救いの手は狐の少女?!
中学2年生の14歳が書いています。
何かと至らない点があると思いますが読んでもらえると嬉しいです。
狐少女はその華奢な腕で葵をお姫様抱っこ状態にして、悠然と宙に浮かんでいる。
物理的に不可能すぎて怖い。
一体何が起こっているのだろうか。
もしや一旦命を落として天国にいる、いや、もしかしたら未練があって成仏できず幽霊と化した後なのか、または自分は幻覚を見ているのか、何なのかという危うげな思考回路になりかける。
恐らくあと15秒このままであれば、葵は精神を錯乱させていただろう。
しかし、葵が宙に浮いていたのは正確には10秒ほど、体感時間は小一時間ほどといったところで、狐少女は、こっちの世界にはあんな危ないものないのになー、とぼやきながらゆっくりと降下し、葵をそっと地面におろした。
「大丈夫ー?」
狐少女はそっと、腰が抜け、アスファルトに座り込んだ葵を覗き込む。
いや、無理。
そう言いたいのに声が出なかった。
「あのボーソー車からは助けたから、もうダイジョーブだよっ」
「あ、はは……
あ、ありがとう、ございます……?」
異世界トリップ並みの衝撃体験の後ではまともに喋ることも出来なくなるらしい。
葵は意図せずこの心身を削って得た哲学じみた何かを噛み締めた。
「オネーさん、ダイジョーブじゃなさそーだね?
お家まで歩ける?さっきみたいにまたブワーってやってお家まで飛んでく?」
「えっ、えっ、ええぇぇ、か、帰れまふっ!立てまふ、立てますっ!」
「わわわ、そんなに勢いよくバーン!って立たなくても……」
顔を真っ青にしながら慌てて立ち上がる葵に狐少女は少し驚く。
「え、えっと、助けてくれて、ありがとうございました…?」
何があったのかをよく理解できていないため自然と疑問形になってしまったが狐少女にお礼を伝える。
「ふふふっ、くるしゅーない!なのだ!」
狐少女は腰に手を当て胸を張る。
覚えたての言葉なのだろうか。
イントネーションや使い所が微妙に違う気がするが、自信満々な様子なので何も突っ込まないでおく。
この狐少女は迷子なんじゃないだろうかという不安こそあったが、家の方向へと再び歩き出そうとしたその瞬間だ。
ふと、葵は大切なものがないことに気付く。
葵は思わず立ち止まって周囲をきょろきょろと見回した。
「……?どーしたの?」
狐少女が、それに気付き声をかけた。
「あっ、えっと、稲荷ぐるみどこ行っちゃったんだろうなぁってって思って……」
命には変えられないのだが、ぬいぐるみ好きな葵にとってはぬいぐるみが自分の行方不明になっているのは心が痛かった。
少しだけ周辺を探そうかなと思った刹那、
「あああああああ!」
と大きな声が響く。
肩をビクっと震わせた葵に狐少女は叫んだ。
「どーしよ、渚兄とのお約束破っちゃった、どうしようっ、…」
先程の葵のように顔を真っ青にしながら慌てふためく狐少女に葵は動揺することしか出来ない。
「え、えーっと……?」
「ヤバい、ヤバい、ヤバイ、……」
葵の声は届かず、なおも慌てふためきドタバタしている狐少女とゆっくりと目が合う。
目が合い、一瞬の瞬きの間。
ポン、と軽い音がして、狐少女が姿を消す。
代わりにそこには、葵が先程まで抱いていた稲荷ぐるみがある。
「えっ」
稲荷ぐるみが僅かに動く。
葵は何がなんだか分からなくなる。
まさかだ。そんなわけがない、はずだが、この稲荷ぐるみがあの狐少女の変身した姿………?
葵は混乱して挙動不審になりながらも、稲荷ぐるみを拾い上げ、再び家へと向かい、走りだした。
……半分、パニック状態になりながら。