リメイク第一章 異世界の勇者 その3
「・・・レイだと?馬鹿な事を、笑わせないでくれ、あんな本の切れ端の存在だと言うのか?ふざけるのも大概にしたまえよ!」
本気で怒られた、何で怒るんだ?言わせたのは区長、あなたじゃない。
「僕は正直に言ってますよ。僕は礼、あなたはそれが聞きたかったんじゃないんですか?僕の正体が例のその、予言かなんかの存在だってさ。まぁ僕は正直そんな存在だなんて思ってませんけどね。朝、通勤中に気がついたらここに飛ばされたんですよ。僕はそれだけです」
「どちらにせよ、異世界の存在である事は認めるか・・・ならば!」
「おっと・・・俺の見せ場が無かったから、ここはしゃしゃり出るぜ?アンドリュー区長」
「ビーン・・・」
動こうとした区長さんをビーンさんはその前に槍を突き付けて動きを止めた。
「なぁみんな、アンドリューの奴は、俺まで殺そうとしたんだぜ?これどう思う?俺はただこの男を街の外でバケモノに襲われてたのを拾っただけなのによ?」
「あ、そう言えばビーン隊長、なぜそちら側に?」
さっきから僕の隣にいたじゃん。もしかしてビーンさんって案外影薄い人?
「今言っただろうが!俺はアンドリューのこのようわからん暗殺計画に巻き込まれたの!! まぁ一応このレイって名前はこいつ自身から聞いてるには聞いてる。それにあのさっき見せてた機械もな、なんでもこの世界より五十年位先の技術らしいぜ?未来の録音装置なんだってよあれ!」
「いやこれ録音装置ってより電話に近い・・・ってそんな事はどうでもいいや。それより、アンドリューさん。そろそろ話してくれませんか?どうして僕は死なないといけないんです?」
「・・・・」
ぶちっ!!
「っ!!いい加減にしてくださいよ!!いつまでこんなくだらないやり取りを繰り返せば良いんですか!?僕はただ普通に暮らしたいって願った!!予言も何にも関係なくね!!僕はこんな争い事なんてごめん被る!!だから混乱を避けたくて偽名を使ったんだ!!僕ね!暴力は好きじゃないんだ!!けど流石に我慢の限界が来てんの!!だから早く認めてくださいよ!!自分の罪を!!そして真実を話して下さい!!僕だけこんなに話して!あなたは話さないのはそれは理不尽ですよ!?」
いい加減頭に来てた、と言うか精神に来てた。いつまで経っても目は覚めない。ここは現実、存在する世界。なら腹を括ってここで暮らせば良い。なのに物語は決まっているかの如く僕は巻き込まれた。
流石に参って来てるんだ・・・頭が置いていかれそうなんだよ。早く終わってくれ、頼むから!!
「・・・分かった。認めよう、私はダストとこの避難民、ミカミを殺そうとした」
「で?」
「だがな、これはここの市民みんなが思っていることではないのか?以前、エイド王国からの避難民を大量に受け入れたとき、その年の犯罪が急増した。それに対し住民は、何とかしろと言ってきた。
だから私は、重犯罪者は処刑するようにさせた。それで犯罪は激減した。そして今度は、ダストと呼ばれている子供が恐ろしいと言われた。『目の前を歩けばいつ氷漬けにされるかわからない』とか『あの顔を見るだけで生きた心地がしない』とか様々な意見が入ってきたんだ。
それで私は何とかしようとした。すべては、ここの市民すべてを思ってのことだ。お前らを殺せば、少なくともこれからの犯罪者数は減るだろう。私は、区長としてこの町から犯罪を消し去りたいだけなんだ!」
区長さんは少し涙を浮かべながら訴えるように声を上げた。
「あのさぁ、いい加減にしてよもぉぉっ!!!君の正義感何て誰も聞いてない!!あなたの言葉で住民は納得するかもね!!でも僕は!?僕は何なんだ!!
あなたはいいですよね!!この様子!見るからにあなたはこの街の人たちに慕われてる!その期待に応えようとしてるのはよーく分かったよ!時には黒い事をしてでも、この街の平和に尽力して来た!!
