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リメイク第一章 異世界の闇

 「今、なんて言った?殺される?」


 こく・・・


 ぞわっ・・・この頷く動作を見ただけで背筋が凍るかと思った。さっきの街の様子・・・まさか、この街そのものがこの子をいじめてる?


 いじめってのは集団心理の働き具合で内容が全然変わる。1人によるいじめなら逃げ道は比較的簡単に見つけられる。でもそれが2人以上になってくると途端に逃げ道は一気に減って、いじめのレベルは10倍くらいに跳ね上がる。


 この子の場合はほぼ街ぐるみ・・・そしてここは国境の街、一番戦争の危険がある街だ。そんな人たちがここでこうして平和に暮らす為に必要なのは、都合の良い生贄。


 そしていじめは集団心理の働きで変わる、街ぐるみのいじめ。その集団心理はどれくらいになる?答えはこれだ、この子には何をしても許される、この街の空気はそう告げてる。今はひたすら無視をされている段階、そこからどうやって人間が段階を上げて行動するのか、想像出来ない・・・


 「あ!!いたぁ!!」


 「っ!!あ、ビーンさん?」


 その時、ビーンさんが息を切らして走ってきた。


 「やっと見つけた、全く何処行ってやがった!?心配かけさせんなよな?急に飛び出してよぉ、んで、こっちに何があったんだ?って、ん?」


 この子は僕の後ろに隠れて張り付いた。丁度ビーンさんから見えない位置で隠れてる。


 「ミカミ、お前いつの間にダストと仲良くなったんだ?めっちゃ懐かれてるじゃん。うらやましーなおい、俺なんて猫にも好かれねぇんだぜ?」


 流石にもうバレてる。隠れても意味はないけどこの子の掴む手の力が強くなった。


 それにしても、ビーンさんは僕の表情の変化に気が付いてない。僕が何気ないふりをしているってのもあるかもしれないけど、それ以上に対応は普通だ、考え過ぎだったのか?


 「それよりも、早くアパート行こうぜ?あ、ダストはどうしよ・・・一緒に連れて行けねーかな?なんだかんだまだ五歳なんだろ?そんな子をずっとホームレスにする訳にはいかねぇし、わりぃけど、保護出来るならしてやってくれねーか?」


 ましてや僕にこの子の保護をお願いしてきた。やっぱりか、流石は国境警備隊だね、ちゃんと守るべき国民として見てた。でも、だからこそか。この子の置かれてる状況に気が付かなかったのかも。


 「あの、ビーンさん。一つ聞いてくれます?」


 「ん?どした?」


 「実は・・・」


 僕はこれまでの経緯を話した。ここの市民のこの子に対する態度、この子の置かれていた状況。そして「殺される」と呟いた事を。これを聞いたビーンさんは少しショックを受けているようだった。


 


 「成る程、そんな事が・・・わりぃな、全然気づいてやれなかったわ」


 ビーンさんは少しだけ顔を出したこの子の頭を撫でようとしたらまた僕の後ろに隠れた。   


 「あれ?俺もしかして嫌われてる?」


 「何年も誰も信じられずに生きてきたんだから当たり前じゃやいですかね?自分で言うのもアレですけど僕がこの子を今見つけなかったら多分今頃、この子の身体は運河を流れてますよ」


 「なんだそりゃ、殺させて罪を着せるより先に死んじまおうって?」


 こく


 「流石に優しすぎるぜおい。にしたって最悪だな。俺んとこの街がそんな風になってるなんて思わなかったぜ。いや、俺こそ見て見ぬふりをしてたのか・・・俺の街がそんな理由で人を殺せる街だなんてよ。けど、証拠は見ちまったんだな?」


