リメイク第一章 異世界の塵
区役所の中はけっこう人が来ていた。見ると住民税がうんたらかんたらとか、扶養家族の届け出とかほんとに役所って感じだ。僕は背負っていたリュックサックを下ろし椅子に座ってビーンさんを待った。
そう言えばスマホは大丈夫なのだろうか?ポケットに入っていたスマホを見ると電源は普通に入る。特に壊れてはいないな。ただ、電波は入ってこない、まぁ今はしまっておこう。
「おうミカミ、もうちょい待ってくれってよ」
ビーンさんが戻ってきた。順番で後は呼ばれるのを待っているらしい。
「なんか最近ゴタゴタしたのが続いてよ。それより一つ聞いて良いか?そのでけぇ鞄何が入ってんの?」
鞄?何の・・・あぁ、リュックサックの事か。別にこの世界にもあるだろうに。もしかして、和製英語とかは無いのか?いや、そうでも無いか・・・
「一応リュックサックですね、本当なら今日仕事終わりで少しツーリングにでも行こうかなと思ってたんですけど。一応中身は水とか携帯用充電器とかみたい。その他諸々はバイクに積んでましたから」
「ふーん、ってか何だこの小さい箱はよ?」
ビーンさんは携帯用充電器を見て不思議そうに眺めてる。やっぱりこの世界にはスマホなんてまだ無いんだ、これなら自分の能力を活かした仕事も見つかりやすいかも。
「一応、これの充電器ですね・・・あとこれ」
「な、なんじゃこりゃぁ!?」
僕はスマホを取り出してビーンさんにこっそりと見せた。見せた瞬間、ビーンさんは飛び上がって驚いてしまった。やべ、先に驚かないでと言っておくべきだったか・・・
周囲は一瞬静まり返ったが、ビーンさんがすんませーんとしてまたどよめきは元に戻った。ふぅ、セーフだね。
「あのよミカミ、一つ聞いても良い?」
「はい?」
「ぶっちゃけお前らの世界の技術ってどんなもんなんだ?ってかそれ何?」
ビーンさんは小声で僕に話しかけた。やっぱり気になってしまうのね。とは言っても、どれくらいなんだ?この技術は
「一応、これは電話の一種ですね。電話はあるんですよね?」
「流石に馬鹿にすんな?ここ最近は一家に一台は普及してるぜ?ほれ、あぁいうやつだ」
自動卓上電話機か、俗に言う黒電話。主流なのはそれね、それが各家庭に普及したとなると・・・
「だとしたら大体50年くらい技術が進んでるのかもしれません。この電話もそうですし、車や洗濯機も60年代な感じでしたから、多分50年くらい進んでますね」
「へー、もしかしたらあいつを倒す方法はその技術力だったりしてな」
「からかわないで下さいよ。僕はせいぜいこの技術を出来る限り提供するくらいです。それに、一個人の出来る事なんてたかが知れてますよ」
「だな、俺も良くわかんねーもん。この電話もどうやって繋がってんだ?」
僕とビーンさんはそんな会話をしながら待機していた。
「ミカミさーん?ビーンさーん?一番窓口へどうぞー!」
そしてやっと呼ばれた。
「避難民の手続きと言うことですね」
「あ、はい」
「分かりました、ビーンさんの話しによると身分証明出来る物は紛失という形で宜しかったでしょうか?」
僕は事務的な手続きのやり取りを済ませていった。
「・・・はい、一応書類関係はこれで以上になります。後は区長さんがお待ちですので、そちらで最終的な住民登録をして完了になります。区長室はそちらの階段を上がって突き当たりになります」
「はい、ありがとうございます」
僕は言われるがまま階段を登って区長室へ向かった。
「初めましてミカミさん。私がボーダー地区長のアンドリューと申します。我々あなたを歓迎致します」
「あ、こちらこそよろしくお願いします、ミカミです」
区長はニコニコした目が特徴的な40代前半程の男だった。
僕はとりあえずしっかりとした対応で挨拶する。
「では、こちらにサインをお願いします」
僕は自分の名前を書く、こうして思うと礼って名前を名乗れないのは意外としんどいものだね。ミカミだけってのは少し落ち着かないかも。
「はい、ありがとうございます。危険な路をはるばるこのアダムスまで、相当苦労なされたでしょう」
「はぃ、まぁ・・・」
「嫌な記憶を掘り返すようで悪いのですが、道中バケモノには出会いましたか?」
