リメイク第一章 異世界の一夜
ウーーーーーッ!!
目の前でパトカーが止まった。このサイレン、日本のやつと随分と似た音だな。ちょっと違うか・・・パトカーから誰かが降りてきた。
「うわっ!寒っ!!どうなってるんですスチュワート隊長?確か火事の通報でしたよね?」
車から降りて来た警官の男の人は体を震わせながらビーンさんに質問してる。
「おめぇもかよ。何度も言わせんな、俺はもう隊長じゃねぇっての。とりあえずことの顛末は話しておいてやる。この火災は放火でよ・・・」
うんたらかんたら・・・
スチュワートさんは上手くこの出来事の説明をしてくれた。しかも僕に気を遣ってか、僕が異世界の存在である事を伏せたまま話をつけてくれた。
「って事は、この人たちのおかげで事件は既に解決したと?」
「肝心な被疑者は以前、逃亡中だけどな」
「彼の指名手配は我々にお任せ下さい、必ず捕まえて洗いざらい吐かせます。それにこの三人の容疑者からも、まだ聞き出せていない情報も持っているかもしれまんしね」
「あぁ頼む、直接関係ねぇ話からでも見つけられる真実がある。期待してるぜ、サム」
「そんなご謙遜を・・・それよりスチュワートさん、一つよろしいですか?」
警官はスチュワートさんに、恐る恐る質問した。
「あ?」
「この氷の壁、この先数百メートルは一面銀世界でしたよ。どうするんです?これ」
「まぁ溶けるのを待つしかねぇな。この急激な気温差に一部の機械が壊れたかもしれねぇが、大概放っておいても大丈夫だろ。ま、全部燃えちまいましたより全然処理が楽だろうぜ。一応言っておくが、壊れた家電とかあったら国の方で補償してくれよ?こうなった原因はアンドリューなんだからよ」
「・・・伝えておきます・・・」
こう言う事はしっかり言うのね。
「では、ご協力ありがとうございました、スチュワートさん」
警官は一仕事終えてスチュワートさんに敬礼した。
「俺ぁ特になんかした訳でもねぇよ。敬礼なら、このあんさんたちに送ってやんな」
「はっ!?そうでした!君たちのお陰で街の被害は最小限に抑えられました!心の底から感謝申し上げます!」
「あ、いえいえそんな・・・」
うん、こういう時は普通にコミュ障だな。良い返事が出来ないや・・・
「ところであんさんらよぉ、あのアパート燃えちまったろ。今日寝るとかどうすんだ?」
あ、スチュワートさんに言われるまで考えてなかった。当初はあそこで生活する予定だったんだよな。
僕の家になる予定だったところは燃えてダメになってる、被害はどんなもんだろう、とても住める環境じゃ無い。それなら他の住人もどうするんだろう・・・
「スチュワート隊長、調べがつきました」
ビーンさんがいつの間にかいなくなっていて戻ってきた。どこ行ってたんだろ?
「どうだった?」
「隊長の読み通りです。このアパート、レイの奴しか住んでませんでした。他はもぬけの空です」
「やっぱな、変だと思ったんだよ。ここはまだ入居者募集中で来月から入居予定だったのに急に早まったからな。ってな事らしいぜあんさん?」
スチュワートさん、そんな事を調べさせてたんだ。ってか仕事早いな。そう言う面で見るとカッコいいのかなビーンさんも。僕はちらっとビーンさんを見た。
「ん?何見てんの?」
「いやなんでも」
「・・・俺だって戦うだけの馬鹿じゃないよーだ」
あれ?さっき活躍の場が無かったから拗ねてる?
「にしても困ったな、中央行きの列車は、もう出ちまったから切符は明日しか用意出来ねぇんだ。それにホテルはここらにはねぇし、ターミナル駅の西ボーダー周辺も明後日の高速鉄道開通式典のマスコミどもがホテル埋めちまってる。ビーンはまだおめぇ寮だろ?扶養家族なんていねぇもんな?」
「生まれてこの方彼女すら・・・いないっす」
それは確かにほんと困ったね、ってか高速鉄道があるの?
