リメイク第一章 異世界の貴族邸
やれやれ、とんだ道草を食ったもんだ。僕たちは固まって動けない人たちを抜けてバイクの元まで来た。
「ミカミ」
「あれ?アシュリーさん?」
「あそこの奴らはしばらく放心状態だ。あーやってしばらく頭冷やしてれば良いさ。だからオレは見送りに来た、それくらい構わないだろ?にしても、とんだ迷惑をかけたな」
「いや、アシュリーさんが謝る事じゃないですよ。大元はきっとアンドリューですから。あわよくばここで彼も止めたかったんですけど、もういないみたいですね」
「あいつはバケモノを寄越したらすぐに何処かに消えてな」
やっぱりか、まだ不安の種は尽きないな。
「それより、アシュリーさんはこれからどうするんです?」
「オレか?流石にこの村をこのまま放置する訳にはいかないだろ。それに、ハミルの件もある」
「彼、あなたに随分と気があるみたいでしたよね?どうすんです?」
「結婚なんてのは勘弁だな。だが、あいつの言う通り今回で引退はしてやる。その後オレがやるべき事は、あいつの里親になる事かな?」
「さ、里親ですか!?」
アシュリーさんから僕の予想を超える回答が来た。
「オレもお前の言う通り考えたのさ、オレの意志はどこにあるのかをな、それがこれだ。
多分、ハミルはオレを嫁にしたいと言うより、オレに甘えたかったんだ。あいつはなんだかんだまだ十代半ば、村を治めるには幼すぎるんだ。そしてオレはそんなあいつに何もしてやれなかった。わがままを見て見ぬふりをしていた。
そうだ、オレが何もしなかったからあの村は狂った、その責任を取りたいと思ってる。そして今度会う時までには、ここの奴らを人間らしく生きてる村にしてみせるさ」
「分かりました。でも、あまり気負わないで下さいよ?」
「分かってる、連帯責任って言葉、オレは好きだからな。さて、そろそろ行きな。あの男もアンドリューも恐らく既に反撃の準備に入ってる筈だ」
「そうですね、では行きます!」
僕たちの旅はこの折り返し地点をようやく超えた。
「ひゃー、飛んだ時間食ったな。もう日が暮れて来やがったぜ、全然進めてねーよもー」
「何事もポジティブに捉えましょうよ、あそこで良い修行になった。それで良いんじゃないですか?」
「うーん、そこは良いんだが俺の待遇よ。何さ未成年者誘拐って、俺にそんな趣味はねーよ!ってか!レイ!あんた二十だ・・・ろ?」
何故かビーンさんは僕を見て眉をひそめた。
「な、何です?」
「お前、そんな顔だったっけ?」
「いきなりなんですか?失礼ですね、僕は何も変わってませんよ?」
「うん?うーん・・・何か最初に見た時と比べて違和感があるような・・・」
「僕も大分この世界に馴染めて来たってだけじゃないですか?」
ビーンさんは渋々納得した感じだ。顔が違うって、後で鏡見てみようかな・・・
それからしばらく走り、野宿の場所を探していたんだけど・・・
『ゴロゴロ・・・ビシャーーンッ!!』
「わーっ!!夕立!!」
突然の雷雨に襲われた。
かぷかぷ・・・
そしてその雨をグレイシアは水筒のコップに入れて飲もうとしてる。
「わーっ!!グレイシア駄目!!汚いから!!」
「?」
「わーい!水遊びだーっ!」
フォックスは雨で遊びだした。
「ちょい!フォックス!暴れんない!!あ、おいレイ!!あそこ!!」
ビーンさんがある物に気がついた、大きな屋敷が見える。雨の音であんまり音は聞こえないけど、バケモノとか害獣。ましてや人間はもうここにはいないみたいだ。
「分かりました!!あそこで雨宿りしましょう!!」
「やれやれ・・・大変な目にあったぜ。にしてもこの屋敷、誰のだ?暗くてよく分からねーな。貴族の邸っぽいけど、それよりレイ。ここには誰かいるか?」
「バケモノの類いはいないと思います、雨の音がやかましいですけど、多分人間もいませんね。なんなら今日はここで寝泊まりしても良いかも」
ここなら埃まみれでもベッドとかは使えるかも。
「おー、おいらもここ入るのは初めてだなぁ。おいら探検してくる!!」
フォックスは飛び出した。
「んへっ!?おっとごめんよー・・・んお?おいら誰にぶつかったの?」
