第一話 その婚約破棄、お受けします!
2万字越えの長い話です。
連載ですが、一話が一つの短編のような感じです。
煌びやかなシャンデリアの下、着飾った令息令嬢が自由な雰囲気で会話を楽しんでいる。
ふと彼女たちの視線が私に向けられると、楽しい表情から一転、可哀想なものを見る哀れみの目に変わる。
ここは貴族の子女が通う王立セントワーズ学園の舞踏ホール。
今は卒業パーティーが始まったところだ。
この目出度い日に私は一人、黒にも見える深い緑のドレスを纏って壁際に立っている。
卒業パーティーに限らず公式の社交の場では、婚約者がいる者は婚約者にエスコートをされて入場するのが通例だ。
にも拘らず、私───アスティナ・ダストンは今日、一人で入場した。
哀れみの目を向けられるのはそのためである。
私は壁際に置かれたテーブルに並べられたワイングラスに手を伸ばし、薄い色の液体が入ったグラスを手に取る。
それを口にしながら見つめた視線の先には、複数の令息に囲まれ幸せそうに満面の笑みを浮かべる女性。
この世界には珍しい鮮やかなピンクの髪に、それに呼応するような薄いピンクの瞳。
上等な布で作られたのが遠目にも分かる、彼女の可愛らしくて清廉な容姿に似合う白いドレスと、様々な方から贈られたであろう高価な宝石をあしらったアクセサリーを身につけている。
彼女の名前はダリア・ラビットソン。
元々は孤児院育ちで、16歳となり成人してからはリンカーン修道院で生活していたダリアは、ある日突然強い癒しの力に目覚める。
そこで病気や怪我の平民たちを治療していく中で『リンカーンの聖女』として巷で話題になる。
それを知った王室が、ダリアの強い癒しの力を国で保護するためにラビットソン男爵家の養女として、この王立セントワーズ学園に転入させたのがちょうど一年前。
他の貴族令嬢とは違う、市井育ちの天真爛漫で心優しいダリアは瞬く間に学園の男子生徒を虜にした。
そう、今私の視線の先のダリアの隣で穏やかな表情を彼女に向けている───私の婚約者、ラルフォンス・エーベルハイトもその一人だ。
◇
ラルフォンス──ラルフとは、私たちが10歳の頃、8年前に家同士の約束で婚約した、いわゆる政略結婚だ。
エーベルハイト家はこのセントワーズ王国の王族の血を引く公爵家であり、お金はあるが所詮は伯爵家の娘でしかない私は、婚約が決まった当初より公爵夫人に相応しい厳しい淑女教育を受けることになる。
家同士に決められた婚約とはいえ、婚約者のラルフとは一年前まではそれなりに仲良くやっていたように思う。
煌めく白銀の髪に宝石のような翡翠の瞳。
そしてその整った顔立ちから子供の頃から令嬢に人気のあったラルフだが、決して他の女性に目を向けることはなかった。
公式の場では常に私をエスコートをして一人にならぬよう気を配ってくれたし、その度に自分の服と揃えたドレスやアクセサリーを贈ってくれたり、その他の贈り物や手紙も定期的にくれていた。
私は愛や恋ではなくても一生を添い遂げるのだから互いに信頼し合って生きていければと思っていた。
だからこそ厳しい淑女教育も頑張ったし、いつも気遣ってくれるラルフに最大限の感謝と信頼を伝えてきたつもりだ。
しかしそんな私たちの関係も、一年前にぱったりと途絶えてしまった。
一年前のある日、突然ラルフから手紙が届いた。
『これから一年間、私に近づかないでくれ』
それだけが書かれた手紙を握りしめ、しばらく呆然としたのは言うまでもない。
手紙が届いた次の日から、ラルフは急によそよそしくなった。
私が避ける間もなく───あちらが私を徹底的に避けた。
そして直ちに噂は立った。
『ラルフォンス・エーベルハイトはダリア・ラビットソンに夢中だ。アスティナ・ダストンは捨てられた』と。
それからはあれだけ頻繁に届いていた手紙も贈り物もパタッと来なくなり、ダストン家の使用人たちも流石にすぐに異常に気が付く。
学園でも家でも周りに憐れみや嘲笑の目を向けられ、いい加減嫌になった私は、父にラルフとの婚約解消を申し出た。
「お父様。私、もう耐えられません。婚約を解消してくださいませ」
「……婚約解消は、できん。とにかく、一年待ちなさい」
「一年待たなければいけない理由は何ですの?そして、一年後には何がどうなるんですの?」
「………それは言えん。すまないな」
お父様はそれ以降、婚約についての話を取り合ってくれなくなった。
3歳上のお兄様にも泣きついたが、お父様と同じ反応を返されるばかり。
私はこの如何ともし難い感情を共有できる仲間もなく、孤独に沈んでいった。
そんな折、私は一人のご令嬢に学園で話しかけられる。
「アスティナ・ダストン様?少しお話ししませんか?」
そのご令嬢は、美しいゆる巻きの金髪にアクアマリンの瞳が愛らしい、ジャクリン・タウンゼン様だった。
ジャクリン様は筆頭公爵家のご令嬢、そしてこの学園に通う第二王子ロベルト様の婚約者でもある。
そしてそのロベルト様は───ダリアを取り巻く令息たちのうちの一人だ。
私たちは各々の状況を共有し合った。
状況はおおよそ同じ。
父や兄に言われた言葉もほぼ同じだった。
ただ私とジャクリン様で違ったのは、ジャクリン様には時々贈り物が届くのだとか。
「うちは一応筆頭公爵家だから、婚約者の体裁だけでも取っておかないとまずいと思っておられるのかもしれないわ」
ジャクリン様は悲しげな顔でそう言った。
ジャクリン様も私も、この苦しい状況をどうにもできない仲間として仲良くなるのには時間がかからなかった。
ただ、婚約者に捨てられた令嬢が二人で寄り添っていた姿は、外から見ればあまりに滑稽だったらしい。
ほぼ毎日、聞こえるような大声で誹り、蔑みを受けた。
婚約者に捨てられたからと、他の令息が下卑た笑みを浮かべて迫ってくることもあった。
ラルフに懸想する令嬢にお茶をぶちまけられ、嬉しそうに誹られることもあった。
そんな生活が一年。
私の心は少しずつ死んでしまった。
◇
記念すべき卒業パーティーだというのにドレスの一つも贈られなかった私は、この日のために自分で誂えた喪服のようなドレスを纏ってこの場に立っている。
ひっつめた青みがかった銀髪と瑠璃色の瞳も相まって、まるで絵本に出てくる魔女のような装いだ。
私に向けられる蔑まれるような視線も、嘲笑うような声も、悲しいかなもう慣れてしまった。
しかし、それももう終わる。
今日でこの学園を卒業し、私は明日、修道院へ行く。
婚約解消もできず、立場を変えることもできずにただただ悪意ある視線に晒される日々。
そしてそこから助けてくれようともしない家族に、心底嫌気が差したのだ。
「……アスティナ様」