「な、なら俺の家空いてるぞ!」
突然住人の一人が手を挙げた。
「ばぁちゃんが死んで今一人なんだ、一晩くらいなら泊められる。こんなんでダストへ詫びれるのか分からないけど、せめて俺の謝罪と感謝の気持ちだけでも示させてくれ」
成る程、そう言う事。
「な、なら私も!!」
「儂んとこも空いとるぞ!?」
住人のみんなは次々に手を挙げた。とりあえず今日を凌げれば良いんだよね。だったら、誰でも良いか。何か話せる事もあるかもしれない。
「なら」
「みなさんちょっと待ってください」
僕が声を出そうとしたら警官の人が静止した。
「皆さまの意見はありがたいですが、アンドリュー区長はまだ発見出来てません。彼が以前この二人を狙っているのなら皆さまも危険になります。ですので本日は我々管轄の西ボーダー署で匿います。二人には感謝の言葉で十分ですよ」
あー、そこまで考えが至らなかった。それで住人たちも納得してる。
うん・・・普通だよな、僕ってこれくらいの脳みそしかない筈だ。うーん、何だったんだ?アンドリューさんを追い詰めた時のあの感じ・・・異様な興奮と冷静さ、全てを理解出来るような感覚。思い返すと少し怖いな。
「では参りましょう、ビーン隊長もどうぞ乗って下さい。西ボーダー署まで送りますから。後、明日はお任せしてよろしいでしょうか?」
「おぅ、悪いなサム」
僕たちはサムって警官の人が乗るパトカーに乗り込んだ。
「じゃぁ兄さんは容疑者とこれらの証拠品をお願いするよ」
「サム、今は任務中だぞ、今はジョニー巡査長だ」
「あ、すみません巡査長」
もう一台、この人の兄なんだ。そしてサムさんは運転席に乗り、発進させた。
「そう言えば自己紹介してませんでしたね。私はサム・ヨゥです。これでも一応風の魔法の一族なんですよ。レイさんはエイド出身の魔法族なんですよね?エイドの魔法族ってよく分からない事が多いんですよ。数百年前の時点でエイドの魔法族は数える程しかいなかったらしく、そしてあの男の襲撃の後は、エイドから魔法族はいなくなったと聞いていて・・・」
分かってたけど、しーんとしてるのは気まずいと思ったのかサムさんは質問をしてきた。ボロを出さないように話を合わせよ。
「あー、そうらしいですね。そもそも僕が魔法族だって事もつい最近まで知らなかったんですよ。知ったのはほんとボーダーへ到着する少し前、ビーンさんに助けて貰った時なんですよ
「へー、エイドの文化を私はよく分かっていないんですけど、知らない人は魔法族と知らずに生まれてくる人もいるって事なんですね。それでレイさんは魔法を複数使えるんですよね?」
「あ、そう言えばこちらは一つの一族に、一つの魔法を授かるんでしたね。僕はエイドの西の端の方出身で、そこには複数の魔法を使う人がいたんですよ。けど、その人たちもいなくなってしまいましたけど・・・」
「あ・・・申し訳ありません。嫌な思い出を思い出させてしまったみたいで」
「あっ!いえいえご遠慮なく!」
もちろんデタラメだ。けど、スチュワートさんにこう言われた。エイド王国の西の端はまだ未開の土地があるから、そこの事を適当に話し作ればどんなめちゃくちゃな話しをしても大抵何とかなるらしいって。清々しい程上手く行った。
「あ、ありがとうございます。はぁ、いつかはエイドの西の奥に行ってみたいなぁ、まだ私たちの知らない世界があるって私は信じてます」
この人、警官よりトレジャーハンター気質な人だな。
「あ、そうだ!それなら先程スチュワートさんが少し話してました高速鉄道の話しでもしましょう。明日あなた方が乗る西ボーダー総合駅から中央まで結ぶ予定の鉄道なんですけど、現行の鉄道では西ボーダーから中央までは十二時間以上の長時間運行で、基本的に夜行列車を使う人が多いんですけど、高速鉄道が開通したなら何とその半分くらいの六時間で行けるんです。最高速度は何と二百五十キロなんですよ!」
サムさんは興奮気味に話す、普通に旅行が好きな人みたいだね。けど、高速鉄道で時速250キロ、東京〜博多までくらいかな?
「へぇ、そうなんですね」
「開通は明後日で、明日は昼行の特急を使うらしいです。朝五時発ですのでよろしくお願いします。あ、中央行くなら記念式典が開催されるらしいですよ?」
僕たちはそんな会話をしながらいつのまにか西ボーダーと呼ばれる場所まで来ていた。
あの国境の壁をひたすら北に向かうと途中で壁が横に曲がるとこがあって、地図で見ると少しだけ西側に飛び出した部分がある、そこが西ボーダーらしい。かつてエイド側との貿易の中心になった街との事だ。
けど結構長かったな、同じボーダーって付いておきながらここに来るまで2時間近くかかった。そもそも、地区って言ってるけどこれ、一つの地区の大きさってめちゃくちゃ広い?
