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第7話 いつか

 あれから二週間ほどが経ちました。

 修行のかいもあってだいぶ力を取り戻し、かつて人間だった頃の力くらいまでは回復し、その影響もあってバアルの力も跳ね上がりました。

 いえ、人間だった頃でももう少し強かったですかね?


 それはともかくとして。

 どうも、俺の力の多寡によってバアルの力も決まるようで……やはり、俺の強さを跳ね上げることは大事なようですね。


 権能のほうも、復活当初よりもチカラが高まりました。

 90%与えて、新たに130%手に入れた感覚ですかね。


 五芒星にふさわしい程度のチカラは取り戻せたはずです。


「お、お紅茶お持ちしました!」


 可愛らしい獣人のメイドが紅茶を持ってきました。

 ありがたく受け取って一口飲みます。


「ありがとうございます。ええ、とっても美味しいですよ」


 そう言ってニコリと微笑む。


「……っっ!し、失礼しましたぁっ!」


 メイドは真っ赤になって下がっていきました。

 うんうん、可愛いですね。


「かかか、あの娘、完全に姫様に惚れておるな。姫様にはソッチの趣味がある……というかそちらの趣味しかなかったはずだが、手を出したりはしないのか?」


 バアルがニヤニヤとしながらそんな事を聞いてきました。

 ……まあ、考えなかったといえば嘘になります。でも、やっぱり違うんですよね。


「俺としてはあの子にはそこまでの興味はありませんから。とても可愛らしい子だとは思いますが……付き合いたい、添い遂げたい、なんてことを思うほどではないので」


「抱くだけ抱いてあとは……で良いのではないか?」


「それも考えました。しかし、やっぱり罪悪感が勝りますので。魔道に堕ちることはできても外道に堕ちることはできません」


「からかっただけだ。……しかし、それなら人間の街を蹂躙することなどできぬのではないかな?」


「自分の管轄ではそのような惨は起こさせません。魔王様にも多少の方針の変更をそのうち上奏するつもりです。ですが、他の管轄で起きるぶんには割り切りますよ。俺はもう、人間ではありませんからね」


 『私』だった時点でもう人ではなかった。

 もしかしたら、生まれながらにして人ではなかったのかもしれません。

 それに、『オレ』だってこの世界に住む人間とは別種族でしょう。

 同じ人間だといったって、『オレ』は魔法も使えなければ熊を素手で撲殺する程度の膂力もありませんでしたから。

 そこまで行けばもう別の種族でしょう。


 だから、そこらの割り切りはもうできているつもりです。

 完全には割り切れていないから上奏しますし、助けたいという気持ちも生まれるでしょうけど……その程度に薄まった情で致命的なミスを引き起こすつもりはありません。


「そうか。やはり姫様は妙なお方じゃ。で、なのじゃが」


 バアルはそう言うと、楽しげに口元を歪めてこう言いました。


「妾が姫様のことを好きだと言ったらどうする?」


 ……冗談でしょうね。

 好ましくは思われていると知っているし、特別な存在と思われているのも知っている。

 だけど、確実にコレはからかっているだけですね。

 ならば、こちらもからかおう。


「全力で、砕け散るほどに愛させてもらいますよ……ふふ」


「ほえ?……妾でも、良いのか?光輪将軍に懸想しているのではないのか?」


 アレ?もしかして、思ったより動揺してますか?

 可愛らしいですね。


「いずれ、メタトロン殿を愛したいとは思っていますよ。ですが、あなたのことも嫌いではありませんから。……いえ、違いますね。かなり好ましく思っているんですよ。それくらいはわかっていると思っていましたが?」


「……う、む。だが、それならば先のメイドに対するそれなりに誠実な態度とは違うのではないかのう?」


「別に、俺は妻を一人に絞る気なんてないんですよ。この国の法でも別に禁じられているわけではないでしょう?」


「……なるほど、そういうことか。わかったぞ。じゃが……妾なら許してやれても、他の者等は許さぬのではないかな?魔族というのは今も昔も我が強いようだからのう」


「そうですね。ですから……俺は圧倒的になってみせます。魔王様に次ぐナンバー2。個人の武力で言えば魔王軍最強。勇者を倒し、神すらも殺した最強の戦士。その肩書があれば、自らを納得させることはできるのではないでしょうか?それに、魔族と言ってもみんながみんな我が強いわけではありませんし、そういうのが許されないのであれば一夫多妻、あるいは一妻多夫の家など魔界には存在しないでしょう」


「まあ、そうじゃなぁ。だが、そのうち刺されるのではないか?……妾は心配じゃ」


 冗談めかしていっているのかと思ったら、本気で心配されてしまいました。


「だからこその力です。圧倒的な力があれば、後ろから刺されても死ぬことはないでしょう」


「あの魔王も姫様を気に入っておったようじゃが?」

 

「……さすがに主君を囲うなどというのは不敬ですよ。そんな事は考えていません。怖いことを考えますね……」


「じゃが、不敬とはいえど生物としての格付けで言えば魔王より姫様のほうが上なのじゃぞ?いわば魔王は姫様の眷属に近い存在。ならば、許されてしかるべきではないか?」


「生物としての序列が全てではありませんよ。俺は社会性を捨てる勇気はありません。『私』だった頃はあったのかもしれませんが、『俺』になるにあたりそんなものは消し飛びましたから」


「なるほどのう……難しいなぁ」


 バアルは難しそうに頭を捻っていた。

 暫くの間、雑談に興じました。

 楽しい時間だった。その終わり際のことでした。


「……それにしても、そこまで想われているとは思いませんでしたよ。ある程度のチカラを取り戻したところですし、その……デートでもしませんか?」


 俺としてもバアルのことは好ましいと思っています。

『俺』という生物が初めて接した人がバアルで、彼女とは常に一緒にいますから……やっぱり、一番の特別は彼女なんですよね。

 だから、もっと仲良くしたい。あわよくばいちゃいちゃしたい。勇気を出してデートに誘ってみました。


「……その。楽しそうだとは思う。凄く嬉しい。じゃが、人が大勢いるところには仕事でもない限り極力行きたくないのだ。ああ゛ーーーっっ!!行きたい!凄く行きたい!姫様と仲良くしたい!でも人目が怖いのじゃあっ!」


「えへへ、今はまだ早いようですね。そんなバアルもとってもかわいいですよ」


「そ、そうか?心の弱いやつとか思っておらぬか?」


「俺も、別に心が強いわけではないですので。他人を蔑む余力はありませんよ。……ですが、そのうち、いつかでいいのでデートしましょうね?」


「う、うむ……ああ、ものすごく楽しみなのに胃がキリキリしておる……」


 悶えるバアルを見て楽しんだ後、修行をして眠りにつきました。

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