ジャクリン様から声をかけられ、振り返る。
ニコリ、と悲しげな笑みを浮かべたジャクリン様は、ロベルト様の瞳の色と同じ海のような深い青色の生地に、ロベルト様の髪の色と同じ銀糸で美しい刺繍が施されたドレスを身に纏っている。
つけているアクセサリーも、ブルーダイヤをあしらったものだ。
「ジャクリン様。……それはロベルト様から贈られたドレスですか?」
「ええ、そうなの。こんなものを贈って……本当にどういうつもりかしらね」
クスクスと笑い合う私たちに向けられる視線は生温い。
私たちの10メートル先では、それぞれの婚約者が別の女に侍っているのだから。
そのうちに音楽が鳴り出し、会場にいる卒業生たちはパートナーと共に踊り出す。
もちろん、私とジャクリン様は壁の花だ。
ダリアも、自分を取り巻いている令息達と順に踊り出す。
まずはロベルト様。
そして、ラルフ。
ダリアと踊っている令息は有力な役職に就く高位貴族の子息ばかり。
そのうちに婚約者がいるのはロベルト様とラルフだけだ。
一方壁の花となった私たちに他の令息からのダンスの申し込みは一切無く。
虚しい思いを抱えながら、楽しそうに踊っている男女の笑顔を眺める。
───ああ、卒業パーティーなんか来なければ良かったわ。
ここに来たことを後悔し始めた頃。
宴もたけなわというところで、突然ロベルト様が中央階段を登り始める。
踊り場に立つと、ロベルト様は会場に声をかける。
「諸君!この場を借りて、皆に伝えたいことがある!」
ロベルト様の隣には、腕をべったりと組んで立っているダリア、その隣にはラルフと、宰相の子息、騎士団長の子息、魔法師団長の子息が並ぶ。
「ジャクリン・タウンゼン!アスティナ・ダストン!前に出よ!」
突然名を呼ばれ、私たちは階段下に歩み出る。
「私、ロベルト・ジョースターはジャクリン・タウンゼンと───」
ロベルト様がそこまで言うと、ラルフが一歩前へと歩み出る。
「私、ラルフォンス・エーベルハイトはアスティナ・ダストンと───」
「「婚約を破棄する!!」」
二人の声が重なり、何とも言えないハーモニーを奏でる。
会場は一瞬静まり返った後、ザワザワと騒がしくなる。
「………理由をお伺いしても?」
ジャクリン様が震える声で尋ねる。
「お前たち二人は、ここにいるダリアを虐め抜き、様々な悪虐を働いた、そうだな!?」
私たちはロベルト様の言葉に目を丸くする。
ダリアを、虐めた?
学園ではほとんど会うこともなかったのに?
「………全く身に覚えがございません」
私が怒気を滲ませた声で言うと、ラルフの眉が少し動く。
「……酷いですわっ!私、どれだけ辛い学園生活を送ったか……!」
ダリアはロベルト様にしがみつき、よよと泣く。
「ダリア。泣くな。君は確か移動教室の際、ジャクリンに階段から突き落とされた。そうだな?」
「そうです!私……足を捻って、一週間はまともに歩けませんでした!」
その時痛めたであろう足を見ながら、ダリアは悲しげな表情を浮かべる。
「そうか、可哀想に。それから、学園に入る前に生活していたリンカーン修道院に里帰りする際、アスティナの雇った暴漢に襲われた。そうだな?」
「ええ、そうなんです!馬車を降りるといきなり暴漢に襲われて……。修道院の騎士様が助けてくださったので命は助かりましたが、腕に傷を負い……本当に死ぬところでした!暴漢は『アスティナ様に雇われた』と言っておりました!」
言うことだけ大声で言い終えると、ダリアは再び大泣きを始める。
私は正直、この茶番を冷めた目で見ていた。
だって、さっきの話は真っ赤な大嘘だもの。
私もジャクリン様も、成績上位で淑女科の特別クラス。
ダリアは途中で入学したこともあり成績が悪く要特訓クラス。
まずカリキュラムが全然違うし、要特訓クラスの移動時間がいつかなんて私たちは知り得ないのだ。
それに、修道院を訪れた件もそう。
ダリアが修道院を訪れる予定なんて、私は知らない。
「……そうか。言質は取ったな」
ロベルト様はそう言うと、自分に縋り付くダリアの体を引き剥がした。
「さて、ダリア。今の話だが……実は既に裏を取っている。まずは階段の件。君が階段から突き落とされたと主張した日時、ジャクリンは王城で妃教育を受けていた」
ダリアは泣き腫らしたグチャグチャの顔を上げ、驚きの表情でロベルト様を刮目している。
「そして暴漢の件。修道院の騎士にも話を聞いたが、暴漢というよりは浮浪児のようだったと言っていたぞ。……そういえば、ダリアは孤児院育ちでそういった者とも繋がりがあるな?」
ロベルト様はさも楽しげに口の端を上げている。
普段の穏やかで紳士的なロベルト様を見慣れたダリアからすれば、相当に恐ろしく感じるだろう。
「それから……。ダリア、君が気に入った令息に近づく令嬢に嫌がらせをしていたね?」
ロベルト様やラルフは見目麗しく地位も高い。
婚約者と上手くいっていないとなれば、近寄ってくる令嬢も多かっただろう。
またその他の取り巻きの令息も、元々令嬢人気の高かった人たちだ。
「……誤解ですわ!私、そのようなことは何もっ……!」
「残念だったね?なぜ僕たちのような身分の高い者が、身分も釣り合わない君の近くにずっといたと思う?」
「それは……私が『リンカーンの聖女』だから……」
「さあ、それはどうかな?」
ラルフが突然声を上げる。
「君はさっき言ったよね?『足を捻って一週間歩けなかった』と……。どうして、その類稀なる治癒能力で治さなかったんだい?」
ラルフの言葉に、ダリアはサァッと青褪める。
「君は……本当は大した治癒能力なんて無いんだろう?」
ダリアに治癒能力は確かに存在する。
少しの傷や不調を治すことができるほどには。
ただそれくらいの治癒能力者なら、各地の神殿に腐るほどいるのが現状だ。
「わ、私は……『リンカーンの聖女』で……そして王子様と結婚して……」
ダリアは普段の可愛らしい姿からは考えられないほど、頭を抱えて目をギョロつかせている。
「私がヒロインなのにっ!何で……?」
「もういい。連れて行け!」
ロベルト様が片手を上げると、今までどこに隠れていたのか騎士達が飛び出してきてあっという間にダリアを拘束する。
ダリアは言葉にならない声を発しながら、騎士達に引きずられるようにして連れて行かれた。
「……実は、ラビットソン男爵がダリアを利用して良からぬことを企んでいると内通があり、一年前より今日のために秘密裏に証拠を集めていたのだ」
ダリアが去った後、ロベルト様は私とジャクリン様に向き合うと、優しい笑顔を浮かべる。
「ダリアに我々の心が自分にあると信じ込ませるため、君たちにも苦労をかけてしまった。……だが、私たちを邪魔する者はもういない!
