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再会そして契約

 グランシア王国、銀雀の間。謁見のためあたしが通されたのはそんなところだった。

 絢爛豪華な謁見用の大広間とは違い、小ぢんまりとした部屋だが、調度品は豪奢だ。国王がごく個人的な面会のために使われるための部屋である。ここに仕えていた頃、たった一度だけ入ったことがある。

 免職を言い渡されたときのことだ。

 そのときのことを思い出すと、今でものどの奥が苦くなる。

「セイラス殿。今回は私どもの招きに応じて来てくださったことを誠に感謝いたす次第であります。貴殿もご存知のことと思われますが、わが国の発展は…」

 そう言ったのは、目の前にいる国王ではなく、片隅にいる侍従だ。几帳面に撫で付けた髪の毛、シワひとつ無いお仕着せから考えるに、四角四面な人物なのだろう。

「依頼の内容を聞きたいんだけどね。もう、挨拶はいいんじゃないかな?」

 わが国の発展の理由を3つほど挙げられた後、その理由の細かな説明に入ったあたりで、あたしの忍耐が悲鳴を上げてきた。しかも、この侍従で挨拶は3人目。大臣から始まり、宮内長官、侍従長と来た。

一向に話が進まない。このままだと日が暮れる。しつこいようだが、これで何人目だと思っているのか。(3人目だ!)

「しかし、挨拶というのも予定に入っておりますので」

「いれんでいい、そんなもの!」

 後何時間喋るつもりだ。

「いや、しかしぃ…」

 なおも続けようとする臣を国王がとめた。国王の腹と心は大きいらしい。

「まぁ、よい。本件に入れ」

 しぶしぶと侍従が下がる。折角自分の番が回ってきたのに…と独り言を言うのがかすかに聞こえる。

 えー、では、と前に進んできたのは最初に挨拶した大臣だった。

「今回セイラス殿に頼みたいのは姫の護衛。報酬は100万ギスト払おう。足りなければ、もっと出そう」

「お言葉ですがそれなら近衛の仕事かと。何も流浪の魔法士を雇うことではありませんでしょう」

 無礼を承知で言う。敬語を使うのすら忘れていた。

「近衛でも敵わぬ…いや、軍の猛者でも、魔法士でも叶わぬ者に狙われておる。たった一人なんじゃが…」

「近衛でも…?」

 あたしはジスの顔を思い浮かべた。やつはあたしがここにいた頃、No.2だったはず。あたしがいなければNo.1の男だ。

「ジスでも敵いませんか?」

「手こずっておる」

 そのとき、どうしてだかあたしの気分は一気に高揚した。好奇心と好戦心というやつだろうか。

 それとも、あたしを追い出した宮廷が、あたしを求めてきているという暗い満足心だろうか。

 笑いをこらえた。

「狙う者の心当たりは?」

「わからぬ。王女殿下には今縁談が来ておりまして、そこから考えれば心当たりなどいくらでも有り得る」

 成程。

「姫様は今?」

「自室にいる。近衛に守らせてあるがの…」

自信はなさそうだ。

「御呼び願えますか」

「…よかろう」

 大臣は近くの侍従に目で合図をして姫のもとへ使わせる。

「参考までに伺いたいのですが」

姫が到着するまでの座興にでもと、あたしは話しを切り出す。

「今回、私を雇おうと言い出したのはどなたです?」

「マクエルじゃ」

 マクエル…。あたしは記憶の中からその人物についての情報を探し出す。

 ええと…

 えと…?

 ない…。

「どなたでしたっけ?」

「マクエルじゃ。侍従長よ」

 大臣が一人の男を指さす。

 あ、さっき挨拶しそこねた人だ。ふうん…

 4年前は見かけななかった顔だ。ま、4年もあれば人なんて幾らでも入れ替われるだろう。

 それに、おそらく、4年前に見かけた顔の人間ならばあたしを雇おうなどと言い出す者はいないだろう。逆に、反対したはずだ。

「王女殿下のおなりでございます」

 さっきの侍従が帰ってくる。その後に、何とも懐かしい顔。すこし、大人びてきたがまだまだ幼い顔立ち。

 昔の記憶よりも少し背が伸びたか。少し痩せただろうか。だが、あの頃と大きく違うのは、綺麗に結い上げた髪だ。綺麗に結い上げられた髪は大人の証。

「まぁ。セイラス、お久しぶりね。また会えるなんてうれしいこと」

 きっと心の底から言っているのだろう。姫の顔には邪気が全くない。

「お久しぶりで御座います。姫君」

「セイラス。本当に会えて嬉しいわ。私の護衛をしてくださるんでしょう」

「…」

 短い沈黙。肯定とも否定ともとれる。

「やってくれるとも」

 国王が替わりに答えた。あたしは小さく肩をすくめた。

「私はあれから少々仕事の仕方を変えましてね。こういう物を使っているんです」

 そう言ってあたしは懐から契約書を取り出す。

「契約書です。よく読んでサインを」

 では、と契約書を取りに来た侍従長を無視して、あたしは国王のもとへ歩いた。近衛兵の緊張が高まる。国王とあたしの目が合った。

 一瞬だけあたしと目を合わせた後、国王は片手を挙げて近衛兵を制した。

「姫君もサインを」

 王がじっくりとそれを眺める。

「よかろう。誰ぞペンを持って参れ」

 はい、と侍従がインク壺とペンを差し出す。

 王がサインをすると、姫もそれにならってサインをする。

「姫君のお命は保証いたしましょう」 


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