「まぁ出会うには出会った感じですね。でも何とか隠れて距離を取りつつって感じです、何年もかけて・・・それでようやく国境の壁を見つけて少し気が緩んでしまったのでしょうねぇ。その時たまたまバケモノに見つかって、それからビーンさんに助けてもらったんです」
おぉ、口から出まかせの割には、上手くカバーストーリーが出てきた。ビーンさんもなんかこっそり親指を上にこちらへ向けている。
「それは、それは・・・ご苦労様でした。でもこれからはご安心ください、多少不便はありますがこれまでに比べたら平和に暮らせます事をお約束します。どうかあなたの幸福を願います。全ては平和の為に」
手続きは完了した、仕事も住むところも提供してもらった。
仕事はさっき区長の部屋のランプが消えかけていた所を軽く修理したらすごい驚かれて、それで家電の修理を任される事になった。ちょいと断線してたのを繋ぎ直しただけで驚き過ぎな気もするけど。
なんでも家電や建築に関する事業は国が行ってて、家電は特に選ばれし国家公務員しか手を出せないらしい。どうなってるんだ?言っちゃ悪いけどこの程度を治せないのは流石に馬鹿になる。大体の人が家電が壊れたら、それが例え電池で動く簡単なモーターのおもちゃでも買い換えるか修理に出すしか無いらしい。50年前ってそんな風だったのかな?
ま、でもともかく仕事は見つかった。しかも家電修理は国家公務員の高給取りだ、ありがたい。
それで家はこのボーダーにあるアパートらしい。場所はビーンさんが知っていて案内してくれるそうだ。さっき資料見たけど割と綺麗で良さそうな感じだ。最近建てられたらしくて、この役所にもそれなりに近い、歩いて10分くらいだ。
僕たちはとりあえずそのアパートへ行くために役所の外に出た。
外に出るとまた視線、また柱の影から僕を睨んでる・・・流石に聞いてみようか。
「あの、ビーンさん?」
「ん?」
「あの、長いコートを着た子って知ってます?」
「え、ダストの事かそれ、何処にいた?」
やっぱり気が付いて無かった。ってかダストって子なのか。
「いや、さっきからあの柱から僕をじっと見てるんです。あ、隠れた・・・」
僕が指差すとダストは気が付いたのなササッと裏路地に隠れてしまった。
「あー、成る程。あいつはダストって呼ばれててな、まー本名は不明。一応冷気を操るイツ族の生まれである事は分かってるんだが、どうにも二歳になる年、国から名前が授けられる年だ。あの子は元々とんでもねーくらいの魔法の持ち主でな、何があったのかは知らねーけど、ある日両親を誤って凍らせて殺しちまったんだと。それがショックで言語障害を患ってな、ろくに喋れねーのよ。一応俺たちも保護しようと動いたんだが、反撃されてな。それからずっと家も無くゴミ溜めの中で暮らしてる。そのゴミ溜めの中で生きてるからみんなダストって呼んでんだわ」
親殺しか・・・あんな子がね。成る程、この国にも何かしらの悩みの種があるのか。
「そうなんですね。ならビーンさん、何であの子は僕を睨んでたんですかね?」
そこが気になって仕方がない。それにどーにもさっきから変な気分だ。つけられてるみたいで気持ち悪いって訳でも無い。あの睨む感じを僕は知ってる・・・
「あぁ、あいつはボーダーに新しい住人が来るとしばらくあーやってしばらく見てんだよ。それでたまにトラブルになるんだが、まぁ数日で止めるから安心してくれ。こっちから変に手を出さなきゃあの子は何もしてこない。あ、暇があったら顔でも拝んでやったらどうだ?なんでも顔はめちゃくちゃ可愛いって聞いたぜ?」
「触らぬ神に祟りなしですよ、あんまり関わりたくは無いかなぁ・・・」
「だな、ちと心が痛むが、本人が嫌がってるのを無理矢理保護施設に入れるのもアレだしな。とりあえず、アパートはすぐそこだ。行くぜ」
僕はアパートに向かって歩き始めた。でも、どーにも引っかかる。あの顔、いや・・・あの目だ。僕が気になったのは。
あの目は確か・・・
「っ!!」
「思い出した!!」
「は?」
僕は思わず走り出していた、あの目を僕は知っている。あの目だ、あの目なんだ!!
忘れかけていた・・・僕が今の僕になれたあの日を!だから、僕が行かなくちゃ!