リメイク第一章 異世界の嫌われ者
回想
「ぐすっ・・・なんで、僕ばっかりなんだ・・・はぁ、もういいか、何もかも・・・」
下校時間、僕は公園のベンチで一人泣いている。集団下校であるにも関わらず、僕は一人集団下校からわざとはぐれ一人泣いている。そしてこれからある事をしようとしてる僕自身にまた泣いていた。
「あ、いたいた」
「・・・」
僕の隣に誰かが座った、僕は誰が来たのか理解は出来たけど顔を上げたりしなかった。どうせ、言う事は分かっている。
「駄目ですよ?言いたい事ははっきり言わないと、減点ものです」
「言っても無駄、何も変わらないもん・・・」
「決めつけは良くありませんね。まぁ、その気持ちはわからなくも無いか、私も似たようなものだからね。ねぇ三上君、一つ良いことを教えてあげるわ、あなたはとても優しい子だから、言いたい事が何でもかんでも言えたわけじゃ無いでしょ?」
そうなんだ、何か言い返そうとすればこれ以上酷い目に遭うかもしれない。そして何よりこの傷つける行為を、同じようにやり返すのがもっと苦しく感じるんだ。だから僕は何も言えないんだよ。
「こら、人の話はちゃんと目を見て聞きなさい!」
僕は無理矢理顔を上げさせられた。
「人はね・・・」
その人の僕に言ったこの言葉、それがあの時の僕を変えた。
「それでももし、生きるのが辛く感じたらこれをやって見て」
「何かあるの?」
「とっておきの魔法、私もこれで救われたから・・・」
そして、その人が僕に教えてくれたとっておきの魔法は、僕を本当に救い出したんだ。
現在
あれは小学生の時だ、僕はいじめられていた。僕は引っ込み思案で身長も低かったから、よくクラスの同級生にからかわれていたんだ。
最初はそれが嫌で言い返したりしてた。でも、それで何か変わると思ったら大間違いだった。反抗的な僕の態度はからかっていた同級生に火をつけてしまったんだ。そして最初はからかっていたのが、最終的には完全なるいじめへと変わった。
その時、僕はもう何も信じられなくなっていた。教師にも親にも言っても何も変わったりしない。ならば多少苦しくても言いなりになってればまだ楽だった。けど、その理不尽を僕は睨みつけていた。
誰か僕の苦しみを知ってくれ、何で僕だけがこんな目に会わなければいけないんだ?お前たちはどうして僕を助けてはくれないんだ?なぜ気がつかない?見て見ぬふりをする?そうやってずっと常に誰かを睨んでいた。
その目だ、今見たあの子の目はそれと同じなんだ。助けを求めていても誰も信用出来ない目、伝えたい事があるのにそれが出来ないもどかしい表情。
そして、あの子の僕にそっぽを向いたあの瞬間のあれは、自ら死を選ぶ直前だ。
「お、おぃ!何処行く!?」
僕はビーンさんの静止を振り切ってあの子を追いかけた。僕は一度本気で死のうと考えた事があるまで追い詰められた事もある。けど、僕は恵まれているとある人が教えてくれた。
僕には本気で僕を心配してくれる両親がいてくれていた。僕と向き合ってくれている先生がいた。僕はそれに気が付いていなかっただけだった。けど、あの子はどうだ?
両親はおろかその代わりになる存在なんていない。皆無だ、あの子はきっと生き方をまだ知らない。無理矢理生きる方法しか見出せていない。それじゃ駄目だ!
時間がない、この街はあの子を放置し過ぎた。本当は誰かに助けて欲しかった筈なんだ。けど、あの子はSOSの出し方も分からない。だから気が付かなかったんだ!!
僕はさっきの路地裏にたどり着いた。いるわけないか・・・なら、この先に?あれくらいの子が自ら命を絶てる場所、誰にも目立たずに死ねる場所は?