ジャクリン、先ほどは婚約破棄を告げてしまったが、あれはダリアから言質を取るために必要なことだった。許してくれ。
先ほどの言葉は撤回する!卒業後は、予定通りに式を挙げよう」
そう言って、ロベルト様はこの胸に飛び込んで来いとばかりに両手を広げる。
「……アスティナ。長らく待たせて済まなかった。殿下が仰った通り、密命で詳しく事情を話すことができずに辛い思いをさせたね。
さあ、私たちの前にも障害はなくなった!これから、二人で幸せになろう!」
ラルフもまるで一年前に戻ったように、その目に愛しさを浮かべて私に手を差し出している。
チラリと隣を見ると、ジャクリン様は口元を手で押さえて美しいアクアマリンの瞳を揺らしている。
感激………しているのだろうか?
空気を読まなくて申し訳ないけど、私の心はもうずっと前から決まっている。
「エーベルハイト公爵令息様」
私は背筋を伸ばし、はっきりとした声で高らかに声を上げる。
普段の呼び方とは違う畏まった私の物言いに、ラルフは先ほどまで浮かべていた笑顔をスッと消す。
「私、アスティナ・ダストンは……先ほどの婚約破棄の件、謹んでお受けします!」
◇
私の突然の宣言に、会場が一気にどよめく。
ラルフは顔色をどんどん無くし、ロベルト様は慌てふためいている。
「ア、アスティナ嬢!先ほども説明した通り、婚約破棄はダリアを追い詰めるための手段だったのだ。だから、本当は婚約破棄などするつもりはない!」
「そうですか。それは大変喜ばしいことですね。私たちを苦しめることと引き換えに殿下達が得たものはさぞかし大きかったことでしょう!」
私がそう言い放つと、ロベルト様は黙って顔を青くしてしまった。
「今日は皆様で祝杯を挙げ、勝利の美酒に酔いしれてくださいませ。それでは、これ以上は私には関係のない事ですので失礼させていただきます」
厳しい淑女教育で身につけたカーテシーを優雅に披露し、私は踵を返す。
ジャクリン様は戸惑った様子で私を見ていたが、私はジャクリン様には声をかけなかった。
「ま、待って!アスティナ!」
ラルフが引き留める焦った声が響くが、それを無視して出口へ向かう。
バタバタと背後から走ってくる音が聞こえ、手首を掴まれる。
「アスティナ!」
仕方なく振り返ると、ラルフが腰まで伸ばし一つに結った白銀の美しい髪を振り乱し、息を切らせている。
「……婚約破棄など、本気じゃないよな?」
「……そもそもあなたがそう仰ったのでは?」
「あれは!ダリアを追い詰めるための演技だったと、殿下が仰っただろう?私の心はずっと君にある!」
「ええ、ですから……」
私は少しだけ深く呼吸をして、意識して背筋を伸ばす。
「私の心はとっくにあなたから離れてしまったと、そう申し上げているのです」
私がはっきりと言い切ると、ラルフはその翡翠の瞳に悲痛な色を浮かべる。
「一年待ってくれと、言っただろう?あれは一年後には結婚しようという意味だったんだ!」
「『一年待ってくれ』?あなたが手紙に書いたのは、『これから一年間近づくな』でしたわよ」
ラルフは自分の過ちに気づいたのか、サッと顔色を変える。
「……先ほどあなたは、私に『辛い思いをさせた』と仰っていましたが……。では、私がどれほどに辛い思いをしたか、具体的に想像したことはありまして?」
「………」
驚きすぎてなのか、ショックを受けてなのか、ラルフは目を伏せて押し黙っている。
「婚約者から捨てられたみっともない女だと嗤われ、蔑まれ……。時には恥ずかしげも無く婚約者の座に縋り付いているからと、あなたを想うご令嬢に手酷い仕打ちを受けたこともありましたわ」
そう言って私たちの会話を食い入るように見ている野次馬に目線を遣ると、数人の令嬢がバッと目を伏せ扇で顔を隠す。
「……どうせ婚約者から愛されていないのだからと、慰み者にしようと迫ってきたご令息もいらっしゃいましたわね」
さらに会場を見回すと、数人の令息がバツが悪そうに目を伏せている。
「実家の父や兄に婚約を破棄したいと相談しても、皆一様に『一年我慢しろ』と言うばかり。なぜ一年なのか、一年後に何があるかも知らぬまま、誰にも苦しい心の内を分かってもらえず絶望した時に、私の心は死んだのです」
「……それは、本当に申し訳ない。心から君に謝罪するし、これからそれを埋めるよう心を尽くしていくと誓う。だからどうか……」
「エーベルハイト公爵令息様。私たちは、家同士に決められた政略結婚の相手として婚約しましたね?もともと愛だの恋だのといった関係ではないのですから、私はあなたと信頼関係を築こうと、この8年努力してきたつもりです。
しかしこの一年で、私はあなたを信じることができなくなってしまいました。……そして、それはあなたも同じでしょう?あなたが私を信用していなかったからこそ、この一年私を謀ってきたのでしょうから」
「アスティナ!」
ラルフは縋るような表情で私を見ると、掴んでいた手を両手で包み、祈るように顔の前で握りしめる。
「君を謀ったのはこれが密命だから仕方なく……私の意志ではないんだ。この一年、ずっと心苦しく思ってきた!今日あのダリアを牢獄に追いやって、やっと愛する君と心置きなく結ばれることができると……そう思っていたのに」
はっ、と口から笑い声が出て、思わず口を手で押さえる。
ラルフは驚いたような顔で私を見つめている。
「密命ですって……。そもそも、この計画を秘密裏に行う必要がどこにありますの?」
「それは……私たちの心がダリアにあると思い込ませるために。それから……君たちがダリアのターゲットにならぬように……」
私はハァ、と深く溜息をつく。
「私とジャクリン様は高貴な家に嫁ぐために、幼い頃から厳しい教育を受けてまいりました。妃教育ほどでないにしろ、私も歴史ある公爵家に嫁ぐ者としてその心得を厳しく叩き込まれてきたのです。
そんな私たちが一年前にこの計画を知っていたとて、あなたたちの邪魔になる動きをするはずがありません。それほどまでにあなたは私を、私が受けてきた教育を信用していないのです」
ラルフが握った手が緩んだ隙をつき、私は手を引き抜く。
「私たちがダリア様のターゲットにならぬよう、と仰いましたか。果たしてそれで、私たちの苦しみは取り払われたでしょうか?答えは否です。私はこの一年、心が死ぬほどに苦しみました。
このような心で、あなたを再び信用することは金輪際ございません。公爵夫人としては相応しくありませんので、私は退場させていただきます。それでは、失礼いたします」
そう言い放つと、再び踵を返す。
「ア、アスティナ!君は……私を愛しているから、それほど苦しんだのではないの?」
背後から縋るような懇願するような声が聞こえ、私は少しだけ顔を後ろに向ける。
