1 夏の手前、雨の匂い
はじめまして、猫庭うららです。
少年と猫と神様が出会う、ひと夏の物語の始まりです。
1999年の夏。
俺は、あの島でのことを今も忘れない。
不思議な体験を、仲間たちと過ごした日々を――
そして、俺を導いた“猫”と“神様”のことも。
雨の気配を含んだ黒い雲が、
山の上空にじわじわと広がっていく。
空はどんよりと曇っていた。
湿った風が、窓のカーテンを勢いよく揺らした。
その風が、大輝の髪をふわりと浮かせ――目が覚めた。
漫画を読んでいるうちに、いつの間にか寝てしまっていたらしい。枕元の時計に目をやると、時刻は16時28分。
そろそろ、母さんが帰ってくる時間だ。
大輝は一階のリビングに降りて、
冷蔵庫から麦茶を取り出し、コップに注ぐ。
ソファに座って一息つくと、ふと思った。
寝ているより、起きているだけで母さんの目には少しはマシに映るだろう。
たったそれだけで、「ちゃんとしてる子」みたいな顔をされるのも、正直うんざりだ。
そう思って、ぼんやりとテレビをつけた。
その時だった。
玄関の扉が、ガチャガチャと音を立てて開いた。
「もおー、急に降ってくるなんて聞いてないわよ。
大輝、ちょっと来て」
「何?」
玄関に向かうと、母が少しイライラした様子で言った。
「今さっき、祐介君がね。大輝に時間割りと、パンを届けてくれたわよ」
「ふーん」
「ねぇ、大輝。明日は、学校行ってみようよ」
雨で濡れた髪を手で払いながら、母は言った。
少しだけ、言葉を探していたように見えた。
俺は、そんな母に背中を向けて、ソファへと戻った。
母は、何も言わずにキッチンへ向かう。
包丁の音だけが静かに響いていた。
私の子供の頃、休むと給食のパンが紙の時間割りと共に届けられていました。
読んでくださりありがとうございます♪