けど、そのせいで犠牲になる人がいるんだ!!この子みたいに!!この子は本当は優しくて平和を愛してる子だ!!なのにこの街はなんだ!?この少し不器用なだけな子を見捨てて、街の敵に仕立て上げた!!そして僕諸共殺そうとした!!この子はね!ただコントロール出来なかっただけなんだよ!?」
「戯言だ!ダストは言葉が話せない、なのに何故こいつの心がわかると言うんだ!!」
かっちーん・・・この野郎いい加減にしろよ。
「はぁ!?言葉なんて無くても、この訴えてる目ですぐ気が付きますよ!!あぁそうか、あなたいつもニコニコ笑って人の目なんて見てなかったですもんね!なんかの漫画で言ってましたっけ、見るじゃなくて観る、聞くじゃなくて聴く。僕はこの子に会って少し話して一緒にちょっと歌っただけだ。それでもこの子は僕に心を開いてくれた。僕はこの子の心が分かったんだ。そう、あなたの敗因はこれだよ、あなたは平和を願うばかりに心を閉ざした。観る事も聴く事もやめたから、君は僕に追い込まれたんだ」
「私が・・・追い込まれただと?」
この人、まだ僕を睨むのか。この憎しみに近い感情はなんだ?追い込まれて恨むのならわかる。結局教えてくれないのか?
「お前が本当に何も知らないと言うのなら、それは気の毒だな。同情する、勝手に殺そうとして申し訳ない。だが、いずれお前は自ら知る事になる。予言の勇者、お前はいずれこの世界に不幸を招くだろう!まさに、今のこの私と同じように!いやあの男と同じ!いいや!それより強大な力を持ってお前は世界のあらゆる平和を壊す!だから私は!私の正義を貫く!!」
「っ!!」
胸元に激痛が走った・・・あの人、やっぱり只者じゃ無い。全く予備動作もなく区長さんは懐から出した拳銃を僕に向かって撃った。
しかも、完全に心臓を撃ち抜いてる。こんな早撃ち、相当訓練した人じゃないと無理だよ。
「くっ!!レイッ!!」
ビーンさんが僕に気を取られた瞬間逃げ出しまだ燃えてる建物の方へと走って行ってしまった。
僕は倒れ込んだ・・・けど、地面に突っ伏してはいない。片膝をついて倒れるのを堪えた。
「おい!大丈夫か!?待ってろ!!今!!」
今は流石にふざけるの気はないみたいだ。
「それよりも・・・せめてさっきの3人を、拘束してください・・・これ以上逃すわけには、行かない」
「んな事分かっらぁ!!それよりも最優先はお前だろ!!心臓を・・・撃ち抜かれて?」
ビーンさんは僕の怪我を見て固まった。それもそうだろ、僕の怪我はもうほぼ治りかけている。もう痛くない、なんなら立ち上がれる。流石魔法だ、傷の治療も出来るのか。即死しなくてセーフと言うべきか。
「確か回復の魔法は・・・あの時、僕はもっと酷い怪我してたんだ、この程度なら!!」
僕の手元が少し明るく光が灯った。そして左胸の傷は完全に消えてなくなった。
「ふぅ!」
僕はスッと立ち上がった。
「・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・・・」
「あれ?どうしたんですか?」
みんなしてぽかーんと僕を見てる。ダストもだ、長い前髪で顔がよく見えなくても、それでもわかるほど目を丸くしている。
「なぁ、確かにこの世界にはナナ一族の回復の魔法はある。けどな?大概治せるのは軽い擦り傷、トップクラスの奴らでも数日かけて骨折を治せるんだ。そもそも、心臓を撃ち抜かれてふつーにしてるのはおかしいの」
言われてみれば、普通死ぬよね?心臓を撃たれたんだよなそう言えば。
「確かに・・・」
「お前の世界の奴らってみんなこうなの?戦闘民族かなんかか?」
「いや、普通に人間の筈なんですけどね・・・うーん、ビーンさん。僕って何なんです?」
逆に聞き返した、それほどまでに今の僕がよく分からない。何なんだこれ、感覚がおかしい。あり得ないをあり得ると思ってる。
「質問を質問で返すなって学校で習わなかったか?まぁ少なくとも俺にとってお前は敵には見えねー。少し変なとこがあるが、アンドリューの奴が言ってたようなやべーやつではねぇだろ、お前らもそう思わないか?こいつは人畜無害って感じはするのは間違いないだろ?」
ビーンさんは街の住人たちに呼びかけた。
「うん・・・変わった感じの子ではあるが、区長さんが何で殺そうとしたのか・・・そもそも勇者ならこの世界を救う存在のはずだよな?」
「だろ?あの人こそよーわからんのよなー・・・」
ビーンさんは街の人たちと会話しながら僕は無害である事をアピールしている。
「あれ、これって・・・」
僕は足元に何かあるのを見つけた。これは僕を撃った銃だ、一発撃つごとに弾丸を一々込め直す必要のある兵器。通称、フリントロックピストル。何でこんなアンティークなものをあの人は使ったんだ?
