リメイク第一章 異世界の歴史
図書館のテーブルに僕たちが座るとビーンさんはこの世界について話してくれた。
「今から五百年くらい前か、この世界はなんでも国が何個にも別れて存在していたらしい。そんでその国々はそれぞれ衝突しあっていたんだ。けど、そんなある日突然一人の人間が現れそれまで存在がそれまであやふやだった魔法を駆使し、その圧倒的な力はすげぇ事にほぼ無血開城みたいな感じで、各国の主権を次々に掌握していった。
んで、世代が変わって行って魔法はその子どもたちに受け継がれ七つの一族に別れたって事になってる。俺もその一族、魔法族の一人って訳だ。それからいつの間にか国は統合を繰り返しこの世界に存在する国はここアダムスとエイドになった。そしてこの二国も統合される予定だったんだ」
すんごいざっくりだな。
「予定だった?」
そうか、それが今の戦争って奴なのかな。
「あぁ、今から二十年前だ。二大国統合調印式、このアダムスはアダムス連合王国になる予定で話しは進んでいたんだ。それでアダムス国王とエイド国王が調印式会場に向かっていた。俺もそん時警備を任されてたんだ、俺たちアダムス側は先に会場にいたんだが、その後にエイドが到着した時だ、本来乗っていた筈の王ではなくある男がエイド国王の首を持って現れた。そしてそいつは『バケモノ』を使って、俺たちを襲いだした。俺たちは必死に戦ってなんとかアダムス国王を逃すことは出来た。まぁ、かなり犠牲を払う結果になっちまったが・・・」
ビーンさんは突然眉間に皺を寄せた。そのある男の事を思い出しているんだろうか・・・
と、考えていたらケロッと元のノリに戻った。
「ってな感じか?この国の簡単な歴史だ。お次はあんたにさっき言った予言についてだ」
ビーンさんは何処かからボロボロになった紙切れを取り出した。これだ、これが多分一番重要な内容だ・・・
「これは一週間くれぇ前に、ここの図書館の書庫を整理してた奴が見つけたやつでよ、ここにはこうある。『異世界 ニホン より ゼロ 現る それは 「バケモノ」で 世界を 亡くすもの 後 異世界 ニホン より レイ 現る それは あらゆる魔法で 世界を 救う 勇者 そして 全てを始める者』ってな、最初はなんかの本の切れっ端かなんかと思ったんだが、どうも変でな。これ見てみろよ、ゼロ。これは何だ?こんな言葉はこの世界で聞いたことねぇし、名前にしてもなぁ、あいつの事なのか?あんたなんか心当たりあるか?」
「へ?」
いや、待って・・・まるで意味が分からなかった。バケモノに、レイって僕の事を言ってるのか?それにゼロって・・・
「いや、ゼロは数字だと思いますけど?」
今の質問に答えられたのはこれくらいだ。整理させてくれ・・・
僕がこの予言をもう一度眺めようとしたらビーンさんは余計に変な顔をして僕に質問した。
「何言ってんだ?数字にゼロなんてねーだろ?一、二、三、四、五、六、七、八、九、十ってよ。何処にもゼロなんてねーじゃん」
なんか、馬鹿にしてる?
「いや待って下さい。数字は0、1、2、3、4、5、6、7、8、9で10は1と0で出来てるでしょ?」
僕は数字を紙に書いてみせた。するとビーンさんも出してきていた。漢数字・・・言語の違い、あったわ。
「これって・・・中央で最近見かける新書体の古代数字ってやつだな、けど、なんだこれ・・・○?」
ビーンさんは呆けている。それにしても、ゼロが無い?そんな馬鹿な事があるか?
「だからこれがゼロですけど?」
少しばかりイラッとした、流石にこれは馬鹿すぎる。完全に夢だと認識出来た。ゼロが無いのは流石に有り得ない、それが無かったらこの世界、こんなに技術なんて発展する訳ないじゃ無いか。
「あ・・・」
「あの?ビーンさん?」
ビーンさんはなんかずっとポカンとしてる。
「お、おう悪いな・・・にしても、これがゼロ。やっぱり訳分かんねぇな。やっぱり異世界の話しは本当なのか、魔法に、ニホン・・・予言の通りではあるよな?」
ん、言われてみれば。なら僕は何をすれば良いんだ?