たしか、この先に運河みたいな川があった。
「いた・・・」
心臓が少し落ち着いた、まだあの子はいる。路地裏のさらに先にある堤防道路の下、そこにあの子は長いコートの中にくるまるように座っていた。
昼過ぎ、日が僅かに傾く頃。ぼーっと虚空を見つめてる・・・あの時と同じだな、あの子を救えるのは僕しかいないね。
「ねぇ」
「っ!?」
僕はあの子に声をかけた。帰ってきた返事は思いもよらないものだった、あの子は体をびくっとさせて振り向きざまに僕の左腕を凍らせた。流石にこんな風にされると思わなくて僕は後ろへ飛び退いた。
「っ・・・いっつー・・・」
今の氷、直撃してたら危なかったな。感覚が無くなってきた・・・僕は顔を上げてもう一度あの子の顔を見た。
これ、この感じ・・・僕以上だ。凄く悲しそうで、そして怯えていた。それでいて憎んでる。その憎しみは誰への?知りたい・・・知らなきゃ、何か違うんだ、この子は僕とはまた違う、全く同じじゃない。
「待って!」
あの子は長いコートを引き摺りながら背を向けて走り出した。
逃げても流石に僕の足なら追いつける。あの子は来ないでと言わんばかりにもう一度氷を僕へ放った。流石に2度も同じ手は食わない。氷なら炎で相殺する!
僕の魔法とあの子の魔法がぶつかり合った。その衝撃で周囲は冷たい霧に包まれた。何も見えないな・・・でも、聞こえた。この小さなうろたえる足音、ここだ!!
僕はもう一度あの子に近づいた。そしてあの子も咄嗟に行動する。三度目は完全に封じる!僕はあの子の腕を掴んで止めた。しかし、魔法を止める事は出来なかった。あの子の氷は周囲の霧を消しとばして、氷山が出来上がっていた。
「ひえ、危なかった〜・・・じゃないや、ねぇ」
僕はしゃがみ両手であの子の手を握った。
「僕は君に何かしたりしない、君を傷つけたりはしないよ、けど一つだけ教えて?何をそんなに怖がってるの?」
「・・・・・・」
「お節介かもしれないけど、僕は君を放ってはいけない。その目はかつての僕以上の哀しい目だ・・・だから聞かせて?怖がってる事は何なのか」
「ん 」
あの子は何か言いたいみたいだけど、声にはやっぱり出せないみたい・・・って、あれ?僕何でこんな事を、触らぬ神に祟りなしって言った手前なのにこんな大々的に。
「・・・無理に話さなくて良いよ、まずは落ち着いて」
僕も落ち着け、流石にSOSに気がついて見て見ぬふりする程僕はグズじゃないってだけだ。
「とりあえずここらへん少し散歩しよ?」
僕はあの子と一緒に運河沿いの歩道をぷらぷらと歩いた。あの子は何も言わずに少し距離を置きながら付いてきた。そして気がついた、あれだけの魔法のやりとりをしてたのに野次馬が誰も来ない。
それどころか、ここ周辺誰もいないじゃないか。
「僕、ここ初めてなんだけどさ、ここってこんなに人通りって少ないの?」
あの子はうつむきながらふんふんと首を小さく横に振った。なんか、嫌な感じがした。まさかとは思うけど・・・
ん?でも全くいないわけじゃない。子どもたちが広場でボールを使って遊んでいるのが見える。けど、その直後の子供たちの反応で全てを察した。
「あ!おい逃げろ!!ダストが出た!!」
「ひ、ひぃーっ!!あっちいけー!」
子どもたちはボールを置いて逃げてしまった。更に歩いてみる、そして理解した。ここに人が居ないんじゃない。ここからみんな遠ざかってる。誰もこの子の近くに寄りもしない。影が見えただけで何食わぬ顔でそのままUターンだ。
「うん、これ以上は歩きたくないよね。そこに座ろっか」
僕は歩道のベンチに座った。この子も小さく頷いて僕の隣に座る、僕はさっきの子たちが置いて行ってしまったボールを拾いあげた。
「・・・なんとなく分かったよ、さっきの区長さんやビーンさんの話から察するにこれ、街ぐるみで君をいじめてる。ビーンさんとかにそんな気はさらさらなさそうだけども、この街は君を本当に嫌ってるのはよく分かったよ。確かに僕も昔いじめられていたけど、ここまで悲惨な感じじゃなかった。逃げ道もあったからね」
僕はこの子に話しかけても反応はしてくれなかった。それで良い、僕は問答無用で話し続けた。