「ん?どしたー?」
「区長さん、これで僕を撃ったみたいですね」
「な、なんだこれ?見たことないぞ?」
住民の人も覗き込んできた。相当物珍しいみたい・・・寄ってたかって。
「大砲・・・かしら?」
「それにしては小さい、でも原理は同じっぽいぞ?」
「おいおい!お前らそれにベタベタ触るな!貴重な証拠品だぜ!?それよりもこいつは拳銃だな、最近開発された武器なんだよ、弓矢より小さくてより強力な中、遠距離用の武器だ。簡単にいやぁ大砲をポケットに入れちまおうぜってのが始まりなんだけどよ」
ビーンさんはハンカチを取り出しそれを使って銃を拾い上げた。それより気になったのは、これが最近開発されたって話だ。この銃が最新なら、この国の兵力って何世紀前なんだ?
「けどなぁ、これ一発撃つごとに装填し直さなきゃならねーの本当めんどくさいんだよ。一回訓練で触ったけど何、あのごちゃごちゃとよ」
ビーンさんはブツクサ言いながら銃を丁寧に袋に入れてしまった。
「僕はこーゆーやつ好きですよ、アンティークで。装填も趣があるし」
「あんてぃーく?なんだ?ってか、あんたらの世界ならこれ主流なんじゃねーの?」
「いや、何というかこれは僕からしても化石と言うか、何百年以上前の代物なんですけど。そもそも僕の国じゃ、これ持ってるのは犯罪なんですよね」
「そーなの?確かにやべー代物だもんなー」
ここの話は適当に流された。
「それよりも、早くここに倒れてる3人を縛りますよ。ってあれ?」
僕があの3人から目を離したのは一瞬だ。倒れてるのを確かめてからビーンさんに話を終わらせて拘束するように言ったのに。拘束は既に完了してた・・・
「おぅ、それなら俺がやっといたぜ?あんさんわりーな、ビーンのやろう、話し出したら夢中になるもんでよ。それよりビーンおめぇ、話に夢中になるのは構わねぇが、敵から目を逸らすのはどういう事だおらぁ。このあんさんはずっと見てたぜ?」
やっといてくれたのは60代後半かな?白髪に髭を蓄えたダンディなおじいちゃんみたいな人だ。そして、この人が現れた瞬間、ビーンさんの態度が急変した。
「も、申し訳ありません!!スチュワート隊長!!」
突然背筋を伸ばして敬礼のポーズをとった。
「だーからなんべんも言わせんな、俺ぁもう隊長じゃねぇっての。ただの工場勤めのしがないおっさんだっての!」
「いだだだだだ!!!」
え、いつの間にかビーンさんは関節をキメられていた。
「ってなわけで、あんたが例の勇者ってか?」
「勇者ってそんな器じゃないです。あの、三上 礼です」
「そうかしこまるな、俺はスチュワート。嘘偽りない事を言うと俺ぁ元国王護衛部隊隊長だ。今は退役して港近くにある金属加工工場の工場長やってる、よろしくなレイ」
あの、工場長も結構かしこまるけど、その前なんて言った?国王護衛部隊?僕は結局ガチガチで握手した。
「へっ、さっきのアンドリューに見せた堂々っぷりはどーした?俺にもあんな感じで全然構わねーぜ?」
いや、いきなり国王護衛部隊でしたって言われて驚かない人はいないよ。緊張感するよ誰だって・・・
「まぁすまねーな、俺ぁ隠し事は嫌いなたちでよ。ついつい全部話しちまうのよ」
あれ?心の声にタイミングよく被せて来た?嘘でしょ?僕はスチュワートさんをチラッと見ると。ニヤリと笑い返された。この人心読めるタイプの人だ・・・
「うっ・・・」
このタイミングで縛っていた3人のうちの1人、ワンコが目を覚ました。
「さて、お待ちかね尋問たーいむか?あんさん、聞きたい事山ほどあんだろ?聞いてみろよ、俺ぁ眺めてっからさ。異世界の勇者の尋問、これほど面白ぇ組み合わせは中々ないぜ?」
スチュワートさんを一言で表すならこれしかない、ドSだ。




