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第40話 世界の行き来

 うららかな日差しの中、俺は屋敷の庭で魔法や闘気の修行をしていました。

 権能だけ鍛えるのではいざという時に対応できませんからね。

 それに、『私』としての部分が鍛えておけと警鐘を鳴らしている気がしたんです。

 今すぐ必要になるわけではないのでしょうが……一朝一夕で身につくものでもありませんしね。

 この鍛錬自体は結構前から行っていて、具体的な時期は三ヶ月前……アーリデ殿との再開の更に三ヶ月前。つまり半年前からですね。


 鍛錬のお陰でだいぶ伸びましたよ。

 権能によるブーストを抜きに考えたら、史実における俺の魔法はもうとっくに超えているでしょうね。

 まあ、向こうは素の実力も当然高いですけど権能全振りに近い存在ですから、比べてもしょうがないですけどね。


「……よし。取り敢えずの目標は完遂できましたね。鍛錬はコレで終わりです。あとは……」


 ですが、お陰でどうしても欲しかった魔法も開発できました。

 その魔法は異世界から無属性+炎属性複合の炎を召喚するという術技なのですが、権能の力を混ぜ込むことで己自身が異世界に行けるという御業に昇華できたのです。


 異世界と言っても、別の星というわけではありません。

 無論、この宇宙には無数の星が存在し、それらの多くにおいて善悪の闘争が行われているわけですが……俺が言っているのは他の宇宙のこと。

 苦労しましたよ。海の砂よりも多い無数の宇宙から、ちっぽけな一つの惑星を探し出すのは。


 ですが、魂が探知機のような役割を果たしてくれたおかげでなんとか探し出せました。


 それから汗を流して、服を着替え、最低限の準備を済ませ……。では、行きましょうか。


「……なあ、本当に妾も置いていくのか?」


「すぐに戻ってきますよ。俺にとって一番大事なのは、結局この世界で暮らす大好きな人々なのですから」


「それはわかっておる。だがな。異なる宇宙に転移するとなると、流石に不安になる。戻ってくる気がなくなるのではないか、とな。この世界よりずいぶん文明が進んでいるようだから……不安なのじゃ」


 バアルが不安そうな目で俺を見つめていました。

 そう心配しなくても、こちらの世界のほうが楽しいんですけどね。

 ですが、今回は一人で行きたいんです。

 

「今回だけは一人で行かせてください。特段事情があるわけでもないのですけどね。それと、そのうちバアルも連れていきますよ。みんなで行くのもアリかもしれませんね」


「うぅ、しかたないのう。じゃが……えいっ」


 バアルが掛け声とともに権能込みの魔法を打ち込みました。

 ……ふむ。なるほど。これなら逃げられませんね。もとより逃げる気などこれっぽっちもないですが。


「これはパスを繋げる魔法じゃ。契約の魔法の使い方を工夫したのじゃよ。まあ、繋げると言っても既につながっているパスを更に強固にしただけじゃがな。その気になればたやすく連絡も取れる。……これで、深いところでつながってしまったのう?」


 ぺろりと舌を出して色っぽく挑発するバアル。

 思わず襲いたくなってしまいましたが……我慢。


「ふふ、良い心地です」


 そう一言だけ返して、魔力を練ります。

 権能の力も多量に注ぎ込み……魔法の準備が整っていきます。


「そうですね……お土産で希望するものなどはありますか?」


「そうじゃの。……では、向こうの世界の水をくれ。ペットボトル一本で良いぞ。それと、この世界の史実の物語……ゲームとやらを貸してくれぬか?」


「水は了解しました。ですが、ゲームの方はちょっと難しいですかね……。設備がありませんから」

 

 あのゲームは据え置き機やPCでやるゲームなので、この世界に持ってきても電気がないからできませんからね。

 申し訳ない。


「なるほど。わかった。それでは仕方ない。ではなにか食べ物を持ってきてくれぬか?姫様が好きだったものを食べてみたい」


「それならお安い御用です。……アレがいいですかね?でも、他にも良さげなのはありますし……いろいろ持ってきますので、楽しみにしていてくださいね?」


「うむ。楽しみにしておるからな。姫様がいない時間は寂しいが……なんとか耐えて見せる」


 ……かなり不安そうにしていますが、バアル視点だと割と一瞬なんですけどね。

 違う宇宙だから時間の流れが違うし、一定でもない。

 向こうでも今の時点で大した時間は流れていないでしょう。せいぜい二、三ヶ月前でしょうか?

 ですけど、向こうで長期間過ごしてもこちらに戻ってきた時にはほとんど時間は経過していない。

 地球のある宇宙には法を敷くような神はいないようですが、こちらの世界にはいます。

 向こうにいたとしても変わりません。

 流れ出す法が違うことにより時間の流れがいろいろ妙なことになっているんですよね。


 そもそも、真の神、三柱の神々のような存在にとって時間の概念はあまり意味がないといいますか……まあ、それはいいです。


 準備はできました。


「では、行ってきます。……ぎゅー」


「わわっ。……は、恥ずかしいな。だが、悪い気はせぬ」


 別れを惜しむように抱きしめ合って、それから魔法を起動して異世界……地球へと旅立ちました。

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