表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/44

第37話 静かな時間と押し倒し

 アーリデ殿たちがクルスト侯国の半分ほどを攻め落とし、国そのものを半ば従属させたとの報が入りました。

 喜ばしいことです。魔界の趨勢はもう決まったも同然ですね。

 そして、そんな事が起こってから一月ほど……アーリデ殿とメルフェデス殿は現地にまだ留まっているようですが、東国ビンルインから停戦の申し出がありました。

 もう抵抗するのは難しいと判断したのでしょう。

 彼の国は素晴らしい武力を持っていますが、それでもここまで差が開いてしまうとどうしようもない。

 というわけで、最低限の抑えを残してメタトロン殿は帰ってきました。


「……久しぶり」


 再開するや否や、隣にがっしりと居座られました。

 これは懐かれてますね……。うん、かわいい……!


 暫くの間、無言で同じ時間を過ごしていました。

 なにか話しかけようとも思いましたが、この時間を楽しんでいるようなので無粋なことはしません。


『とはいえ、ずっとだんまりというのも何だし、なにか喋ったほうが良いのではないか?』


「(メタトロン殿の好きにさせたほうが良いと思いますよ。だってほら、こんなに幸せそうじゃないですか)」


『……妾にはあまりわからんな』


 心のなかでバアルに話しかけられたりもしましたが、この場合はこれが良い。確信しています。


「……」


 そのうち、寄りかかられました。

 メタトロン殿としては結構大胆ですね。

 ちょっとだけ香ってくるミルクのような甘い香りが俺の脳を溶かす気がします。


 寄りかかられたなら、これくらいは良いですよね?


「んっ……」


 腰に手を回しました。

 メタトロン殿の体温が少し上がった気がします。

 いや、錯覚なんでしょうけど、心が動いたのは間違いないと確信しています。


 そのまま、二人だけの静かな時間を過ごしました。

 そうして、そのうち夕方になりました。


 普段はもっとお喋りをするのですが、さっきまではそれを望んではいなかったみたいですので、それを汲んだ形になりますかね。


「ん、今日はありがと。そ、それで……」


 メタトロン殿が何かを言いたげにしています。

 ……これは、情欲?

 なにかすごくピンチのような……それでいて素晴らしい体験ができそうな。


「……逃げられない、よね?」


「な、なにを……」


 知覚するのがやっとの速度でメタトロン殿は俺を組み倒して押し倒しました。


 これ、真面目に貞操の危機なのでは……?いや、望むところではありますけど!

 どうしましょうかこれ。

 成り行きに身を任せる?それとも、拒否する?それとも、積極的に受け入れる?

 最後の択が正解に思えますが、危険もあると直感が言っているんですよね。

 危険というのがどういう『危険』なのか……わかりませんが、どうしましょうか。


 というか、メタトロン殿のキュートなお顔が目の前にあって恥ずかしい……!!!

 自分の顔は、多分真っ赤になってますね。


「ノエルちゃんは、私のこと嫌い?」


「そんなわけはありません。ですが、これは……」


「心の何処かで望んでいたの、わかってるんだよ。好きな子に無理やりこういうことされたいと思っているのも……」


 敏い!『コミュ障なのに俺の気持ちをやけに察してくれるなぁ。ここまで思われるなんて嬉しい!』とは思っていましたが、そこまで見抜かれているとは思っていませんでしたよ。


 ええ、そうですよ。好きな女の子に、力の差で押さえつけられて無理やりされたいって思ったりしましたよ!それをされるならメタトロン殿がいいとも思っていましたよ!

 うわぁ、恥ずかしすぎますね……。


「ええ、そうです。俺はそういう浅ましい女なんです。ですが……メタトロン殿は本当にこんな形でいいんですか?」


 メタトロン殿は変わってはいるけど、乙女な子でもあるというのは知っています。

 だから、こういう手は好まないかと思っていたんですけどね……。


「私はノエルちゃんの『一番の女』になりたいから。これくらいなら許容範囲」


 ……なるほど。そういう結論に達したわけですか。

 そうであるなら、身を任せましょう。


「……それに、私もずっとノエルちゃんにこうしたかったから。ハジメテはこういうのが良い」


「……っっ!??ん、む……ぷはぁ……」


 ……目が妖しく光ったかと思うと、唇を強引に奪われました。

 ここまで来るともう何も考えられません。

 このまま、取り返しのつかないところまで堕として欲しいです……。


『ずいぶんと乙女な思考ではないか?覇王の名が泣くぞ』


「(うっ……仕方ないでしょう!俺は『私』であると同時にちゃんと『俺』なんですから!)」


『からかっただけじゃ。それでは、妾は休眠モードに入る。お楽しみは二人でゆっくりとするが良い。誰かに見られているのが良いならばそうしてやっても良いが……そういう趣味はないのじゃろう?』


 それ以降、バアルの反応は消えました。


「やり方、良くわかってないけど……楽しませられるように頑張るからね」


 ……本当にやり方を良くわかっておらず、際どいところを触りっこするにとどまったのはここだけの話です。


 恥ずかしいことに、やり方をわかっていないのはお互いの話なんです。

 メタトロン殿も知りませんでしたが、俺の方も知りませんでした。

 『私』としては当然そういう経験はないですし、『オレ』としても勉学やスポーツに打ち込むばかりで恋愛ごととは無縁でしたからね。


 アダルトなビデオもそういうイラストも、あまり見ませんでしたよ。

 性欲は人並みにありましたが、他人と競うことが楽しかったのと、負けてはならないという周囲からのプレッシャーがありましたからね。

 

 それに、女性同士のそういう事に関する知識なんてそもそも知りませんから!

 心の中で求めていることを察することはできるので、なんとなくされたいこと、してほしいことを知ることはできるんですけどね……一般的なやり方がわからないようでは宝の持ち腐れでしょうね。

 恥ずかしいですが……ハウツー本を読んでみますかね。


 主に淫魔の方が働いているそういうお店で経験するのが手っ取り早い知り方法なのかもしれませんけど、それは『浮気』ですからね。

 全員を妻とした上でそういう事をするとかなら良いんですが、外で女を作るとかは完全アウトです。

 俺だって、別に好きでもない方としたいわけではないですからね。

 いくら可愛くても、好きじゃない子とするのは違うなと。そもそも興奮できなさそうです。


 ともかく、実践経験をすぐさま得るのは無理ですから、とりあえずやり方を本で学びましょう。


 ああもう、なんで今まで学んでいなかったんですかね俺は。


 でも……メタトロン殿の体、柔らかかったなぁ。

 すべすべで、かわいかったです。

 それに、わからないなりに頑張って愛情表現するあの姿……たまりませんね。

 

 俺も可愛げというものを身につけるべきなのでしょうか?

 いつも余裕ぶってばかりで、可愛げが足りないような……。

 もうちょっと、恋人たちに可愛いと思ってもらえるように頑張りましょうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