「ええ、愛していたのでしょう……。しかし、その愛はもう、完全に潰えました。それでは、ごきげんよう」
そう言って再び前を向き、私は会場の外へ出る。
待たせていた馬車に乗り込むと、振り返ることもなく会場を後にした。
ダストン家の屋敷に着くと、家令が少し驚いた顔で出迎えてくれる。
「お、お嬢様!随分とお早いお帰りで……」
「ええ、疲れたからもう休むわ。夕食もいらない」
そう言って肩にかけていたショールを家令に渡し、自室に行こうと階段を上がる。
バタバタと音を立てて、階段の上からお兄様が走って降りてくる。
「アスティナ!?なぜ……ラルフォンス殿はどうしたんだ?」
「ラルフォンス……?ああ、エーベルハイト公爵令息様から婚約破棄を申し立てられましたので、それをお受けしました。私は疲れましたからお先に休ませてもらいますね」
「はっ!?婚約破棄!?なぜ!!?」
お兄様が慌てて私の肩を掴み引き留めようとするが、私はもう疲れすぎてお兄様の相手をしている余裕が全くない。
「お兄様。私はもう疲れすぎて今にも倒れそうなのです。お話は明日でよろしいですか?」
「全然よろしくない!きちんと話を……アスティナ!」
次の瞬間、ふらりと身体が宙に浮く感覚がして……私は意識を失った。
◇◇◇
ふと目を覚ますと、今までに感じたことのない温もりに包まれていることに気がつく。
体を動かそうとするが、何かに拘束されて動けない。
意識がはっきりしてきた段階で顔を少し上げると、白銀の長い髪を無造作に垂らした美しい顔が視界に飛び込んでくる。
「……っ!エーベルハイト様……?」
驚いて飛び起きようとするが、ガッチリと腕に抱き込まれて動けない。
「アスティナ……起きた?」
ラルフは甘い声で囁くと、まるで愛しいものを慈しむような顔で見つめてきて、訳が分からない。
「あなたが何故ここに?ここは私の自室ですが……」
「うん……。昨日君を追いかけてダストン邸に来て、君が倒れたと聞いたんだ。義父上と義兄上に事情を説明して、部屋に通してもらった」
「倒れたなど……少し疲れただけです。あの、離していただけませんか?」
腕から身を捩ると、いきなり唇を塞がれる。
「ふっ……や、やめて!」
何とか顔を背けると、ラルフは少し悲しげな顔をして再び私を抱き込む。
「アスティナ。私は君を愛している。逃してやることはできないんだ」
「……それで?私を無理やり抱くために来たのですか?傷物になれば、あなたに嫁ぐしかなくなるから?」
私がそう言うと、ラルフの表情が驚きに変わる。
「どうぞ。お好きになさって。どうせ修道院に行く身ですから、傷物になろうが関係ありません」
「アスティナ!なぜそこまで……。どうして私を拒むんだ?一年前まで、確かに私たちは愛し合っていたじゃないか」
私はハァ、と溜息をつく。
「昨日ご説明差し上げたではありませんか。私の心は既にあなたから離れていると。こんな事をされても、微塵も嬉しくありません。むしろ不快です」
絶望したような表情でラルフが腕の力を緩めた隙に、私はベッドから抜け出る。
「……そういえば。昨日の卒業パーティーで、ジャクリン様は殿下から贈られたドレスを着ていらっしゃいましたね」
私はそう言って、無言で横たわるラルフに向かって一礼すると、夜着のまま部屋の外に出る。
「……!お嬢様、そのような格好で!」
私の姿に気づいた侍女が慌てて寄ってきたので、侍女にお願いして自室とは別の部屋で身なりを整える。
それから、お父様とお兄様が朝食を取っているだろうダイニングに向かう。
「!?アスティナ?どうしてここに……」
「ラルフォンス殿はどうした?」
ダイニングに現れた私を見ると、お父様とお兄様は慌てて立ち上がり疑問を口にする。
お母様は何も言わず、心配そうに私を見つめている。
「エーベルハイト公爵令息様を勝手に私の部屋にお通ししたのは、お父様とお兄様ですわね?どういうおつもりですか?既成事実でも作れと仰ったのですか?」
「アスティナ……何を……?」
私の怒気を孕んだ表情を見て、お父様とお兄様は少したじろぐ。
「私は何度も何度もお父様にエーベルハイト公爵令息様との婚約解消をお願いしてまいりました。それなのに、勝手に部屋に上げるなど……。こんなにも私のことを蔑ろにされるとは思ってもみませんでした」
思わず、涙が頰を伝う。
お兄様は私の涙を見て、ヒュッと喉を鳴らす。
「アスティナよ。この一年の誤解は昨日、解けたのではなかったか?ラルフォンス殿は、お前をずっと想っているのだぞ?」
「そんなことは私の知ったことではありません。この一年、何度説明をお願いしても何も仰ってくれなかったのはお父様も同じではありませんか」
私は涙が止まらぬまま、お父様を睨みつける。
「それは密命だと言われ、仕方なく……」
「仕方ないと言えば、私の辛く悲しい一年は跡形もなく消え去るのですか?密命ならば、相手の心を繋ぎ止める努力は怠っても良いと?」
私がそう訴えると、お父様は口を噤む。
「……私が貴族として生まれた責任のためにエーベルハイト家に嫁げと仰るのならば、私はこの身分を捨てます。今すぐ、私を除籍してください」
「なっ!何を言うんだ、アスティナ!そんなこと出来るわけなかろう!」
「お父様が何と仰ろうと、私はこれ以上この家にいたくはありません。お父様もお兄様も、私を騙すことを正義として私の苦しみを一切理解しようとはしてくださらなかった。もう信用できないのです。
もちろん育てていただいた恩はありますので、これからはあなた方には一切迷惑を掛けぬよう日陰で生きていきます」
最大限気を遣ってカーテシーをすると、私はダイニングを出て行く。
後ろから引き止める声が聞こえたが、そんなものは無視して歩いていく。
私は侍女に指示して事前に用意していた小さな鞄を持つと、馬車に乗り込んだ。
◇
街に着いたところで伯爵家の馬車を降り、辻馬車に乗り換える。
辻馬車には複数人が乗り合っており、一人、また一人と降りて、目的地の修道院に着く頃には客は私一人になっていた。
辿り着いたのはリンカーン修道院───あの、ダリアが過ごしていたという修道院だ。
何でこの修道院に来たかというと、そんなに大した理由はない。
聖騎士が常駐していて警備がしっかりしているのと、王都から比較的近いので、もし追手がかかったとしても捕まる前にすぐに入れると思ったためだ。
ダリアに対して思うことは別にない。
あるのは、ラルフや家族に対する信頼を裏切られたという失望だけだから。
修道院の門で見張りをしている聖騎士に声をかけると、聖騎士は丁寧に院長室まで案内してくれるという。
院長室に着くまでの間、聖騎士は院内を紹介してくれた。
