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笹本カウンセリング事務所  作者: 和風露カルタ
笹本カウンセリング事務所 第二部
18/18

第十話というか、第三戦・点差によりコールドゲーム

@×20 @@@


 僕は那子さんに聞いた。

「仮にあなたを警察に引き渡したりすると、どうなりますか?」

 暫く虚ろな目のままで僕を見つめていた那子さんは下を向いて呟くように答えた。

「……新たな被害者が増える」

「それは……冗談ですか? それとも本気で?」

 那子さんは答えずに、下を向いたまま押し黙った。

「そうですか。那子さんは『ピエロ』の中でもかなり上部の人間なのだと僕は思っています。正直、あなたを警察に引き渡せば、この一連の事件は終了するとまで思っています」

「トモさん、そんなあっけない感じでいいんですか? 謎解きもまだやってませんが……」

「そんなの面倒くさい。僕はカウンセラーだよ? 那子さんは頭は切れるけど物騒なことには慣れてないみたいだし、警察の人が全部聞き出してくれる」

「マジですか!? それは読者もビックリです! こんなヌルっとした解決編、誰も見たことありませんもの」

 そんな識乃ちゃんを無視して、僕は那子さんの足首の縄を解いた。そして、そのまま彼女を外へと引きずり出した。


@×20 @@@@


『では、彼女をお願いします。彼女が牢屋に入るようなことになれば、もう被害者は出ないでしょう』

 そう言って、僕と獏也と識乃ちゃんの三人は那子さんを浦安さんに引き渡した。

「トモさん、本当にいいんですか?」

「識乃ちゃんは、一体何を期待してるの?」

「だって、こんなので納得するなんてトモさんらしくないっていうか……なんというか」

「はは、そんな推理小説じゃあるまいし」

 僕の返答に満足しなかったのか、識乃ちゃんは頬をぷくりと膨らました。

「それより、獏也。なんでさっきから黙りこくってんの?」

 僕の質問に答えようと獏也が口を開いた瞬間、着信が来たことをリックがやや騒々しく僕に伝えた。僕は上着のうちポケットからリックを取り出し、画面をタッチし、耳に宛がった。

 三日連続で事務所を休業していることに対するクレームかとも思ったが、どうやらそうではなかったらしい。

『どうも、県警の崎波です』

「あ、美風さん、どうもです。矢崎那子からは何か聞けました?」

『その件ですが。浦安さんがあなた方にご同行願いたいと……』

「それで何故、美風さんが?」

『あいつらと話すと不吉なのがうつる、と。ちなみにですが、迎えにいくことはできません。浦安さんの嫌がらせです。すみませんが、署まで歩いてきてもらえますか?』

「それだと『ご同行』にはなりませんが、分かりました」

 とまぁ、説明も要らないだろう。通話の通りである。


@×20 @@@@


 今回の件に関しては、わざわざ三人で行くこともないだろうという事で、識乃ちゃんにはクライアントなどが来たときの為だと言い、留守番を頼んだ。

「じゃあ、行くか。獏也」

「おっしゃ」

 そんなことを言い合って、僕と獏也は外へ出た。

 家の近くのカフェを目の端に捉え、識乃ちゃんがまだクライアントとしてうちに来ていた頃を思い出した。そして、識乃ちゃんに服を引っ張られて街中に連れて行かれる僕の姿を目前に映しながら大通りを北へと向かった。

 その間も絶えず獏也と無意味な話をしていたのだが、暫くして急に獏也が声を張った。

「あ~、わりぃ、友。俺、ちょっと部屋に忘れものしてきたみだいだわ。先行っててくれるか」

 僕が「まぁ、いいけど。ちゃんと追いつけよ? 面倒くさくなるから」と答えると、獏也は「任せとけ!」と叫んで踵を返した。

 僕は振り返り、獏也が人混みに紛れたのを確認してから、「さてと!」と気合を入れた。

「とりあえず、走ってみるかな」

 一人でそう呟き、僕は走り出した。


@×20 @@@@@


 久しぶりにダッシュすると、筋肉痛とかではなくリアルタイムに内太もも辺りに鈍い痛みが来ると言うことを身を持って再確認したところで、左前方にある扉が開いた。

 黒のスーツを纏い、不自然な程に大きい頭がその上にのっかっている状態のその人物は、椅子に腰掛けている僕を見下ろし、固まっていた。ドアを閉めるのも忘れている状態である。右手には禍々しい形のナイフが握られていて、腰には警察官が持っているような警棒が携えられていた。

「どうもです、ピエロさん。とりあえず、ドアを閉めてはどうですか?」

「……」

 ピエロは慌てたように後ろでにドアを閉めた。

「あ、悪いけど、ここには識乃ちゃんはいないよ。自室に戻ってもらったから」

「なんで……お前が」

 馬鹿みたいな泣き笑いのマスクの向こうからくぐもった低い男の声が響いた。

「僕がここ、笹本カウンセリング事務所にいる理由? そんなの決まっているでしょ。僕と獏也が外に……いや、正確には僕が外に出ているうちに識乃ちゃんが襲われてしまわないように、だよ」

 男の手がわなわなと振るえているのが見て取れて、少し悲しくなった。

「もう、いいよ。僕が悪かったからさ。その被り物、似合ってないよ? さっさと取れよ」

 僕は一度大きく息を吸い、肺の中の空気を全て吐き出すように目の前の男に呼びかけた。


「なあ、獏也」



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