今ちょうど『聖剣エクスカリバー(時価数十億)』を買おうとしてるから
俺の叫び声は、真っ白な空間に虚しく吸い込まれた。
地面も壁もない、どこまでも続く白い世界。
その中心、黄金のソファに寝そべってポテチを食べている綺麗な女性がいた。
「あー、ソウタくん? 勇者と聖女の息子よね。いらっしゃーい」
神々しさの欠片も見えない美女が、気だるげに俺へ手を振った。
「……あんたが女神か」
「そうそう、適当に世界を管理してる女神様よ。あの二人から話は聞いてるわ。転移の扉は私の方で開いておくから安心して。あ、お土産袋の中にポテチ入ってない? 『黒竜の味噌バター焼き味』、聖女にお願いしたんだけど」
俺は促されるままソファに座り、荷物を置いた。
両親から持たされた、三姉妹用のお土産袋を漁る。
「そんなものあるわけ……いや、なんであるんだ?」
袋の底から出てきた『黒竜の味噌バター焼き味』を女神に手渡した。
「わーい! あの子の料理、マズいけど癖になるのよね~。一口食べたら止められないのよ」
女神は早速袋を開け、バリバリと食い始めた。
「うん、マズい! もう一個! 超高級食材の黒竜を味噌とバターで殺して、その上フライパンで焦がして台無しにしてる。最高に贅沢な食べ方よね。そう思わない? ソウタくんはどう?」
この女神、味覚も性格もかなり捻くれている。
「ポテチの話はどうでもいい。それより親父が言ってた『ブラックカード』ってのはどういうことだ。剣と魔法の世界にクレジットカードなんて普通ないだろ」
「あーもう、ハイハイわかったわかった。せっかちな上に生意気とか、流石あの勇者の息子だわ~」
女神が面倒くさそうに指をパチンと鳴らす。
すると空中に、ホログラムのような『利用明細』がズラリと浮かび上がった。
「説明は最小限にするわね。管理が面倒だから、冒険者ギルドに丸投げしてるのよ。持ち主の魔力を担保に決済ができる優れもの。勇者と聖女が言い出して、私が許可を出したの。今はほとんどのお店で使えるから、転移したらまずギルドに行きなさい。ちなみに、そのブラックカードは魔王を倒した報酬に『一生遊んで暮らせる権利』として渡したんだけど……」
「……んだけど?」
「三姉妹が使いすぎて、お金を使い切りそうなの。勇者の娘たちが破産なんて悲惨すぎるし、私の体裁も悪いのよ。もう他の神から怒られてるし」
なるほど、神も人と大して変わらないらしい。
女神の目から光が消え、乾いた笑い声が漏れる。
「ちなみに、どんな買い物を?」
「国一つ買えるレベルの宝石、特級の魔道具、魔導戦車(限定モデル)……。このままだと国宝や古代兵器にまで手を出しそうで怖いのよ。魔王軍再興の噂もあるし、神の私が直接介入するわけにもいかないし。誰か止めてくれないかなー、って思ってたところ」
明細に並ぶ数字を見て、俺の意識が遠のきかけた。
『〇億ゼニー』という単位が、まるでスーパーのレシートのように並んでいる。
「ハッハッハッハ!……嘘ですよね?」
「アハハ! マジも大マジ。女神を放り出して自分探しの旅に出たいレベルよ。他の神に押し付けようとしたら、みんな裸足で逃げ出したんだから」
この女神も現実逃避していたわけだ。
会ったこともないウチの姉妹が、本当に申し訳ない。
「……女神様、一つ聞きたいんですけど」
申し訳なさすぎて、自然と敬語になった。
「なーに?」
「そのカード、利用停止にできませんか?」
「本人か両親ならできるわ。でも二人はもうこっちに来られない。……あ、君がカードを没収して私に返納すれば、凍結できるわよ」
「わかりました。あと、俺が日本と異世界を行き来できるようにしたいんですが」
「かなりグレーだけどいいわよ。世界を壊すわけにはいかないからね。私が手を回しておくわ」
さすが女神様、話がわかる。
ウチの両親も見習ってほしい。
「ちなみに、ウチの両親から手紙とか書類とか来てませんか?」
「いや、知らないけど?」
あの二人、今度会った時に覚えてろよ。
「色々と本当にありがとうございます。お互い大変ですね」
「ええ、本当に」
俺たちは固く握手した。初めて理解者を得た気分だ。
俺の拳は、怒りと使命感で震えている。
「あら、やる気満々ね。いいわよ、転送完了まであと五秒。……あ、次女のミストちゃん、今ちょうど『聖剣エクスカリバー(時価数十億)』を買おうとしてるから急いだほうが」
「……早く転移をッ!!!」
視界が激しく明転した。
次に目を開けた時、そこは豪華絢爛な大広間だった。
「……あの、どちら様ですか?」
青い髪をした女の子が、真っ黒なカードを手に持っていた。
「お前だな? 我が家の不良債権は」
「え?」
両親に似た顔立ちの間抜け面へ、俺の拳が唸りを上げる。
「鉄拳制裁ッ!」
「おふぅっ……!」