「で、予言の通りなら、あんたは世界を救って全てを始めるんだってよ。ゼロがまぁあいつだとして・・・で、あんたがあいつを倒す訳か。どーだ?世界救ってみる気はあるか?」
軽く聞かないでよそんな重要な事、でもそうだな。夢ならさっさと醒めればいいのに・・・RPGにアクションゲームは割と好きなジャンルだけど、実際に身体を動かすのはそこまで好きじゃない。学生時代は剣道をやってたけどたまにサボってたし。
「うーん、そんな事言われても僕に世界を救う動機なんかありませんよ。ゼロさんって国王を殺すようなヤバい奴でしょ?正直近づきたくない、まぁ確かに世界を救う〜なんて事やってはみたいですけど、この感じどーにも現実味がありすぎる。ならいっその事こと普通に受け入れる方が良いんじゃないですかね、だって僕が仮にゼロさんを倒せても元の世界に戻れる保証もないし。家族には悪いですけど、しばらくは普通にこっちで暮らして適当に元の世界に帰る方法を探してみます」
やってられないよ全く、実際に疲れるRPGはごめん被る。
「うん!だよな!確かに魔法にはびっくりしたが動きは素人以下。そんな奴にこの世界の命運を任せるって頭いかれてんだろ」
素人以下に、頭いかれてる・・・少し傷付くよ?僕はじっとビーンさんを睨んだ。
「あ、そんな睨むなぃ、悪かったって。でも事実はそうだろ?普通に考えて一国を滅ぼした奴をこのたった一人の人間に任せるのはどうかしてる、ましてやその本人は嫌がってる。それを保護するのも俺たちアダムス王国軍の仕事だ。それに、この街見てみろよ」
僕は窓の外を眺めた。古めかしい車が走り回ってる、路地裏には子どもたちが何やら遊んでる。その近くで奥様方が井戸端会議、のどかだな、平和だ・・・
「あの壁作ってバケモノはこっちに入る事は出来なくなったし、あいつ自身があの事件以来攻めてくる事も別に無い。俺が外に出向くのはただの憂さ晴らしに過ぎねぇんだ、それにもし出たら俺が今日みたいにぶっ殺してやるから安心しな。つまりこの国は完全なる平和な状態だ。
ミカミ レイ、俺はあんたをアダムス王国国民として迎え入れるぜ。あんたはこれからここの一般人だ」
「そうですね、隣国に不安の種があるのなんて、何処もおなじです。それでいてこれくらい平和なら、僕はここで暮らしたい」
「なら決まりだな。後なんか言ってない事あったっけ?」
「・・・あの、肝心な魔法は?」
「あ、忘れてた・・・」
頼もしい人だなと思ってたらこれだよ・・・
「うーん、魔法はなんたって魔法だ。実際の所科学的に魔法の発生の原因とかわかってねぇんだよな。発動にはそれぞれの魔法の一族の血を引いて生まれる事と精神力か。とりあえずなんか魔法だせるか?」
え、いきなり出せったって・・・さっきはどうやって、どうやるんだ?精神力って言ったっけ、とりあえず念じれば良いんだろうか?
僕は右手を前に突き出し念じてみた。ん、手が少しむずむずする。
『ボボっ・・・』
「あ、出来た」
手に炎が灯った、こうも簡単に出来て良いのか?大体ゲームじゃ魔法なんて途中で覚えるものじゃないか・・・もしかして最近流行りのチート系のパターン?さっきめちゃくちゃ大爆発起こしたし。
「えっとあの、ビーンさん?出来ましたけど」
「得意なのは炎か・・・」
うん、この反応はそこまでチート系って訳じゃないね。
僕はこの時集中を少し切らした。そして魔法が出せた驚きと色々な感情が合わさってビーンさんに言われるまで気付いてなかった。
「ん?あ!!ちょっ!!燃えてる!袖!!」
「え、あ!!ぎゃっ!うわっちぃ!!」
炎が僕の服の袖に燃え移っていた。僕は飛び上がりなんとかしようとする。そうだ、とりあえず反対の手で叩くんだ!!
