さん、ここ答えて」

竹内の口調は冷淡だ。

美咲は落ち着いて回答した。先週、悠里とヤマをはっておいた場所が的中した。

――これならいける。


悠里は確信した。竹内はしぶしぶといった様子で言う。

「まあ、いいでしょう。正解です。循環器系についてはもう少し勉強しておいてくださいね。さて、じゃあ次」

――やったー。


 悠里は心の中でガッツポーズをする。しかし、悠里が教えた甲斐があった、と喜んだものも束の間だった。授業の終盤で、再び、竹内は美咲を指名した。そこは悠里もまだ勉強したことのない分野だ。当然、美咲と勉強したときもやっていない。

美咲は長い沈黙の後、言った。声が震えている。


「……分かりません」

「稲畑さん、この前の約束、覚えているかしら」

「いえ」

「次答えられなかったら、授業にもう出なくていいと言ったでしょう」


 悠里は立ち上がっていた。毅然とした態度で、竹内に言う。

「先生、美咲は一回目の指名でちゃんと答えました。それに今の問題は、だれもまだ習っていない分野です。」

「習っていようが、いまいが関係ないわ。それに授業を予習してくるのも、生徒なら当然のこと。四月からも同じ学年で頑張ることね、稲畑さん。それから杉浦さん、あなたも留年希望なの? 希望するなら止めないわよ」

竹内が余裕の笑顔で言い切ったとき、授業終了を知らせるチャイムが鳴った。


 放課後、悠里は学年主任の三浦に抗議した。こちらの言い分が通らないようなら、校長に訴えるつもりだと息巻いた。悠里の主張を全部聞いたあと、三浦は言った。


「竹内先生ねえ、ほかのクラスでも同じような訴えがあってね。本来、留年させるかどうか決めるのは、期末テストの結果だからね。困ったなあ」


三浦はふう、と息を吐く。

「ご家族の介護もあるみたいだし、校長先生にも話して、竹内先生にはしばらく休んでもらおうかな」


 悠里は、三浦の意表を突いた発言に驚きを隠せない。

「え、竹内先生のご家族でどなたか介護が必要な方がいるんですか」

 三浦は、顔をしかめながら言う。

「そうなんだよ。同居してる義理のお父さんの具合が少しね。ヘルパーさんも来てもらってるらしいんだけど、夜中も介護が必要で、夜もあんまり寝てられないみたいなんだよね。もう限界なのかもなあ」


「そう、だったんですか」

 悠里はそれでも、寝不足や介護のイライラを生徒にぶつけるのはひどい、と思う。


「まあ、俺から校長先生に話しとくから、心配しないでよ。稲畑のことも俺がなんとかする。稲畑には期末で精いっぱい頑張るよう、言っておいてくれ、な」


 悠里は、三浦に頭を下げた。

「ありがとうございます」


 竹内はその後すぐ休職になり、竹内の授業はほかの先生が担当することになった。竹内が担当ではなくなった授業はとてもスムーズに進む。クラス内も和気あいあいとした雰囲気だ。悠里はほっと胸をなで下ろしていた。


 ある日のお昼休みに、美咲は悠里に言った。

「ねえ、竹内先生のこと、悠里はまだ怒ってるの?」

「当たり前でしょ」

「私はもう気にしてないよ。もう竹内先生は私たちの授業もつことないだろうし。あとは期末テスト頑張るだけなのさー」


 美咲は手を握って、両腕をぐっと自分の両脇にひき寄せ、気合いを入れるポーズをする。


 その姿を見て、悠里は、私はとてもそんな風に割り切れない、と思う。

――香織さんも同じように雪枝さんのこと思ってるのかも。


誰かを許すって難しい、と悠里は思った。頭では分かっている。竹内には竹内の事情があったのだと。でも感情がついていかないのだった。悠里は言った。


「美咲さあ」

美咲は無邪気に悠里を見る。

「なあに」

悠里は言った。

「許すって何? どういうことかな」

「やだー、悠里。なに哲学入っちゃってんの」


美咲は、きゃはきゃは笑う。それを見た悠里も思わず苦笑していた。美咲はそのあと急に真顔になって言う。

「許すっていうことは、いろいろあったけど、でもやっぱりお互いさまかなって気付くことなんじゃない」


 美咲の言葉が悠里には意外だった。美咲のほうに「お互いさま」なんて思える落ち度なんてあっただろうか。

「どうしてそう思うの?」


「だって私、もっと頑張って勉強してたらあんな風に先生のターゲットにされなくてすんだと思うもん。正直、看護師ってもっとカンタンになれるもんだと思ってた。先生はそのことに気付いてもらいたかったんだと思う。竹内先生のやり方はちょっと極端すぎたかもしれないけどさ。あ、私、間違ってたって思ったんだんだ、あのとき」


 悠里はますます美咲が好きになった。美咲は謙虚でいつも嘘がない。それを聞いて悠里は、やっぱり竹内は好きになれないと思った。こんな素直ないい子にどうしてあんな厳しい言葉をぶつける必要があったのか。


 けれど、その感情は胸の奥にしまって、悠里は笑って言った。これ以上、美咲に悲しい思いはしてもらいたくない。


「期末テスト、頑張ろうね。二人で進級しよ!」

「うん」

悠里と美咲は、お互いの目を見て、頷き合った。


 学校の授業が終わったあと、悠里は再び香織のすむマンションを訪ねた。インターホンを鳴らすが、応答はない。悠里がエントランスのソファで待っていると、九時を過ぎたころ、女性が一人駆け込んできた。スーツ姿の香織だった。慌てた様子でエレベータのボタンを連打している。