門の見張り番なので全身を覆う甲冑を着ていて容貌は見えないが、やけに親切な人だな、と思った。
院長室の前に着くと、聖騎士は扉をノックして中まで通してくれる。
そこで案内は終わるかと思ったが、聖騎士は中に入って話が終わるのを待つようだ。
私のような貴族の子女が修道院に来たからといって、途中で帰りたくなるだろうから帰りの案内をするつもりなのだろう。
「それで……アスティナ、さん?どうしてこちらにいらしたの?」
院長はお母様ほどの歳の頃に見える優しげなお顔の女性で、非常に柔らかな物腰をしている。
私は院長にこの一年のこと、昨日の出来事、もう信頼できる人が周りにいないため修道女として神に心を捧げて生きていきたいことを話した。
「……そう。分かりました。それでは、今日からここはあなたの家です。さっそくお部屋に案内しましょうね」
私の話を否定するでも肯定するでもなく、院長は優しい笑顔で立ち上がると、自ら部屋へと案内してくれる。
院長室を出た私たちの後ろから、相変わらず聖騎士が付いてくる。
「この部屋を、自由に使ってください。とりあえず今日は移動で疲れているでしょうから、ゆっくりお休みなさい。明日また、別の修道女がここの生活について説明に来ますからね」
通された部屋は簡素なベッド、小さなクローゼットと小さなテーブルと椅子が置かれただけでいっぱいいっぱいの狭い部屋だった。
心が空っぽになってしまった私には丁度いい大きさの部屋だと思った。
「はい、突然来たにも関わらず部屋まで与えてくださってありがとうございます」
私が丁寧にお辞儀をすると、院長はニコリと笑って部屋を後にする。
後ろを付いてきた聖騎士は少しの間私の方に体を向けたが、何も言葉を発さずに部屋を出て行った。
部屋に一人になった後、持参した鞄をベッドに置いて開く。
鞄には下着が数枚とシンプルな灰色無地のワンピース、刺繍のための裁縫道具と、修道院に寄付するための宝石がいくつか入っている。
服類を片付けるためにクローゼットを開けると、扉の内側にちょうど顔が見える位置に鏡がついている。
私は裁縫道具の中から裁ち鋏を取り出し、クローゼットの鏡を見ながら腰ほどまで伸ばした青みがかった銀髪を握りしめると、肩上辺りでバッサリと切り落とした。
貴族令嬢だったアスティナは、もう居ない。
◇◇◇
どれくらい時間が経ったか、部屋の扉が叩かれる。
扉から顔を出したのは修道服に身を包んだ、栗毛で私より少し年上の女性だった。
女性は私の顔を見て少し驚いた顔をすると、扉を閉めて部屋の中に入ってくる。
「……髪の毛、整えてあげましょうか?」
そう言って女性はフワリと微笑んだ。
女性に背を向けて椅子に座り、女性はその後ろに立って器用に髪を整えてくれる。
髪を整えながら話をする中で、その女性はエイミーと名乗った。
「はい、出来ました!……あ、そうだ。私、夕食の時間だからあなたを呼びに来たんだったわ」
「ありがとうございます」
「今日来たばかりだから勝手が分からないでしょう?一緒に夕食を取りましょう」
エイミーはそう言うと、私を食堂へ案内する。
食堂では何人かの修道女と、聖騎士が別々のテーブルで食事を取っている。
トレーの上に硬いパンとシチューの器を置いて、修道女達が座っている席に座る。
もちろん貴族なので生まれた頃から豪華な料理を食べて育ったわけだが、この一年の心労ですっかり食欲は落ち、ほとんど何も食べない日もあった。
なので、これくらいの食事量がちょうど良いと思った。
エイミーと食事を終え、自室に戻る。
ベッドに入り、今日までの出来事を思い返してみる。
卒業後すぐに婚約を解消して修道院に来ることは3ヶ月前から計画していたことだった。
その時にはもう私の貴族令嬢としての矜持はズタズタに引き裂かれており、ラルフォンスの妻として生きていく未来は全く想像できなくなっていた。
その頃から暇があれば聖典を読み、心を神に捧げる日々だけを救いにして地獄の日々を乗り越えてきたのである。
まさかあんな風に衆人の前で婚約破棄を宣言されるとは思わなかったけれど、今から考えると都合が良かったのかもしれない。
これで、やっと解放される───。
その充足感と安心感を感じながら私は目を閉じた。
◇◇◇
次の日は朝から修道院での仕事を教えてもらう予定だったが、予想より早く私に来客が訪れる。
「……アスティナ」
修道院の面会室に入ると憔悴した様子の父と兄がソファに座っており、私の姿を見るなり驚愕した顔で立ち上がる。
「お前……その髪……」
兄は苦々しそうに顔を歪めている。
貴族令嬢として、髪が短いのは致命的だ。
「アスティナ……本当に申し訳なかった。お前がそこまで思い詰めていたとは思わなかったのだ……」
父ががっくりと項垂れるように頭を下げる。
「どうせ一年待てば誤解が解けるからと、安易に考えていた。学園でお前が辛い立場だったなど、何一つ知らなかったんだ。私たちも………ラルフォンス殿も、この一年アスティナを顧みなかったこと、心から反省している。どうか戻ってきてくれないか?」
言葉を紡げない父に代わり兄が用件を述べているが、ここまで来ても全く私が伝えたかったことが伝わっていないことを悲しく思った。
「お父様、お兄様。私はダストン家に生まれてお2人から愛されて育ったと思います。本当ならば育ててもらった恩を返すのが筋。ただ、私は貴族として生きていくには心が弱すぎたのです。あの一年で私の心は完全に壊れました。もう死んだことにしてもらって構いません。どうか私のことは捨て置いてください」
「……そんなに意地を張るな。貴族として蝶よ花よと育ってきたお前が修道院で生きていけるわけはないだろう。戻ってくれば、公爵夫人として何不自由なく生きていけるんだ。どうしてそんなに頑ななんだ?」
兄が少し苛ついたように声を低くする。
「……そう思われるならそれで構いません。私がここで生きていけようがいけまいが、ダストン家にご迷惑はかけないとお約束します。それでは、これで失礼いたします」
もう死んだことにしてくれ、とまで言ったのに何も伝わらないとは。
虚しい気持ちを堪えて私は立ち上がる。
恐らく、これが今生の別れだ。
もう私への面会は全て断ってもらうことにしよう。
「待て!アスティナ!」
背後から立ち上がる音と引き留める声がするが、振り返らずに面会室を出る。
外では院長が神妙な面持ちで待っていた。
恐らく、私が家族について帰ると思っていたのだろう。
「申し訳ありません。少し遅くなってしまいましたが、今からここでの生活を教えていただけますでしょうか?」
「……ええ。すぐに案内させますね」
思うことは色々あっただろうけど、院長は何も言わずに私を受け入れてくださった。
たったそれだけのことで、いくらか心が軽くなった。
