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第30話 バアルのエスコート・翔

「……フフ、ではいこうかの?」


「今日はエスコートしてくれること、楽しみにしていましたよ」


 既に冷や汗をかいているバアルに対して、あえてプレッシャーを送ってやります。


「うむ……ま、まかせておくがよい。妾は神なのだからな」


 怯えているバアル、可愛い……。

 ああ、ふふ……その表情とっても良いですよ。

 可愛いのでもっといじめてあげたいところですが、今日の趣旨とはちょっと違いますね。

 もっと違った感じで楽しませてもらいましょう。


「……そういえば、今日はおめかししているんですね」


「嫌か?……姫様に見合うように必死で着飾ったのだが。前に妾にこれを着せて喜んでいたから良いと思ったのじゃが……やっぱりあっちのほうが良かったかのう」


 バアルは泣きそうな表情をして悲しんでいました。


 普段は己の服装にあまりこだわらないバアルですから、そこがまた良いんですよ。

 もっと着飾ってあげたいんですが、今日はコレが良いですね。

 必死で選んでくれたんでしょうし……えへへ。


「嫌なわけないじゃないですか……嬉しいです。恥ずかしい話ですが、とてもきゅんきゅんきていますよ」


「そ、それなら良かった!……行こう、なっ!」


 そうして、デートと相成りました。


 まず選ばれたのは図書館でした。


「姫様は本が好きなのだよな?姫様の好きだという本というものを妾も読んでみたくてな。ははは」


「この世界の歴史については興味深いですからね。所詮は神々の駒に過ぎなかったとしても、その物語と人間模様のきらめきは決して嘘じゃありませんから」


 そこまで言って、すぐさま否定します。


「ですが、それではこの場には適していませんね。最近では女の子としての考え方を補強するために、恋愛ものの物語も読んでいるのですが……これが意外と面白くて」


 そう言って、少し前にちょっとハマったシリーズの第一巻を取り出しました。


「魔姫と偽姫太子……か。記憶の中を読んだときに少し見たが、結構突飛な設定じゃったの」


「偽姫太子の境遇は俺とも少し被るところがあるように感じましてね。ヒロインとヒーロー、どちらも可愛らしいと思ったし早くくっつけと何度イライラさせられたことか……なかなかに良い読み物ですよ」


 いわゆる『奇書』の類でもあるのですが、同時に結構な層からの支持がある小説でもあるんですよね、コレ。

 翻訳と世界観の説明さえしっかりすれば、日本でもマニア受けはかなりしそうです。

 普通にめっちゃ面白いですから。


 内容?タイトルから察してください。

 どうしても?……女装成り変わりものの亜種と言ったところですかね。


 俺の場合はこの作品のヒーローのような葛藤とはあまり縁がありませんでしたが、それはあるある!ってものもそれなりにあって共感もしてしまって感情移入しちゃったんですよね。


「姫様はだいぶ違うような気がするがな。勘違いしておっただけで、最初から女として生まれてきたではないか」


 ナチュラルに心を読まれましたね。

 他の人と話している時は察しが異様に悪いのに、俺と話しているときだけはこうなんですよね。そこがまたかわいいと言うか……。


「どちらでもなかったのが、どちらでもあるに進化したというのが正しいところかもしれませんがね。まあそれはともかく、読みますか?」


「いや、いい。姫様が読んで、妾は記憶を探ったから細部に至るまですべて知っているからな。別の良さげな物語を探そうではないか」


 それから、少しばかりイチャつきながら色々と良さげな本を見つけていきました。

 そんなときでした。


「……どうしたのですか?」


「ああ、いや。見られたくないような、見てほしいような本があったからな。どうしたら良いか迷っていたのじゃ」


 バアルがある本棚で立ち止まって、神妙な顔をしていました。


「それはどれで?」


「ここまで言ってしまったのだから仕方ないの。……これじゃ」


「『水の神格たち』ですか……なるほど、かつてのバアルの実態が少しわかってしまうかもしれないとかそういうことですね」


 バアルは己を戦と金属の神として祀られたことに不満を持っていても、本来の神格については語りたがりませんでした。

 なるほど、水に関係する神だったんですね。


 同志三人全ての権能の流れの本質を理解するためにも必要ですし、なによりバアルを理解する上で重要になるでしょうね。

 チェックを入れておかなければ。


「読みましょうか」


「……うむ。解説はするが、言いたくないことは言わんからな」


 それから席につきました。


 まず紹介されたのは海の神。水に関する主神的な扱いのようです。

 バアルによるとそのうち格下になったとか言っていました。

 ……神代のことって理解するのが難しいんですよね。三柱以外に神がいくらでもいたということと、その神々がどの程度の存在なのかが測り難い。

 バアルによると、今の俺でも倒せるような神々も結構いるようで……でも三柱の神々はもっとずっと、比べる域にもないくらいに格上ですから良くわからないんですよね。


 ……知らないことだらけですね。本格的に学者モドキでもはじめて、知りに行きましょうか?