「あのう」

悠里がおそるおそる話しかけると、香織は悠里のほうを見た。

「なに、あなた、また来たの」

「はい」

「それで、今日は何の用?」

「先日は断られちゃいましたけど、私、やっぱり、香織さんに雪枝さんに会ってもらいんです。私にも許せない人がいます。もう顔も見たくないです。だから香織さんの気持ちもわかるつもりです。だけど」

「いくら言っても無駄よ。もう私、あの人のことは考えたくないの」


 そのとき、エレベータが下がってきた。

「私は忙しいの。今日も仕事が終わって、これから夕飯の支度よ。夕飯食べたら、お皿洗って、お風呂の掃除して入って、それからまた持ち帰ってきた仕事。明日もまた朝から仕事、帰ってきたら、また同じことの繰り返し。この忙しさ、あなたに分かる? 人にかまっている余裕なんてないの」

「すみません」

悠里は思わず謝った。その瞬間にエレベータのドアが開き、香織はそれに乗って行ってしまった。


 悠里がぐったりしながら、家に帰り自室に帰ると、そこにはシロがいた。クッションの上で丸くなっている。


「シロ、ただいま」

 明らかに意気消沈している悠里を見て、シロは言う。

「その様子だとあまり物事うまくいっとらんようじゃな」

「うーん、どうしたらいいんだろ。もう分かんないよ」


 悠里はぐったりした様子で、勉強机の前に座り、机につっぷした。頬に当たる机の感触がいやに冷たく感じる。シロは重々しく言う。


「うむ、こうなったらアレを出すしかないかの」

それを聞いた悠里は思わず振り向き、シロを見た。

「アレって?」


 シロは、悠里の質問には答えず、目をつむっている。すると悠里の頭の中に一つの映像が浮かんだ。

「うわ、これ、この前と同じ」

 そこには、中野夫妻、香織、そしてシロがいた。中野家の庭でバーベキューをしているようだ。庭には、色とりどりの花が、咲き乱れている。


 燃えている火の上には鉄板があり、野菜や肉、焼きそばがいい音を立てている。中野のおじさんが、肉を取って、香織の皿に置いてやったそのときだった。おじさんの取り皿から、シロが肉をくわえて逃げ去ろうとする。


「あ、楓」

と香織は叫んだ。

「こら、楓、駄目だろう」


中野のおじさんは、楓をつかまえようと追いかける。

雪枝はそれを見て笑って言う。

「まあ、いいじゃないの。たまには」


中野のおじさんは、シロを追うのをやめて、雪枝を見る。そして諦めたように言った。

「そうかい」

シロは、もう追いかけられないとみると、しゃがみ込んで両手で肉をはさみ、器用に肉にかぶりついた。

「ふふふ。とってもおいしそうに食べますね、楓は」

香織は笑っていった。


 穏かな、ふんわりとした空気が、そこには流れていた。見ている悠里もなんだか笑顔になる。シロは言う。

「かつての中野家は、こんな風じゃったんじゃよ。みんなとても幸せそうじゃろう」

「シロが食いしん坊だったことが、よく分かるよ」


 悠里が言うと、シロはオホンと咳払いをして、何事もなかったかのように続けた。

「わしは、この頃のことを、香織が思い出してくれればと思っとる。悲しい思い出ばかりでなくてな」


悠里は思った。

――シロのいう通りだ。中野夫妻と幸せに過ごしていたあの頃を、どうしたら香織さんは思い出してくれるだろう。

「コント・ドゥ・シャンボール」


シロが突然聞き慣れない単語を言うので、悠里は驚いた。

「へ? 何それ」

シロは得意げに言う。

「ヒントは今見せた映像のなかにある」


 悠里はますます混乱した。

「えー、さっぱり分かんないよ」

「お前が分からなくともよい。香織に言ってみよ。きっと驚くぞ」

シロはそういうと階下へ下りて行った。


「まあ、シロちゃん、来たのー。今日も可愛いわねえ。おいで、抱っこしてあげる」

 かなえの猫なで声が、二階まで響いてきて、悠里は思わず苦笑した。そして呟く。


「ほんとは、可愛くない、おっさんなんだけどなあ」


 翌日から期末試験が始まった。進級のかかった大事な試験だ。悠里は、雪枝の病状が気になったが、テスト勉強が忙しく、香織については何もできずにいた。


「ああ、ストレス溜まる」


 悠里が呟くと、美咲が心配そうに顔を覗き込む。

「だいじょうぶ? 悠里。目に隈ができてるよ」

 悠里はイライラしながら答えた。

「分かってる。そしてだいじょぶじゃない」

「えー、悠里が自信ないなら私だって駄目だよぅ」

「あ、いや、テストのことじゃなくて」


 言いながら、悠里は考えていた。コント・ドゥ・シャンボールをインターネットで調べると、どうやら薔薇の品種らしかった。しかし、試験勉強もせねばならず、香織とその単語を結び付けるような発想がいつまで経っても出てこない。


 たとえ香織が薔薇好きだったとして、それがどうして雪枝とのことに繋がるのかも不明だ。悠里はそこで、それに関わる一切のことを忘れて、試験勉強、そして期末試験本番に臨まねばならなかった。


「なんでこうタイミング悪いのよ、あの猫は」

「猫? そうだ、シロちゃん、元気?」

 未邪気な美咲に、悠里はうんざりした表情で言う。

「元気も元気。元気すぎて困るよ」


「またテスト終わったら、会いに行ってもいい?」

美咲は無邪気に言う。

「あ、うん」

悠里は、シロを純粋に可愛いと思える美咲が羨ましかった。


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