◇◇◇
修道院での生活は、朝早くから神に祈り、掃除洗濯など各々に割り振られた仕事をこなし、それ以外の時間は刺繍をしたり本を読んだり自分の心安らぐことをする、その日々の繰り返しだった。
リンカーン修道院に来て半年ほど経った頃、季節はまた冬を迎えようとしている。
私はよく晴れた空の下、大きなタライに水を入れてシーツを洗っている。
仕事を割り振られた時、一番人気がないという洗濯係を志願した。
貴族令嬢として常にピカピカに磨かれていた指先は、すっかり赤切れやささくれができて爪も割れている。
でも私はこの洗濯という行為が好きだ。
石鹸で汚れを落とし、シーツを真っ白に洗い上げるたびに心の錆が少しずつ落ちていくような気がした。
「今日はいい天気ですね」
声をかけられ、振り返る。
「ええ、シーツが早く乾きそうです」
私は向こう側から歩いてくる鈍色の髪の聖騎士に返事をする。
この方はハーディン卿といって、私がこの修道院に来た日に院内を案内してくれた甲冑の聖騎士だ。
どこからどう見ても貴族令嬢の私がたった一人で修道院に来たのを心配して、あれから時々声をかけてくださる。
「昨日も面会に来ていましたよ。……お会いにならなくても良いのですか?」
「……この半年でだいぶ頻度も減りました。そのうち諦めていただけるでしょう」
修道院に来た次の日に父と兄に面会して以来、私は一切の面会を拒否している。
父と兄はもちろん、母やラルフ、ひいては第二王子のロベルト様まで私に面会したいと訪れたが、全てお断りした。
それならばと手紙を渡されるが、それも読んでいないし返事もしていない。
教会と王室は一線を画して互いに独立しているため、ここにいれば例え王命でも私の意志に反して無理やり従わされることはない。
「あなたは家族にとても愛されているように見える。今話せば分かり合えるのではないですか?」
「分かり合えるはずもありません。あちらは貴族として生きるのが一番幸せだと思っている。でも私はそうは思わない。分かり合えないのならば、もういないものとして扱ってもらった方がいいのです」
「……あなたが後悔しないのならば良いのですが」
ハーディン卿はその榛色の瞳を柔らかく細めた。
「ありがとうございます、ハーディン卿」
私は丁寧にお礼を申し上げて、空になった籠を抱えて足早に院内へ戻る。
この修道院には様々な事情で修道女になった女性が20名ほどいる。
その中には元貴族の令嬢で何か瑕疵を負ってここに入れられた者、孤児出身の平民で行く当てのない者などがいるが、いずれにしても深い信仰心のために修道女になった人というのは案外少ない。
そしてこの修道院には複数の聖騎士が常駐しているものだから、聖騎士と結婚して修道院を出たいと考える女性が多いのは致し方ないことだろう。
もともと騎士というのは結婚相手として令嬢から人気が高い。
中でも見目が麗しかったり家柄の良い騎士に人気が集まるのは、貴族令嬢でも修道女でも同じこと。
その筆頭が先ほど話しかけられたハーディン卿。
見目麗しい彼は人気が高く、彼の妻となってここから出たいと目論む修道女が多いらしい。
そんな中、彼が私に声をかけているのを目の当たりにすれば、彼に懸想している女性からすれば面白くないのは当たり前だ。
少し前までハーディン卿がそんなに人気だと知らずに彼に接していたため、他の修道女からかなりのやっかみや嫌がらせを受けてしまった。
なので今では極力彼とは顔を合わせないよう、合わせたとしても極力会話を短く切り上げるよう心がけている。
そんな私の苦労を知ってか知らずか、ハーディン卿は先ほどのように手が離せない作業中に話しかけてくるようになった。
こんな所を誰かに見られては大変面倒なことになると、私は内心焦りながらも作業を手早く終える術を身に付けた。
籠を洗濯室に戻し、時計を確認する。
ハーディン卿のおかげで仕事が捗り、まだお昼には早い時間。
私は自室に戻らずに聖堂に入り、一番前の長椅子の壁際に座る。
朝のお祈りは終わったが、昼餉までは神に祈りを捧げよう。
私は前方に鎮座している女神像に向かって胸の前に手を組み、そっと目を閉じる。
聖堂はいつ来ても空気が澄んでいるように感じる。
誰もいない聖堂はとても静かで、じっと祈りを捧げていると自然と自分の呼吸音や心臓の音に意識が集中し、生きていることを実感できる。
永遠にも一瞬にも感じる時間が経ち、私はゆっくり目を開ける。
目の前には聖堂のステンドグラスから漏れる光に照らされて、一人の聖騎士が立っている。
まるで女神に祝福されたような神々しい姿に暫し目を奪われると、彼はゆっくり私の方に近づいてくる。
「………ハーディン卿。いつからそこに?」
「……先ほどです。聖堂に入ったはいいものの、あなたがあまりに熱心に祈っていらしたので、お邪魔をしてはいけないと静かにしておりました」
「そうですか。では、私はこれで……」
長椅子から立ちあがろうとすると、目の前に立ち背もたれを掴まれて逃げ道を塞がれる。
「……?……あの?」
「アスティナ様。……避けないでください」
私を見下ろす榛色の瞳はゆらゆら揺れている。
ハーディン卿は私の前に跪くと、私の手を取る。
「私の話を聞いてくださいませんか」
本当は誰かに見られる前に一刻も早くここを去りたいのだけど、ハーディン卿の懇願するような眼差しを受けてしまうとそれを無下にすることはできない。
「……はい。何でしょう」
「ありがとうございます。……あなたが私を避けていることは分かっています。しかし、私に機会を頂けませんか?」
「……機会とは?」
「あなたの心を得る機会です」
私はハーディン卿が何を言っているのかが理解できず、はくはくと口を動かしたが言葉が出てこない。
「今まで、私は遠慮をしていました。あなたはいつか自分がいるべき場所に帰ってしまうと思って……。しかしあなたに避けられるようになって、はっきりと自分の気持ちを自覚しました。私はあなたに心を寄せています。なので、あなたのことを知り、私のことを知ってもらう機会を得たい」
「ハーディン卿……」
真っ直ぐに私を見上げる榛色の瞳を、まともに見ることができない。
彼と出会って半年ほど、そんなに思いを寄せられるほど関わりもないはず。
ならば、私と繋がりを得ることで何か利益があるとか?
「私は貴族の身分を捨てたいと思っているのです。私と繋がりを得ても、あなたには何の得もありません」
私がそう言うと、榛の瞳が哀しげに揺れる。
「私の望みは、あなたと共に生きることです。それ以外は何も望みません」
しっかりと手を握られ、ハーディン卿の熱が伝わってくる。
ハーディン卿は私の何を見てこのようなことを仰るのだろう?