「でも僕は君じゃない、君じゃないから君の心を理解する事なんて出来ない。それが出来るのはただ一人、僕が存在を信じない神様だ。でも、完全に君を分からなくても今の君が思ってる事は理解出来てるよ」
この時初めてこの子はちらっと僕を見た。
「簡単な事だよ、この景色を見れば十分じゃない。君は僕の遥かに超える生き方をずっとしてきた。つまり計り知れない人生を送って来た事ぐらいは見ればすぐにわかる。
そして、君は本当はとても優しい子なんだってのはちゃんとこうして会えば分かった。さっき僕が君に声をかけて攻撃して来た時、その時の顔は怯えだ。僕に向けて君は怒りなんてこれっぽっちも向いてなかった。君はやりたくて僕に攻撃したわけじゃない、でしょ?」
こくっ・・・この子はまた小さく頷いた。
「君の攻撃に何かを憎んだりした感情は無い。あの攻撃に僕を陰から見ていた時のような恨みなんて微塵も感じなかったよ。君は分からないだけなんだよ。恨みつらみの矛先を何処へ向けたら良いのか。そこは僕となんら変わらないよ、君の心はきっとこう言ってる。もう誰かを傷つけるのは嫌だ、ちがう?」
こくこく・・・この子は2回繰り返すように僕の言葉に頷いてくれた。
「優しい心を持つのはとても良い事だとは思うよ。けど、君は優しすぎるんじゃないかな」
その言葉を聞いたこの子は顔をようやくしっかりと上げて僕を見た。聞きたがってる、この言葉の意味は何なのか、答えを求めてる。
「君が何で僕や他の人に攻撃するのか、それが君に出来た唯一の言葉なんだ。君は自分を信じられない、さっきの僕にやったみたいに力が制御出来ずに暴走する。抑えようとしても止め方が分からない。そしてかつて両親を殺したようにいつかまた誰かを殺してしまう、そう君は思ってしまってる。
確かに力の抑え方なんて僕は知らないよ。でも、本当に暴走してるのは君?暴走してる振りをしてるんじゃないの?ビーンさんやこの世界の人なら君を保護しようとすればいつでも出来た。それが出来なかったのは君自身が暴走した振りをしたからだ。君は何もかも自分のせいだと言い聞かせてるみたいだけどそうじゃない。みんなと同じ、誰かのせいにして自分を守ってる」
僕は口からズバズバとこの子に言ってしまった。この子は傷ついて涙を流してる。声は出てない、ただボロボロと僕を見ながら泣いてる。
「攻撃して否定はしないんだね。普通ならここまで言われたら怒るよ。殴ったり蹴ったりするよ、けど君はしなかった、それは図星って事だ。でも、ちゃんと伝わったよ?君の心は、君は僕の話を聞いて伝えてくれた。その涙って答えを教えてくれた。君は喋れないかもしれない、まだ文字も書けない。でも、意志は伝えられた、僕が君を傷つけた事でね。
そうだよ、時には相手を傷つけなきゃ伝えられるものも伝えられない。ねぇ、君に一つ教えてあげるよ。僕はかつて君のような感じだったんだ。でも、ある人にこんな事を言われた『人は常に誰かを傷つけながら生きてる、傷つけずに生きる事なんて出来ない』ってね。
怖がらないで、ちゃんと面と向かって、例え言葉で話せなくても、文字が書かなくても、心を伝え合う事は出来るんだ。そっぽ向いて攻撃して逃げるなんて、それじゃ誰も助けてはくれない。人間なんてそんなSOSには気が付かないから。本当に苦しいなら、なんとしてでも意志を伝えなきゃ駄目なんだ!」
僕はいつのまにか語っていた、伝えなきゃいけないと思ったんだ。この子に、しっかりと生きて欲しいって思った。だから放っておけない。
「なんて・・・まだ5才くらいの子にこんな事言っても、まだ分からないよね。でも、たまにはこれくらいのお節介は焼かないとね、少なくとも君一人なら僕が守ってあげられる。あ、そうだもう一つ良い事教えておくよ」
「?」
「これもある人に教えてもらったんだ。本当に辛いと思ったらこれをするんだ。さっき、あ、とかう、とかの声は出せたよね?」
こくこくこく、
「十分、必要なのは声じゃないからね。この世界には魔法があるみたいだけど、僕たちの世界にもあるんだ、多分この魔法はこの世界だからこそより効果を出すと思うよ。君に教えてあげるよ。僕のとっておきの魔法をね」