第2話 突撃! 六花高校文化祭②
生徒会室を一足先に出ていったリーゼとソフィーを追いかけるために冬夜たちも学園長室へ向かう。
「リーゼがまた学園長に詰め寄ってなければいいけどな」
「ソフィーちゃんが一緒だから大丈夫じゃない?」
リーゼの暴走を心配した冬夜を言乃花が一蹴する。そして畳みかけるようにレイスも話に割って入ってくる。
「大丈夫っすよ。ソフィーさんに怒られたときの落ち込みようって言ったら……思い出すだけでも笑えてくるっすから」
右手で口を押さえて必死に笑いをこらえながら歩くレイス。その様子に妙に納得する冬夜と左手を額に当て大きく息を吐く言乃花。そんな会話をしながら歩いていると学園長室の扉が見えてくる。すると奇妙な光景が目に飛び込んできた。
「……リーゼ、何やっているんだ?」
顔をこすりつけ、両手でぴったりと体を扉に貼り付けていた。すぐ近くにいたのは不思議そうな顔をして首をかしげているソフィー。
「静かにして! 学園長が誰かと話しているみたいなの!」
「聞き耳なんて立てずに、普通にノックして呼べばいいんじゃないか?」
「そうよ、学園長に来客なんて珍しいことでもないでしょ? それにダメなら出直せばいいだけじゃない」
「もう勘弁してほしいっす、リーゼさん。これ以上笑わせないでくださいよ」
「だーかーら、話している相手が女の子たちみたいなのよ! また何か企んでいるに違いないわ!」
呆れた表情で冷めた視線を向ける冬夜と言乃花と体をくの字に曲げ、お腹を両手で押さえながら笑っているレイス。すると、リーゼの隣にいたソフィーが何かを思い出したかのように声をあげた。
「あ! そういえば声に聞き覚えがあります! たぶん、六花高校の皆さんだと思います!」
「「「え?」」」
ソフィーの発言に驚きの声をあげる一同。
「ソフィー、六花高校ってこの間ランチに行ったときに友達になった人だっけ?」
「うん! 中から賑やかな笑い声とか聞こえてきた時に『どこか聞き覚えがあるような?』ってずっと考えていたの」
「すごいね、よく思い出したね」
メイとソフィーが笑顔で会話している隣で驚いて固まっている冬夜たち。すると、レイスの隣で腕を組んで静かに話を聞いていた芹澤が一歩前に出て声をあげた。
「そうか、六花高校の方々がお見えになっているのか。ここは学園を代表するプロフェッサー芹澤としてご挨拶をせねばならぬ!」
「ちょっと芹澤! いつからあんたが『学園を代表するプロフェッサー』になったのよ?」
「聞き捨てならないな、リーゼくん。研究を愛するものとして探求心を忘れてはいけないだろう! 別世界の方々に素晴らしき研究を紹介するまたとない機会なんだぞ?」
リーゼとのいつもの押し問答が始まろうとした時、芹澤の頬を一筋の冷たい風が通り抜けた。
「副会長? お気持ちはわかりますが、初対面の方に何をお話しされようとしているのでしょうか? もしよろしければ私がじっくりお聞きしますよ」
声のしたほうへぎこちない動きでゆっくりと顔を向ける芹澤。
「……おっと私としたことが、整理できていないデータがある事を思い出したぞ。まことに残念だが、不完全な話をすることはできない。またの機会にお願いしよう」
廊下に芹澤の乾いた笑い声が響く。一連のやり取りを呆れた顔をして眺めていたレイスが何かに気が付いた。
「リーゼさん、扉から離れたほうがいいっすよ」
「え? 何か言った? ちょっとよく聞こえな……キャー!」
再び扉に張り付いて聞き耳を立てようと扉にリーゼが手をついた時、中から扉が開きそのまま床にすっ転んだ。
「あーちょっと遅かったっすね、どーも学園長」
「おや? みんなお揃いでどうしたのかな? それとなんでリーゼちゃんは床で寝ているんだい?」
長い赤髪を背中で束ね、眼鏡を掛けたスーツの学園長が部屋から出てきた。
「痛い……ちょっと学園長? いきなり扉を開けるなんて失礼じゃないですか?」
「なにやら外から賑やかな声が聞こえたから気になってね。そんなところで寝ていると風邪ひいちゃうよ?」
「誰のせいでこうなったと思っているんですか!」
床に倒れたまま怒り狂うリーゼを横目に冬夜たちに声をかける学園長。
「ちょうどよかった。みんな集まってくれているなら話が早い。さあ、中に入りたまえ」
学園長に促され、室内へ足を踏み入れる冬夜たち。部屋の中央に設置されたテーブルの上にはティーセットが七人分置かれていた。
「学園長、どなたかお見えだったのでしょうか?」
言乃花がテーブルに視線を送ると学園長へ質問する。
「さすが言乃花くんだ。少し前まで六花高校の方々とお茶していたんだよ。さっそく本題を話そう。君たちにはワールドエンドミスティアカデミーを代表して六花高校文化祭に行ってもらいたい」
学園長から告げられた提案に理解が追い付かず、立ち尽くしている六人。
次元と世界を超えた異文化交流が始まろうとしていた。
ここまでお読みいただきありがとうございます!
箱庭初のスピンオフ作品でまだまだ読みづらい部分もあるかと思いますが、見守っていただければと思います。
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