子供たちがやって来た
それから1ヶ月後…
エリザベスの元に待望の子供人形がセットで送り届けられた。
送り主は発注先の幸せ人形工房である。
配達便のトナカイロバ車に乗せられて、大きな木製のケース入りで荷物は到着した。
「私ダケノ、可愛イ子供タチ、早ク見タイ」
胸をワクワクのエリザベス。
マルセルはケースの外蓋を開け、手元のスイッチを押した。
オルゴール調の可愛い音楽が流れ、中蓋がゆっくりと開いた。
紫色のカーテンを開けると…
「まあ、可愛いわネェ!」
「ウワァ!」
マルセルもエリザベスも目を輝かせた。
ケースの中はちょっとした小部屋になっていた。
30体の小さな人形たちがジッと、こちらに視線を向ける。
身長は約15㌢ぐらい。
殆どがエリザベスを幼くしたような愛らしい女の子ばかりで…
真っ赤な可愛いドレス衣装と、可愛い赤の帽子を被っている。
パッチリとした大きくつぶらな瞳が、凄く印象的だ。
「エリザベス、自分がママだって事をアピールしなさい」
マルセルに促されて、エリザベスは両手を大きく広げた。
「私ノ、可愛イ、子供タチ」と、優しく声をかける。
子供人形たちの視線が一斉に、エリザベスに集中した。
「…」
大きな目をパチクリさせながら、ジッとエリザベスを見つめる。
「私ハ、ママ。私ハ、ママ。ママ、ママ」
「…」
「ママ、ママ」
しばらくすると…
子供人形たちの目の色が変わって来た。が
エリザベスを母親だと認識し始めたのか?
パーッと明るい表情を見せながら、両手を高く上げてピョンピョンと跳びはねる。
「ミャミャー! ミャミャー!」
ミャミャとは、子供人形独特の幼児言葉でママと言う意味である。
それにしても…
子供人形たちの声は、高くて可愛いトーンをしている。
「初メマシテ、私ガ、ママヨ」
子供人形と初めて意思疎通が出来て、エリザベスは笑顔である。
「ミャミャー! ミャミャー!」
「可愛イ! 可愛イ!」
エリザベス・ママは子供人形たちをしっかりと抱擁し始める。
子供人形たちは初めて、ママの温もりと愛情を感じたようだ。
マルセルが戻って来た。
「エリザベス、準備が出来たわ。子供たちを部屋に連れて行きなさい」
マルセルに促されて、エリザベスは子供たちをケースから出した。
「サァ、ミンナ。ママト、オ部屋ニ、行キマショウ」
「ミャーイ!」
「ミンナ、並ンデ、行進ヨ」
「ミャーイ!」
子供人形たちは一列縦隊に並ぶと、元気良く行進しながら人形部屋に入って行った。
エリザベスもそのまま中へ入って行き、出入口の扉をバタンと閉めた。は
「エリザベス?」
ココでマルセルはハッとなった。
エリザベスが返事をしなかったのだ。
どんな事でも必ず返事していたハズなのにである。
マルセルは内心、或る種の不安と寂しさを抱いた。
ため息を付き、空になったケースを移動し始める。
意外と重いケースだけど、キャスター付きだから持ち運びには苦労しない。
中は空のハズである。
だが実際には…
子供人形が1体、中でウロウロしている。
マルセルは全く気付かない。
そのコだけ、置いてきぼりを喰らったのだ。
ケースは物置に入れられた。
真っ暗闇状態になって、そのコは強い孤独感に苛まれちゃった。
「ミャァ、ミャァ」
涙をボロボロ流すそのコ。