 俺は領地も持っていなければ兵も殆ど持っていませんから時間は捻出しやすいんですよね。


 流石に毎日デート三昧遊び三昧とはいきませんし、逆にとてつもない頻度で陛下に呼び出されますけど……。

 ああ、陛下は俺の神話も調べていたんですよね。

 なら、神代のことも調べているかもしれませんね。

 聞いてみましょうか?……今考えることではありませんね。

 バアルの目の前で他の女のことを考えるのは……ふふ、普通に嫌ですよね。

 すみません、気の利かない女で。


 それから水の神、流水の神、凪の神など様々紹介されて……その最後の方でそれなりにページを使って解説されているのがバアルでした。


「これが妾じゃ。ゆっくりと流れながら続いていく河川の神バアル。あの村の者どもが付けたバアルという名前と同じじゃが、意味するところは違うな」


 ……これはとんでもない。三柱の神々に次ぐ存在とすら書かれています。

 よく人間だった頃の俺でバアルに勝てましたね……。

 ……ああ、貶められていたんですよね。

 それでも、権能を十全に振るう『邪神』相手にただの人間である俺が勝つなどあまりにもぶっ飛んでいますね。

 とはいえ、本当に神だった頃のバアルはとんでもない存在でした。

 断片的に聞かせてもらってはいたのですが、全然知らなかったんだなと。

 単為生殖というか、神の尺度での話ですのでまた違う概念になるのでしょうが……分霊として三人の娘を生み出していることもわかりました。


 まさに処女懐胎……。いや、実際に産んだわけではないでしょうし、本当に処女かなんて知りませんし、多分三万年も生きていたあの頃に失っていたんでしょうがね。

 神とはそんな事もできるんだとびっくりしました。


「……むう。なにか酷いことを考えなかったか?」


 純粋に感嘆していたのに、バアルは何故か不機嫌です。

 ……なにが不満だったのでしょうか?


「姫様が表面的に考えていることくらいなら、心の中に入っていなくてもわかる。妾はだれよりも姫様を理解しているのだからな」


 ……?それで、何が行けなかったのでしょうか。

 神の尺度から考えるとどうでも良いことだと思うんですが……。


「妾は処女だ。そこらのビッチと一緒にするでないぞ」


 ああ、そこが引っかかっていたのですか。

 妙なところに引っかかりを覚えるんですね。よくわかりません。

 神からするとそんな事どうでも良いんじゃないかと思うんですが……。

 

「……ふふ、そうですか。ですが、三万年も純血を保つというのもそれはそれでなにかしらの問題があったのでは?」


「むう……姫様は妾が他のものに抱かれていても良かったと言うのか?」


 ……かわいい。そのふくれっ面に頬が緩んでしまいます。

 でも、不機嫌そうにそう問われてはこう返すしかありませんね。

 からかいすぎるのはあまり良くないですから。

 他人を弄ぶのが大好きなのは事実ですけど……やっぱりあんまりからかいすぎると支障が出ます。

 知っているのに最初の方は少しやらかしてしまってそれが少しトラウマなんですよ。


「まさか。バアルの最初も最後もその道中も、すべて俺のものですよ。ただ、それはまず俺……いえ、『私』が生まれた時点で無理だったんだろうなと諦めていたから出た感想というだけです」


「うむ。それで良い」


 バアルは満足げにほほえみました。冗談のつもりなのでしょうが、本音がだいぶ混じっているようですね。

 

 しかし、経験ゼロとは流石に思っていませんでした。

 神代の時代はおそらくコミュ障ではなかったでしょうし、魅力あふれる女の子ですからその気になればいくらでも相手はいたでしょうに……。

 神の絶対数も少ないわけではないみたいですしね。


 でも、嬉しいと言えば当然嬉しいです。俺は最初の女になることよりも最後の女になることの方に価値を感じるんですけど、前者も当然嬉しいことではあります。


 それからしばらく本を読んで、感想や考察を深めながらさり気なくいちゃついた後、次の場所へ移動することになりました。

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