「ここが西署になります、ここの仮眠室をご利用下さい」
比較的大きな建物だ、街の雰囲気も少し変わった。走る車は大型のダンプやトラックが多い、そして並行して走ってきた運河周辺には倉庫が沢山並んでる。まさに貿易の街だ、ここから鉄道や船、陸路で色んな物を運ぶんだろうか。
その景色を横目に僕たちは警察署に入った。そして街の雰囲気とは真逆の感じの和室に案内された。
「今日はここでお休み下さい、風呂も布団もご自由に使って下さって構いませんので」
「あ、色々ありがとうございました」
「いえいえ、では後はビーン隊長にお任せしてよろしいでしょうか?」
「おうよ、後は任せておきな。サムはどうすんだ?」
「私は別の仕事がありますので、管轄の派出所へ戻ります」
「ひえ、結構距離あるぜ?おめーも頑張ってんなー」
「いえいえ!そんな私なんて!!」
また謙遜してる。サムさん、何となくだけど警官よりもビーンさんみたいな軍の方に憧れてるんだろうか?そんな感じがする、サムさんは敬礼して部屋を後にした。
「もう夕方過ぎたなぁ、早くお風呂入りたいよ。もうくたくただぁ・・・」
「ははっ!流石の勇者様でも疲れるのか!」
ビーンさんはまだ元気そうだなぁ・・・
「ま、いきなりこんな目に遭ってんだ。仕方ねぇよな、んじゃ、俺もそろそろ行くわ」
「え?どこ行くんです?」
ビーンさんも部屋で少し座ったらまた立ち上がった。
「俺も仕事だ、あの三人の取り調べとかにも同行しときたくてな、お前達は休んでろ。んで、明日は早いからな?寝坊すんなよー」
そしてビーンさんもいなくなった。
「ふぅ〜・・・にしてもほんと疲れたぁ、お風呂入れよ」
僕はお風呂場に向かい、ステンレスの小さめの湯船に湯を張る。温度は、ダストも入るから少しぬるめにしておこう。って、ん?視線?
振り返るとダストはお風呂場を物珍しそうに見ていた。
「どうしたの?」
「こ こ なに?」
風呂
それ以外なんて説明すれば良いの?
まさかとは思うけど、この子・・・風呂入った事ない?ホームレスだったからか?髪ボサボサだし・・・
「えっと、君は身体ってどうやって洗ってたの?」
「か わ と あ め?」
川と雨・・・マジか、
「あー・・・なら、一緒に入る?」
こくり・・・
5歳とは言え、他人の女の子と一緒に風呂か。恥ずかしいと言うか、ロリコンだのペドフィリアだの言われそうな気がして後ろめたいけど・・・仕方ないか。これくらいの子は男湯にもお父さんと一緒によくいるし。
「じゃぁバンザイして。服脱がすから」
ばんざーい。
僕はダストの身体を洗ってあげた。そして髪を洗おうとしたら
「わーっ!!何だこれ!!硬っ!!バッキバキになってるじゃん!!」
ダストの髪は傷み過ぎて手櫛なんて以ての外だった。
「んーっ!ここじゃトリートメントなんて置いてないか、まぁ良いや!ちょっとちゃんと目を瞑っててね!!」
シャンプーとリンスのボトル一本使い果たした。ある程度はボサボサ具合は治ったけど・・・まだハネが気になるなぁ・・・
「め いた 」
ダストは目を開けられず手をワナワナさせてる。シャンプー、目に入っちゃったか。
「で る」
「あーちょっと!!ほら、湯船に浸かって!!100数えなさい!」
目が痛いのが嫌なのか、ダストはすぐ出ようとした。僕は半ば強引に湯船に入れた。にしても100数えろって・・・僕はお母さんか?
さて、その間に僕も身体と頭洗うか・・・あ、シャンプー使い果たしたんだ・・・僕は無理矢理シャンプーボトルを叩いて少ない量で頭を洗った。うー・・・髪がパサつくなぁ。
僕とダストは風呂から上がって、ドライヤーで髪を乾かす。そしてその中、僕は考え事をした。
お父さんとお母さんは心配してるだろうなぁ、今頃警察に通報してるかも。帰る方法はあるんだろうか、そもそもなんでこんな世界に飛ばされたんだろ。国王に聞いて何か分かったりするのかなぁ・・・
ダストの髪を乾かし終わったら僕は布団を敷いた、ダストは布団の入り方も知らなかった。仕方ないから一緒に布団に僕は入った。
疲れた・・・もう考える気力もない、今日一日で色々起き過ぎだ。明日、起きたらいつもの日常になってたりしないかな・・・
ぎゅ・・・
ダストももう寝ちゃってる。身体を丸めて僕の腕にしがみつきながらこの子は寝ていた、僕を親の代わりに思ってくれてるのだろうか。
これが現実でも非現実でも、僕は多分、この子を見捨てられないな・・・僕は生まれてまだ彼女も作った事ないから、親になる感覚は分からない。でも、守ってあげたいと思った。
今になって感じたよ、僕がこの世界で何とかなったのは君のおかげかも。僕と君は似てる、出会うべくして出会ったのかもね。
僕は君を救ったけど、同時に救われてたんだ・・・多分、今の僕にはダストは必要な存在で、ダストもまた僕を必要としてる。
神様さ、ほんと都合のいい風に人生を選択させるよな・・・分かったよ、僕はこの子の親代わりになってやる。だから
「頑張ろ・・・」
もう瞼は開けてられないな・・・僕はそのまま完全に眠った。