『ばしゃぁっ!!』
「わっ!」
僕は慌てて左手で右の袖を叩こうとしたら今度は左手から水が出て袖の炎を消した。
「おー、あぶね・・・ってかそれより、やっぱり魔法は何種類も・・・」
こっちの僕が何種類の魔法も使える点に関してはどうやらチートクラスらしい、これがやっぱり変なのか。
「魔法は一つの一族に一種類なんでしたっけ?」
「そ、厳密に話すとさっき言った初代のアダムス王。そいつだけが全ての魔法を扱えたとされてんだ」
「あぁ、それが枝分かれして7つに分かれたって」
「そうそう、まずは火を扱うヒィ一族、上手い奴はその炎で害獣を丸焼きにしちまうが、大体は火種要因だな。キャンプした時火をつける人だ、後は焼き畑やったりとかか」
魔法ってそうやって使うのか。
「次に水を操るフゥ一族、あ、フゥ一族と言えば練度が高い奴が出す水って美味いのよ!それ使って米作った奴がいてよ!」
左様でございますか、にしても魔法で作られた水ね、少し怖いかも。
「んで土を扱うミィ一族。主に田畑を耕したりして生計を立ててるな」
これまでの魔法の説明で一つツッコミたい、なんでさっきから基準が農業?
「後は風のヨゥ一族と冷気のイツか」
さっきから思ってるんだけどひー、ふー、みー、魔法の一族の苗字って数えになってるの?
「それで確かビーンさんがムゥって言ってましたよね、確か能力は」
「電気の魔法だ、これ凄いんだぜ?俺クラスになればなんと毎月の電気代はタダなんだよ!」
あら、そうなの・・・確かにそれは便利かも。って、タダって言葉はあるの?なら、ゼロって概念は別にない訳じゃないのか?それにしても魔法の使い方がさっきから実用的だ、風の魔法で服を乾かしたり、冷気の魔法は夏場かき氷を作ったりとか多少使える程度なんだよね。
大々的に使えば兵器になり得る技術だけど、使いたがらないのかなんなのか。
「ま、魔法についても大体こんなもんか。さて、んじゃ役所で難民受け入れの申請に行くか、面倒くせーけど。あ、とりあえずお前の魔法は人前で使ったりすんなよ?予言の勇者なんていませんでしたの方がお前も良いだろ?さ、行くぜ行くぜ」
ビーンさんはそそくさと片付けてここから去ろうとした。
「あの、ビーンさん?なんでそんなにそわそわしてるんです?」
「いや、俺図書館ってのが昔から嫌いでよ、十分以上いるとまー出たくて仕方ないのよ」
あぁ、そういう事・・・単に嫌いなだけか。
僕たちは片付けて外へ、これからする事はその難民申請って奴をやるのか。
「ん?」
僕が外に出るとまた何か変な感じがした、誰かがこっちを見てる?そんな感じだ。
僕は周りを見渡す、しばらく探してようやく見つけた。
「どした?」
「あ、いえ」
「? 準備出来たなら行くぜ?」
ビーンさんは気がついていないのか。図書館に入る時も感じたのは紛れもない視線だった。多分5〜6歳かな?それくらいの女の子が僕を物陰に隠れるように見ていた。大分温かくなったこの春先に似合わない長いロングコートをズルズルと引きずりながら、女の子は僕を睨むように見ている。
なんだろあの子、あの顔は何処かで・・・僕はその子の方へ行こうとしたら、
「おーい、どこ行くー。役所は反対だぜー」
「あ、すみません」
とりあえず今は自分の事が優先か、ビーンさんも忙しいだろうし。
その役所は図書館のすぐ近くにあった。
「わりぃな、こんな感じでせっせか引っ張る感じでよ」
「いえ、ビーンさんも忙しいでしょうにありがとうございます」
「なに、これも仕事だ。それよりここがボーダー地区の区役所だ。ここで避難民申請と住民登録する。多分仕事とかも紹介してくれると思うぜ?」
成る程、それはありがたい。無一文は流石に困るからね、ここで出来そうな仕事か。この世界の技術なら家電の修理とかもいけるかも。
「あ、問題が一つあるな・・・レイあんた、そのミカミってのが名前なんだっけ?この世界で苗字を持ってんのは魔法族だけなのよ。さっきも言ったがこんな避難民が魔法を使えるなんてのはあり得ねぇからな。だから偽名を使いたいんだがミカミだけで良いか?」
いや、三上の方が苗字なんだけど・・・まぁ文化的に苗字は後に来る感じか。それに礼が名前だとこの世界だとなにかと面倒そうだな。慣れ親しんでるし、まいっか。
「そうですね、それでお願いします」
僕たちは役所の建物へと入った。