 「はい、この街は徹底してこの子を孤立させている。嫌うにしても限度がありますよ・・・」


 「だな、ダスト・・・ほんと悪かった!」


 ビーンさんは率直に謝る。本当に申し訳ないと言う感じだ。この子はブンブンと首を振って否定した。まるで元からビーンさんは悪い人じゃないと言ってる感じだ。


 「にしてもミカミ、よく気が付いたな。あんたの洞察力恐れ入ったよ。案外お前探偵とか向いてるんじゃないか?」


 「冗談はやめてくださいよ、僕は安定した仕事したいんですって」


 またビーンさんは冗談半分で僕を弄る。


 「あー悪い悪い。まぁ探偵目指すならここから更に、考察する必要がある。ミカミもいい線言ってるがあと一押し考えが至ってねぇ。これはもしかしたら集団いじめとは呼べねぇかもしれねぇってな。とりあえずまずはアパート行くぜ、ダストも良いか?」


 こくり


 集団いじめと呼べない?ビーンさんのあの感じより最悪な予測を立ててるように見えた。


 「じゃあ行こうか」


 僕はようやくアパートへとたどり着いた。話に聞いていた通り見た感じ割と新しい、近くには警察署や消防署もあるし、さっきの役所も近い。


 更に向かいの通りには商店街の入り口も見えてる。かなり好立地の物件だ。その商店街を過ぎた先には駅もあるみたいだしね。


 『ガチャ』


 「ここの三階、三一三号室があんたの家だ」


 ここが新しい僕の家か。さっきの区長の話だとある程度の家電や家具は揃ってるって話だ。


 まずリビングルームで目に飛び込んで来たのは大きめのソファ、3人くらいでなら座れそうだ。そしてテーブルと大きめのブラウン管テレビ。


 キッチンにはガスコンロに、電子レンジと炊飯器、冷蔵庫は旧式だけど完備してる。浴槽はステンレスの浴槽。脱衣所には洗濯機まである・・・


 肝心な眺望はどうだろう、僕はカーテンを開けた。うん、僕の部屋は南、運河側で日当たりも良さそうだ。それに何故か窓枠にサボテンが入った鉢植えがある。


 避難民にしては待遇が良すぎる・・・僕の家電修理の仕事って、そんなに儲かるのかな?


 「うわ、マジか・・・これカラーテレビじゃん。羨ましいなミカミこのヤロー、俺の家なんかここの部屋の半分以下しかねぇんだぜ?」


 ビーンさんの給料でもそんな感じなの?にしてもこの部屋、到底一人暮らしの部屋じゃない、それくらい大きい。


 「とりあえずここ座っててくれる?」


 この子はソファによじのぼる。そしてこう言う柔らかいソファに座ったことがなかったのかバランスを崩してコテンと後ろに倒れた。


 「おー、運河眺め放題・・・」

 「あのビーンさん?話し進めてもいいですか?」


 「あ、すまん」


 うーん、この人いまいち緊張感がないと言うか・・・ずっと部屋見て回ってるし。とりあえずこの子の事が優先でしょ?


 「はい、水道水だけどこれ、味は大丈夫そうだったからこれ飲んで」


 こくり、  ごくごく  ぷふぅ・・・


 とりあえずこの子は水を飲み干した。


 「さてと、もう少しだけ詳しく話せる?辛いかもしれないけど、良いかな?」


 こくり


 「・・・い  てた    わた し    きけん   こ  ろ す  しか   ない」


 「言ってた・・・危険、殺すしか無い?」


 なんで、本当分からない・・・確かにこの子は親を殺してしまってるのかもしれない。それだけ聞くと怖いかもしれないよ。でも出会って分かった、快楽殺人みたいな理由で殺しなんかしてない。何か複雑な理由があった事くらいすぐに分かったよ。


 それがなんだ?この子の事情を知りもしようとせずに、ただ危険だから殺すってのか?