婚約破棄劇までの一年で、自尊心が限界まで擦り切れてしまった私はハーディン卿の言葉を素直に受け取ることができない。
「ハーディン卿……。私が……ここに来るに至った出来事をご存知でしょう?」
ハーディン卿は私がここに来た日、院長に事情を説明した場に同席していた。
「………ええ。婚約破棄の件ですね」
「恐らく実家はまだ私を除籍していないし、婚約も破棄していないでしょう。私はここを出た瞬間に捕まって連れ戻されてしまいます」
「……なるほど。それでは、あなたが『貴族籍を抜け』られて無事に『婚約破棄』がなされたなら、憂いなく私との未来を考えていただけますか?」
ハーディン卿を完全には信用できないが、なぜか無下にしてはいけない気がして、私はその榛の瞳を暫し見つめる。
「……お約束はできませんが、前向きには考えます」
そう答えると、ハーディン卿は微かに笑顔を浮かべる。
「それで十分です。機会をくださってありがとうございます」
ハーディン卿は私の手の甲に唇を寄せると、もう逃がさないとばかりにその手をぎゅっと握りしめた。
◇
「まあ……酷い」
庭に干したシーツを取りに戻ると、シーツは全て地面に落とされ、何者かに踏みつけられていた。
足形の大きさからして、女性の仕業だろう。
一人ではなく複数人かもしれない。
私はふーっと息を吐いて落ちたシーツを拾い集め、再びタライに水を張って洗い始める。
まだ日は沈んでいないが夕方に近づいた外の空気は冷たく、私は悴んだ指先を息で温めながら一枚一枚丁寧に洗う。
「アスティナ?……何てことなの」
たまたま通りかかったエイミーが踏みつけられたシーツを見て絶句して、すぐに私の作業を手伝ってくれる。
「きっとカトリーヌたちの仕業ね。さっき何か悪そうな顔で笑っていたもの」
「ハーディン卿と一緒にいるところを見られたのかしら?」
「さあ……。ハーディン卿のことがなくても、あの子たちはずっとアスティナに嫉妬していたのよ。あなたがとっても綺麗だから」
嫌がらせはもちろん辛いけど、自分のことのように怒り、当たり前のように手助けしてくれるエイミーを見て心が温かくなる。
エイミーが差し伸べてくれる手は、私があの一年ずっと求めていたものだったから………。
◇◇◇
その日は意外な人からの面会要請があった。
ジャクリン・ジョースター………ロベルト様と結婚をしたばかりの、ジャクリン様だった。
「お久しぶりですわね。アスティナ様」
「ええ、お久しぶりです。ジャクリン様……妃殿下はご結婚誠におめでとうございます」
私がそう言うと、ジャクリン様は困ったように眉尻を下げて微笑む。
「……ありがとうございます。その……アスティナ様は……」
ジャクリン様は私の顔をチラッと見て言い淀む。
何が言いたいかは大体察するが、私は何も言わずに黙ってジャクリン様から発される言葉を待つ。
「やはり……ダストン家には戻られないのですか?……ラルフォンス様もお待ちになっておられますよ」
ジャクリン様が発した言葉に若干の落胆を覚えつつ、しかししっかりとジャクリン様を見据える。
「……私はダストン家に戻ることも、エーベルハイト様と結婚することも全く望んでおりません。それから逃れるために、修道院へ来たのですから。でも、これはあくまでも私の選択です。ジャクリン妃殿下の選択を否定するものではありません。私に負い目を感じる必要はないのですよ。妃殿下はご自分の選択を信じて、どうか幸せになってください」
私の言葉を聞いて、ジャクリン様はお顔を歪め、やがて涙を流す。
私とジャクリン様は学生時代に同じ辛酸を舐めたけれど、その後の人生の選択は大きく違ってしまった。
それでジャクリン様の中で、私を裏切ってしまったような負い目を感じていたのだろう。
だがジャクリン様は勘違いされている。
ジャクリン様は元公爵令嬢で、私はただの伯爵令嬢。
彼女と私の経験は全く同じではないということを。
「私がここにいることは、私が望んだことだということをご理解ください。……恐らくもうお会いすることはないでしょうが、遠くから妃殿下の幸せを願っております」
ジャクリン様との面会を終えた後、私の心は不思議と晴れ晴れとしていた。
最後にジャクリン様に挨拶できなかったこと、それから彼女の選択を祝福できなかったことが、心のどこかで後悔として残っていたのだと思う。
これで、私の貴族としての人生に本当に未練はなくなった。
◇
それから1ヶ月ほど経った後、私は院長に呼ばれて院長室へと向かった。
院長は私がソファに座るなり一枚の紙を差し出す。
「……今朝ダストン伯爵様が訪ねて来られて、この紙をあなたに渡して欲しいと。……面会は叶わないだろうからと」
私は渡された紙を受け取り、目を通して瞠目する。
「……除籍通知書………」
それは私がダストン伯爵家から除籍されたということを知らせる通知書だった。
貴族であること、公爵家に嫁ぐことこそが私の幸せと盲目的に信じていたあの父や兄が、私の除籍をこんなに早く認めてくれるなんて……。
「すまなかったと……仰っていましたよ。除籍はしても、あなたはずっと私の娘だから何かあれば頼ってくれとも」
除籍がなされたということは、ラルフとの婚約も破棄されたということ。
もしかしたら伯爵家は公爵家に何らかの賠償を負ったかもしれない。
微かな罪悪感を覚えはするが、それよりも全ての柵から解放された安堵の方が勝ってしまう。
「そうですか……ありがとうございます」
私の安堵した様子を見たからか、院長の表情がふっと緩む。
「これであなたの憂いは取り除かれましたか?……あなたはまだ若いですから、自分のための人生についてよく考えてみたら良いと思います。もちろんここに居たいと言うのでしたら居ていただいて構いませんよ」
私の………人生。
一度は神に捧げると決めた私の人生。
自分の我儘で身分を捨てた今、何かを望む資格なんてあるんだろうか?
そんなことを考えていると、ふとハーディン卿の顔が頭を過ぎった。
その日の午後、私が洗濯物を取り込んでいると、どこからともなくハーディン卿が現れる。
「……お聞きになったのですか?」
私が問いかけると、ハーディン卿は少し逡巡した後、静かに首肯する。
「……先日、ジャクリン妃殿下があなたを訪ねていらしたとき……不躾ですが、お願い申し上げたのです」
ハーディン卿が話し出した内容に、私は驚きで目を瞠った。
「アスティナ様の幸せを願うのでしたら、除籍するよう伯爵家に進言して欲しいと」
あの父と兄がこんなに早く除籍を認めてくれたのは私にとっても想定外の出来事だった。
認めてもらうまで、何十年でも待つ心づもりだったのに……。
まさか、ハーディン卿がジャクリン様にそんなお願いをしていただなんて。
「……ご迷惑だったでしょうか?」
「いえ……それが私の唯一の望みでしたので。ただ……ハーディン卿がそれを叶えてくださるとは思っていなかったので」
私が目を泳がせると、いつの間にかすぐ側まで来ていたハーディン卿が手を伸ばし私の頰に指を触れる。
「あなたの幸せが私の幸せです。私はあなたを裏切りません……アスティナ様」
なぜ、どうしてそこまで?と思うけれど、その榛色の瞳に見つめられるとその言葉が喉から出てくることはなかった。
◇
それから3ヶ月ほど経ち、新しい年を迎えてしばらく経った頃、カトリーヌが修道院を去った。
詳しい事情は知らないが、どうやら修道院の規律を破って院内で密通を働いたという。
それまで度々嫌がらせを受けていたのが、カトリーヌが去ってからピタッと止んだ。
嫌がらせの首謀者はやはり彼女だったようだ。
「カトリーヌの密通を告発したのはハーディン卿だそうよ」
食事中に、エイミーが私だけに聞こえる声の大きさで話しかけてくる。
「ここに食料品を運んでくれる商店の青年を、部屋に連れ込んでいたらしいわ」
「まあ……そうなの?」