フォックスは誰かにぶつかった。そう、ここには誰かいた・・・
「これはこれは、こんなとこに客人ですか」
「人間?」
「子供?」
その人はグレイシアよりまだ少し年上くらいか?子供ながら小綺麗な燕尾服に身を包んだ少年だった。
「ここはお前の家なのか?」
「いえ、私も流れ者でございます。私の名はティーバック、以後お見知り置きを」
ティーバックは元からここに住んでいた様な貴族的な対応で僕たちを迎え入れてくれた。
「ビーンだ」
「ミカミです、こっちがグレイシアでこの子がフォックス」
ぺこ、
「おーす!」
「見たところ長旅をしてるご様子で、ここの敷地は広いですからどうぞご自由にお使い下さい。なに、心配はご無用。ここはかつての貴族邸ですが今は誰も住んでいません。私が勝手に使っているだけでございます」
「の割にはあんた、俺が出会ったどの貴族よりも貴族っぽく見えるけど?」
「ははっ、それはどうもビーン様。私は昔から紳士として生きる事を生き甲斐としております故」
この歳でこんな場所で紳士を名乗っても意味ないような・・・
「ほーん、てかティーバックさんよ。ここって誰の邸なんだ?エイド貴族とはそこそこ付き合いがあったからな、ここが誰の家なのか分かれば今の位置も大体分かる」
「そうでしたか。確かに、その鎧にある紋章はアダムス王国軍の中でも実力者に与えられる称号ですね。でしたら灯りを付ければ分かるのでは?」
ティーバックは玄関の灯りを灯していった。
「え、あれ・・・ここってまさか、ゾロアス邸か?」
「そうでございます。エイド四貴族の一つゾロアス。ここはかつてのそこの邸です。ビーン様、貴族と付き合いがあったと言うのは本当のようですね」
「まーな、にしても大分ズレたとこ走ってたな。おいフォックス、ちゃんと案内しろつったろ」
「こっちで良いんだよぉ、人がよく使う街道はバケモノ多いし遠回りだし、ここから向こうまで行ける道があるのさね」
既にフォックスのルートに入ってたのか。
「もしやあなた方、骸骨高原に行かれるのですか?」
「んお?そうだよぉ?人は確かそこの道そう呼んでたねぇ」
「な、何その物騒な名前・・・」
僕は恐る恐る聞いてみた。
「骸骨高原、この先にある霊峰オンヤリ山の先にある高原です。しかしあそこは方位磁針は意味をなさず、凄まじい勢いで氷点下と猛暑が繰り返し、高熱が襲って来たと思ったら突然の大雪や大嵐が起こるのです。そしてそこを通った者は向かうべき方向を見失い力尽きる。動物たちも例外ではなくあそこを通った者のほとんどはそこで死に絶え、骨になる。その為骸骨高原と呼ばれているのです」
「ひえっ!?ちょっとフォックス!そんなとこ行こうとしてたの!?」
「そだけど?でもあんちゃん達早く行きたいって言ってたじゃん、そこ通れば目的地まで半日足らずで行けるんだよ?」
「え、そうなの?ここからいつものルートで行くと一日半は掛かると踏んでたからな、確かに早い・・・けど危険過ぎやしねーか?」
ビーンさんもそこを通るのは少し嫌そうだ。
「ふっふっふ!!このおいらを舐めんない!!ヒトも普通の動物は知らないのさ!あそこには普通の目には見えない隠しルートがあるのさね!そこの道を知ってるのはこのおいら!!」
フォックスは鼻を高々に言い放つ。
「何回も通ってるから間違いないさね!!」
「うーん、フラグか?」
「レイのあんちゃん、それ自分で言ってどうするのさね」
いや何となく思っただけ。けど、ここがもし本当に誰も知らないのなら、ゼロすら知らないのなら・・・この道を使わない手はない。
「・・・信じるよ?」
「おうともさ!!」
「ともあれ、今日は遅いですからここでお休み下さい。軽い食事なら提供いたします」
とりあえず今日はここで寝泊まり出来る。ティーバックが一体いつからここにいるのかは分からないけど、かなり片付いて清潔に保たれてる。
ティーバックは厨房の方に向かった、この食材。一体何処から・・・それに、何でここにはバケモノの一匹も近くにいない?なんか違和感あるなぁ・・・
けど、彼からは特段敵意みたいなを感じない。少し考え過ぎか?
「こちらを、アフタヌーンティーでございます」
何故にアフタヌーンティー!?
