第1話 突撃! 六花高校文化祭①
世界の狭間に存在するといわれる霧に囲まれた学園「ワールドエンドミスティアカデミー」
今日も生徒会室から怒号のような声が春休み中の学園に響き渡った。
「私を差し置いて……ソフィーちゃんとおしゃれなカフェでランチをしてきたですって!? 学園長め……今日こそ息の根を止めてあげるわ! 今日が学園長の命日よ!」
「リーゼ、落ち着きなさい。まだソフィーちゃんが話している途中でしょ?」
顔を真っ赤にして怒り狂っている生徒会長のリーゼ・アズリズルに対し、大きく息を吐きながら苦言を呈したのは斜め向かいに座っていた会計の椿 言乃花。
「でも……」
「何か言いたいことがあるのかしら? わざわざ春休みの郊外活動について話し合うために集まったのよ? そんな大声を出して、みんなが呆れているのがわからないの?」
言乃花に促され、生徒会室を見渡して真っ赤な顔になると無言で椅子に座るリーゼ。生徒会室には長机が正方形に配置されており、入口から見て正面に生徒会長のリーゼ、右側に会計の言乃花、書記のレイス・イノセント。反対側には副会長の芹澤 玲士、特殊な事情により生徒会に参加している天ヶ瀬 冬夜、メイ、うさぎの人形のソフィーが座っていた。
「リーゼさん、お話は最後まで聞かないと『めっ』ですよ!」
「ソフィーちゃんに怒られた……」
椅子に座っていたソフィーが右手を突き出してリーゼを叱ると、真っ白に燃えつきた様子で椅子にもたれ掛かるリーゼ。
「ほんとソフィーさんのことになると見境がなくなるっすもんね」
右手で口元を押さえ、必死に笑いをこらえながら隣の言乃花に話しかけるレイス。
「もう慣れたわ……もう少し生徒会長としての自覚を持ってほしいのだけど……」
呆れた様子で言乃花が左手を額に当て大きなため息を吐く。するとレイスがソフィーに気になっていたことを聞いた。
「ところでソフィーさん、どちらに行かれたんすかね?」
いつもの笑顔に戻ったレイスがソフィーに疑問を投げかける。
「たしか……『呉cafe』さんというすごく素敵なお店でした! たくさんのお客さんで賑わっていて、お店に入るとすぐにかわいいイラストがたくさん飾ってありました。落ち着いた雰囲気の店内でランチをいただいたのですけど、すごく美味しくて! 学園の食堂では食べたことのないお料理でした!」
笑顔で楽しそうに話すソフィーの様子に生徒会室の空気もどんどん暖かくなっていく。
「ソフィー良かったね。そういえば新しい友達ができたって言ってなかった?」
隣に座っていたメイが何かを思い出したようにソフィーに問いかける。
「そうでした! イベントを主催している方たちとお友達になりました。皆さんと同い年くらいのすごく可愛いお姉さんたちで、とっても優しくていっぱいお話しをくれました。帰る時はギューッとしてくれて……」
「なんですって! 誰の許可があってソフィーちゃんを……」
「リーゼ、うるさいわよ。ソフィーちゃんが話しているのよ? あとでゆーっくりお話|を《・》きいてあげるからね」
「冗談じゃない……ね? 言乃花?」
勢いよく椅子から立ち上がり声を荒げたリーゼを一声で黙らせる言乃花。凍り付くような視線に冷や汗を流しがら静かに椅子に座り直す。
「俺たちと同い年くらいの人がイベントを運営しているんだ。ちょっと気になるな」
「私たちも仲良くしてもらえるかな? お店もすごくいってみたいよね!」
「自分も興味あるっすね。ソフィーさんが食べたランチも……」
「ふむ、学園では食べたことがない食事か……ならば、まだ見ぬ発明品もあるだろう! いいだろう、プロフェッサーへの挑戦を受けてたとうではないか!」
「芹澤、ちゃんと話を聞いていたの? アンタへの挑戦なんて誰も言ってないわよ!」
いつもと変わらない賑やかな声が生徒会室を満たしていく。
(みんなが楽しそうで本当に幸せ。あのお姉ちゃんたちとも仲良くしてほしいな)
ソフィーが笑顔でみんなを見ていると言乃花が話しかけてきた。
「ソフィーちゃん、私たちも行ってみたいのだけど大丈夫かしら?」
「はい! みんなでお邪魔したら絶対楽しいと思います。そうだ! 今からみんなで学園長に連れて行ってもらえるようにお願いしませんか?」
「「「すぐに学園長室に行こう(行きましょう)」」」
ソフィーの提案に全員が声を揃える。そして学園長室へ向かうため席を立ち始めた時、リーゼがソフィーに問いかける。
「そういえばソフィーちゃん、私たちと同い年くらいの人が運営しているって言っていたわよね? 学園を代表してお邪魔するわけだから、お店の方にもご挨拶しなければいけないし……あと、学校の名前とかはわかる?」
「はい! 学校の名前は六花高校さんです。看板に『六花高校文化祭』って書いてありましたよ!」
「ありがとう。ソフィーちゃん、学園長のところへ手を繋いで一緒に行きましょうね」
「はい、一緒に行きましょう!」
光の速さでソフィーの隣に現れると右手を差し出すリーゼ。嬉しそうに手を握り返すソフィー。
「リーゼはあとでお話合いが必要ね。交流会……すごく興味があるけど、学園長が絡んでいるのが引っ掛かるわね」
緩み切った顔をしながら生徒会室を出ていくリーゼを見て、大きく息を吐く言乃花。幸いなことに学園は春休み中なので他の生徒に遭遇することはない。
一癖も二癖もある生徒会メンバーたちが動き出す。
はたして何が起こるのか? 予測不可能な交流が始まろうとしていた……