 「成る程な、なぁダスト。それを言ったのは何処のどいつだ?さぞあんたに恨みでも持ってるんだろうよそいつはよ。何もしてないのにな」


 ビーンさんも同じような考えを持ってるみたい。


 「・・・」


 この子が口を開こうとした瞬間だった。


 「火事だぁぁぁぁぁっ!!!」


 外から叫び声が聞こえた。そしてすぐ後に警報器が鳴り響いた。


 僕は慌てて外を見る、あそこは確か・・・この子が僕を見ていた路地辺りだ。そこから煙が見える、この建物のすぐ裏手だ。


 「・・・まずは避難が優先ですね。ビーンさん、ここの避難場所とかって分かります?」


 「とりあえずは非常階段使って降りろ、その後は通り沿いに広場がある。あそこに行くぜ」


 「分かりました」


 全くなんだよ・・・火事なんて僕生まれてこの方出会った事がない。


 「あ!えっと・・・」


 僕は部屋を少し探した。


 「おい何してんだ?早く避難するぜ?」


 「あった、防災頭巾!とりあえずこれ被って!」

 

 僕はこの子に防災頭巾を被せた。被ってれば多少はこの子の顔は見えないだろう。


 「へっ成る程。いい感じだミカミ!ほら、逃げるぜ!」


 僕たちは非常階段を降りて広場へと向かった。


 「出火場所はあそこか。あの路地、火の気あるものなんてあったか?」


 ビーンさんは出火場所を少し眺めてる。その隣でこの子も見てた。


 「わ   たし   の   い え」


 「・・・ビーンさん、あそこは多分。この子が暮らしてた場所みたいです」


 「なっ!?マジかよ・・・」


 「なんとなく・・・分かった気がする。さっきビーンさん言ってましたよね、これは集団いじめと呼べないって、その理由が分かってきた。これ、組織的な殺人なんじゃないですか?この子をただ嫌う権力者による殺人だ」


 「あぁそうだ。けど、最初はこう思いたくなかったぜ。せめてある程度の権力者の仕業と考えてたんだが・・・世の中、そんなに甘くねぇな・・・」


 僕とビーンさんの考えは完全に一致したみたいだ。


 「そうですよね、もう少し早く気づくべきだったのかも。何もかものタイミングがおかしい。僕が来る事も、僕がこの子と出会う事も。この火災も、そしてこの子が殺される。何もかものタイミングが良すぎる。


 そしてビーンさん、これは完全に僕の憶測ですけど聞いてもらって良いですか?」


 「あぁ」


 「この火災の首謀者、あのアンドリュー区長は・・・僕も殺そうとしてますよね?」


 ビーンさんは僕の予想に凄く眉間に皺を寄せて考えた。


 「・・・考えたくねぇけどな。でも理由が分からねぇ、百歩譲ってダストが殺されそうになるのは分かる。あいつの立場を考えりゃ、確かに殺人者を放っておくのは出来ねーよ。ま、だからと言って殺すのは意味わからんが。


 それよりもおかしいのは、その殺害対象にあんたが含まれている事だ。初対面でただの避難民をこんな回りくどく殺す理由はなんだ?まさか、予言と何か関係でもあるってのか?」


 予言か・・・彼は何を知ってる?何を思ってこんな真似をした?確かめてやる。


 「ビーンさん、とりあえず僕たちは広場へ避難します。ビーンさんはこの街の住人の避難をお願いします。僕だけに構ってはいられないでしょ?」


 「そうだが、けど殺されそうな奴を放っておくには・・・」


 僕はビーンさんの言葉を遮って話を続けた。


 「大丈夫です。この人混みに加え、この回りくどいやり方。向こうもおいそれと手を出せない理由がある筈。あなたはあなたの仕事をまずお願いします」


 「・・・分かった、すぐ戻るから広場でじっとしてるんだぜ?」


 ビーンさんは住民の避難を開始した。


 「離れないでね、ちゃんと僕に捕まってるんだよ?」


 こくこく がしっ・・・


 この子は僕の手を強く握った。少し震えてる・・・大丈夫、怖がらないで、必ず守ってあげるから。

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