カトリーヌはハーディン卿のことが好きなんだと思っていたけど……男性なら誰でも良かったのかしら。
「カトリーヌは何としても修道院から出たかったみたいだけどね。密通相手の男性から身柄の引き取りを拒否されて、規律の厳しい北部の修道院に送られたそうよ」
北部の修道院は犯罪に近いことを犯した女性が送られるところだと聞く。
犯罪者ではないため囚人とまではいかないけれど、それに近い生活を送ることになるのだろう。
「そこまでして俗世に戻りたかったのに、より厳しいところへ送られるなんて……何の因果かしらね」
「自業自得よ。今まで人にしてきた仕打ちが自分に返ってきただけ。……それでアスティナは、これからどうするの?」
私はエイミーが何を聞きたいのかが分からず、エイミーの顔を見つめる。
「……ハーディン卿のことよ」
「……どうして彼が出てくるの?」
今度は逆にエイミーが不思議そうな顔で私を見つめ返す。
「どうしてって……ハーディン卿があなたを想っていることは見てたら分かるもの。カトリーヌを告発したのも、あなたを守るために違いないわ。ハーディン卿はそう言わないかもしれないけどね」
私は動揺して思い切り目を泳がせる。
まさかエイミーにそんなことを言われるとは思っていなかったから。
「私の目から見てもハーディン卿は誠実な方よ。……それにあなたを大事に想ってる。あなたはどうなの?ハーディン卿のこと、どう思ってるの?」
「……ハーディン卿はとても良い方よ。でも……私は過去の体験からあまり人を信用できなくなっていて。……信頼して、裏切られるのが怖いのよ」
「ああ……それが、あなたが修道院に来た理由?」
私は静かに頷く。
「……私はね。孤児として生まれて、孤児院を出てからはいろんな仕事をして生計を立てていたのだけど。悪い男に騙されて、知らぬ間に犯罪に加担させられて警備隊に捕まったの。何も知らなかったから罪には問われなかったけど、自分で希望して修道院に来た」
エイミーの出自を聞いて、私は俯く。
エイミーのような人生を歩んできた人から見ると、私はとても甘えた人間のように思えるだろう。
「ここに来た時はね、もう誰も信用するかー!って思ってたのよ?……でもね。ここに来て色んな人に会って、今まで私が出会ったのって世の中のほんの一握りの人間だって気づいたの」
エイミーは私の目を見てニコッと笑う。
「世の中には良い人もいれば悪い人もいる。それは当たり前のことでしょ?……まずは信じてみて、裏切られたらまた離れれば良いじゃない。それを繰り返すことで、真に人を見る目が養われるのだと思うわ。
あなたはこれから平民として生きるんでしょ?じゃあ、平民の先輩として一つ格言を教えてあげる。『死ぬこと以外はかすり傷』!死にさえしなければ何度だってやり直せるわ!」
そう言って笑った彼女を見て、眩しいな、と思った。
私は恵まれた出自だけど、一度の失敗が命取りだと何度も言い聞かせられて育った。
実際、貴族というのはそういうものだ。
だから失敗したらまたやり直せば良いという単純なことにも気付けなかった。
「信じて……みたいわ。もう一度。また裏切られたら……ううん、裏切られても何度だってやり直せば良いのよね」
「あはっ。アスティナ、今すごく良い顔してる!……あなたみたいに芯が一本通っている人なら大丈夫。騙され裏切られたとしても、きっと道を踏み外すことはないわ」
エイミーとの会話は、今まで全てを諦めていた私に『未来』という言葉を思い出させてくれた。
◇◇◇
「私は元々隣国の貴族家の出身なのです。しかし産みの母は私を産んだ後、衰弱した身体を回復させることができずに儚くなりました。父はすぐに後妻を娶り……それからあの家に私の居場所はなくなりました」
ある日、洗濯を干し終えたばかりの裏庭でハーディン卿は私に彼の過去の話を始めた。
「義母は異母弟を産むと、異母弟に家を継がせるために私を殺す計画を立て始めました。父は実家の権力が強い義母に逆らうことができませんでしたが、私のことを何とか守ろうとしてくれました。しかし段々と義母の攻撃が過激化し、父は私をこの国に逃すことに決めたのです。……そうしてこの国の商家であるハーディン家に匿ってもらい、17の頃に身を立てるために聖騎士となりました」
私は話を聞きながら、ハーディン卿の榛色の瞳をじっと見つめる。
「……大変な幼少期を送られたのですね」
「まあ、幸せだったとは言えませんね」
ハーディン卿は寂しげに睫毛を伏せる。
以前、ハーディン卿に「家族と和解できるのでは」と言われたことがあった。
家族と分かり合えなかった彼の生い立ちから、そういう言葉が出たのかもしれないと思った。
「私は地に足がついていなかったのです。この国で生きていくという決心がつかず、隣国で私を脅かした者に復讐したいという想いを捨てられなかった。……しかしここであなたと出会い、あなたが自分で生きる道を決めようとする強い意志を見て、強く憧れました」
ハーディン卿が私に心を寄せていると言ってくれたのは、そういう経緯があったのだと初めて知った。
「あなたと共に生きられるなら……私はこの国で小さな幸せを見つけながら、心穏やかな生活を送りたいと思います。貴族のような贅沢はさせてあげられませんが……私と共に生きてくれませんか?」
二度目の告白。
ハーディン卿は一度目に想いを告げてくれてから、私に答えを急かすことはしなかった。
それどころか私のために家門からの除籍を進めてくれ、私が嫌がらせを受けていた問題を解決してくれた。
彼が私の幸せを考えて動いてくれたのは間違いない。
これから彼と共に生きたとして、彼が私を裏切らないかどうかは分からない。
だけど、これから絶対に裏切らない人を判別することなどそもそも不可能なのだ。
それならば。
この瞬間だけでも信じられると感じたならば。
信じてみても良いんじゃないか?
私はそう考えて、再びハーディン卿の榛色の瞳を見つめる。
「……はい。お受けします」
「ありがとうございます……!必ず、幸せにします」
ハーディン卿の頰が赤く染まっている。
私は初めて、いつも冷静なハーディン卿が感情を露わにする姿を見た。
◇
それから私たちは2人で院長のもとを訪ね、婚姻のための還俗の申し出をした。
通常、修道院に入った者が還俗するためには身元保証人の同意が必要なのだが、聖騎士と婚姻する場合にはその限りでない。
私たちの申し出に、院長は大変喜んでくださった。
そしてそれから2ヶ月後、私はハーディン卿と共に修道院を出た。
ハーディン卿は王都から少し離れた街に小ぢんまりとした家を用意してくれていた。
この街に向かう途中に立ち寄った教会で、婚姻届を提出した。
貴族の婚姻には王室の許可が必要だが、平民の婚姻は教会に届を提出するだけで成立する。
夫であるハーディン卿が聖騎士だったため、教会の神官が神前で祝いの言葉をくださった。
私たちは神の御前で、夫婦の誓いを交わした。
「私のことはノエルと呼んでください。……あなたの前では聖騎士ではなく、夫でいたいので」
「分かりました。私のことはアスティナと呼んでください。……これからよろしくお願いしますね、ノエル」
夫となったノエルと、女神像の前で誓いの口付けを交わす。
私はこうして新たな人生を歩み始めたのであった。
〜 完 〜
〜作者の一言〜
実はヒロインに黙ってヒーローが裏で動いてました系の話が何かモヤるなぁと常々感じていて、思いついた話です。
これはこれでモヤる方もいるでしょうが、お許しくださいませ。
続編はアスティナとノエルの話になります。
第二話は現在執筆中なので近日中に上げられるよう頑張ります!
11/18日間総合ランキング8位 ありがとうございます♡
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続編は不定期更新。
恐らく3〜4話で完結。