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「セイラス、外に行きたくないこと?」

 悪戯っぽい笑みを浮かべて姫が近づいてくる。期待に目を輝かせている。

 勿論、姫があたしに何を期待しているかは百も承知だ

 -姫のご命令とあらばお手伝いはいたしますが、そのために魔法を使うことはできませんよ-

 魔法嫌いの国王と対照的に、姫は魔法好き。宮殿にいる魔法士は全て姫の配下にあった。

 姫が魔法士を雇い入れるまで、宮廷に魔法士は一人もいなかった。


  国王は魔法が嫌い

  国王は魔法が嫌い

  国王は魔法が嫌い


 魔法嫌いの国王は、姫が魔法士の配下を持つ交換条件として、宮殿にひとつ魔法をかけるこを挙げた。

 宮殿内で魔法が使われれば、すぐに国王や側近に知らせが行く魔法。

 姫は条件を呑み、数年前に宮廷を退いた老臣に魔法士を探させた。

 老臣はどこからか魔法士を連れてきて、姫に差し出した。

 グランシア初の宮廷魔法士は、国王の目の前で宮廷に魔法をかけた。

 宮殿内で魔法が使われれば、すぐに国王や側近に知らせが行く魔法。事実上、それは宮殿内での魔法を禁じることだった。だが、魔法士はためらい無く宮殿に魔法の網を張り巡らせた。


「セイラス、外に行きたくないこと?」

 姫が期待を込めて笑いかけてくる

「セイラスに魔法を使わせてあげるわ」

 さあ、いきましょうと手を引いてくる。

 この風景には見覚えがある、と思ったときだった。

(これは夢だ)

 唐突に気がついた。自分は今眠りに付いていて、これは自分が見ている夢だ。

「セイラスに魔法を使わせてあげるわ」

 姫がぐいぐいと手を引いてくる。夢だと気がついていても、状況は変わらない。

 これ以上この夢は見たくない。

「おそとで魔法を見せて」

 まだ幼さが残る姫に、どうしてこんな力があるのかと思うくらいの力で引っ張られる。

 もういい、と思うのに、夢は止まらない。

「魔法を使って、セイラス」

 姫があたしの服を引っ張っている。

 いつのまにかあたしたちは宮殿の門前にいた。

「外なら魔法をつかってもいいのよ」

 服を掴み、腕を掴み、背中を押し、宮廷の外へ出ようとする。

「セイラスは、外に行きたくないこと?」

-仕方ありませんね。内緒ですよ-

 あたしが苦笑して、姫の手を取る。

-ほんの少し、魔法を使ったら帰りますからね-

 姫が高い声を上げて笑う。

 二人で少しだけ門の外に出て、姫がねだるままに魔法で小さな人形を拵える。

 風を巻き上げ、木の葉を集め、小さな龍を形作る。小さな小さな、龍の人形。あたしの思うがままに歩かせ、時折火を吹かせる細工もした。

「姫さま!!」

 門の中から声がした。侍女が駆け寄ってくる。こっそり抜け出したのがばれたのだ。

 見つかっちゃった、と姫は可愛らしく首をすくめて、そのまま大好きな侍女のものとへ駆け寄っていく。木の葉の龍をつれて。

-だめです!-

 止めるまもなく、魔法の龍を連れて姫が宮殿に入っていった。

「何事!」

「何事!」

「何事!」

 城から猛烈な勢いで人が出てきた。あっという間にあたしは取り囲まれる。

-やめてくれ!-

-ちがうんだ!-

 これは夢だと分かっているのに。これは過ぎてしまった過去。自分の夢だというのにままならない。

 やめてくれ。ちがうんだ。ああああああああああああああああああ。


「あ」

 目が開いた。騒がしい夢と対照的な、静まり返った部屋。夜明けが近いのだろう。暗い室内に、窓だけがほんのり青白く浮かび上がって見えた。

 息が上がっている。体から熱が引いていく。汗だくだ。のども干からびている。

 長いすから起き上がり、水差しを探した。満たされるまでのどを潤す。だが、水はぬるくて、飲んでも飲んでも満足しない。

 井戸水がいい。冷たい水で顔を洗えば、気持ちいいはずだ。

 考えるだけで、少しずつ渇きが癒されていく。

 水差しに残った水を手巾に取り、汗を拭う。ゆっくりと現実に還っていく。

 あの後、姫と国王は激しく対立し、結局宮殿にかけられた魔法は変更することとなった。

 宮殿内で魔法が使われた場合、知らせが行くのは国王と側近ではなく、主席宮廷魔法士としたはずだった。当時主席だったあたしは、ジスにその座を譲り、宮廷を去った。その後どうなったかは知らない。

 窓の外から小鳥のさえずりが聞こえた。夜明けは近いようだった。

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