ティーバックが運んできたのは、ハイティースタンドに置かれたサンドイッチやケーキ類、そして熱々の紅茶が出された、君本当は貴族でしょ。
「・・・なぁティーバック」
流石のビーンさんも違和感を感じて・・・
「これ美味いな!天才か!?」
あらそうですか・・・今警戒心ゼロだこの人。
「この裏庭で菜園を行なっておりまして、果物野菜、そして小麦等もここで栽培しているのです。これが今の日課という感じですね」
チラッと僕は中庭を見てみた、言ってる事は本当っぽい。
食事を済ませて僕たちはベッドルームに入った。
「おいらここで寝るー!ぐがー・・・zzz」
フォックスはベッドにダイブしたと思うといびきをかいて寝始めた。
「グレイシアもそろそろお休みしよっか」
こくり、
そしてグレイシアもベッドイン、僕はしばらく外を眺めた。雨は少し少降状態になったけどまだパラパラと外から聞こえる。
「レイ、ここ井戸水だから、水道もまだ使えるんだって?はーなんか久しぶりに風呂入った気分だわ。にしても、まさかこんな形でゾロアスに世話になるなんてな」
ビーンさんが上半身裸のままバスタオルで頭を拭きながら出てきた。ここ、火とかも普通にまだ使えるようになってるらしい。その為ベタベタに濡れた服も乾燥機が使えて今乾かしてる。
「そう言えばビーンさん、ここ知ってるみたいでしたけどゾロアスって?」
「うーん・・・レイ、ちょっとこっち来てくれ、真面目な話だ。聞いておけ」
僕は隣の部屋に呼ばれた。大声で話したくない事でもあるのかな。
「ゾロアスはティーバックの言う通り、エイド貴族の一族だ。ただ、二十年前ある事件がこの家で起きてな。この家の令嬢、マリリン ゾロアスに殺害予告が届いたんだ。で、俺とスチュワート隊長とそしてある男がその事件の解決に動いた訳よ。そしてその男は見事事件解決に導き、マリリンを死から救い出した。あいつがいなかったらマリリンは確実に死んでいた、あいつは、エイドに、そしてアダムスにとっても英雄になるはずの男だった」
「その人・・・そしてその話って、まさか前に話してた」
「あぁ、そいつの名はアマナ。後にゼロと呼ばれる男って事だ。だから俺は未だに理解が出来てねー、命を誰よりも大切にしていた、何であいつはあーなっちまったのかな」
ゼロはここで一人の少女の命を救った・・・まるで僕がグレイシアを救ったようにか?
「そのマリリンさんは今どうなってるんですか?」
「死んだよ」
「な、まさかゼロに?」
一瞬僕の背筋が凍る感じがした、もし僕がゼロと照らし合わせの様になってるのなら、僕はグレイシアを殺す?そんな風に思ってしまった。
「いや、原因は全く別だ。運命の悪戯って言うのかねこう言うのは・・・マリリンは後に結婚してこの家を出た。相手はイツ族の男で、そしてアダムスに来たんだ、子供にも恵まれた、女の子だ。けど、その子が二歳の誕生日、事件が起こった。マリリンの家に強盗が押し入ってな」
あれ、この話も何処かで、これってグレイシアの。
「そうだレイ。マリリンを殺したのはその二歳になる女の子、その女の子は強盗から両親を守るべく魔法を使った。けど、強力過ぎたその子の魔法は強盗諸共凍らせてしまったんだ。その女の子はその後そこからいなくなり、やがてボーダーでダストって呼ばれる事になり、お前にグレイシアと言う名前を貰う事になる」
グレイシアはここの子だったんだ。通りで顔は綺麗な筈だ・・・
「運命の悪戯にしては、悪趣味過ぎますね・・・この話って他に誰が知ってるんです?」
「黙っててすまんかったな。けど、知ってんのはスチュワート隊長と俺くらいだ、家の無い女の子の正体が貴族の令嬢だなんて知られたらグレイシアちゃんを狙う奴は後を絶たないだろ。だからこの事実は、アレックス陛下ですら知らねー筈だ」
本当、神様がいたら僕は彼に一つ言いたいね。「クソ野郎っ」て。そして一発ぶん殴りたいな・・・
翌朝になった、僕たちは出発する。フォックスの話では昼過ぎまでには目的地に着けるらしい。体調は今は万全だけど、ここから通る場所はいるだけで体力を削られるっぽいとこだ、早く抜けよう。
「さー!行けーっ!」
ここからの運転はビーンさんに変わり、僕たちはまずオンヤリ山を目指した。
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『ジリリリッ!!ジリリリッ!!』
ゾロアス邸、なる筈のない電話が突然ここに鳴り響く。そしてそれを取る手があった。
「私です」
『どうかな?彼らの様子は』
「指示通りに休息を、彼らはどうやら骸骨高原を抜ける気でいるらしいですね。あの喋る狐は抜け道を知っている口ぶりでした」
『成る程、あの狐も相当鼻が効くようだ』
「どうするつもりですか?私の目には彼は紳士の心を持っているように見えましたが」
『あぁ、この私の目にもそう見えている。現にミカミはたった一日であの狂っていた村に解放のきっかけを与えた。あそこが人間と世界の縮図を表しているのなら、ミカミは一つの世界を救う勇者であったという事になる。
彼らが骸骨高原を抜けるのならば好都合だ、私は今そこを抜けた先にいる。そこで直接見届けよう、彼が本当にゼロを暗殺出来るのかを、この命を持ってな』
「そうですか、では私の任務はここまでのようですね」
『あぁ、私が戻る事が無ければ暗殺部隊は解散となる。君は大切な友人の元へでも向かうが良い』
「そうさせてもらいましょう。ではこれにて紳士の任務完了致します。後は頼みました死神」
『あぁ、これより死神最後の任務を開始する』




